マーケティングの世界に求められるダイバーシティの考え方について
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2021.2.24
企業にSDGs(持続可能な開発目標)に対する貢献が求められる中で、ビジネスの世界で「ダイバーシティ/多様性」が必要と言われることが増えてきています。普段何となく使われている、使っている「ダイバーシティ/多様性」をもう一歩踏み込んで考えてみましょう。
組織に「ダイバーシティ/多様性」を実現することに、どんな意味があるのでしょうか?
本記事では、この問いに対する答えを、マーケティングの視点から考えていきたいと思います。ビジネスの視点で、いま多様性と向き合うことの意味を掘り下げていきます。
執筆:黒澤 友貴 Tomoki Kurosawa
マーケティング視点でダイバーシティ/多様性を捉える
マーケティングの視点で考えるとは、『市場や顧客』の視点で考えること、とここでは定義します。
例えば、「顧客が求めていることを理解して、商品/サービスを適切に届ける」ことは、マーケティングに求められる役割です。
結論を先にお伝えすると、「顧客視点でダイバーシティ/多様性を捉える」ことが重要になってきます。
組織をとりあえず多様化することは無意味です。
- 企業が持続的に成長するためには、顧客のニーズに応え続ける必要がある
- 顧客の多様化するニーズに応えるためには、組織が多様性をもっていることが重要
このように考えると、流行りに乗っかっただけのダイバーシティ推進で終わらず、企業価値の向上につなげられるのではないかと思います。
ここから、組織に多様性を持ち込み、顧客のニーズを理解する取り組みについて具体的に考えていきます。
顧客起点でダイバーシティを考える動き、事例
デジタルマーケティングやデザインの世界では、障がいのある人、高齢者など特別なニーズをもつユーザーと「共創」する体験をデザイン/マーケティングプロセスに組み込む動きがとられはじめています。
例えば、ヤフー株式会社では、障がいのある方をデザインのプロセスに巻き込み、『誰にとっても使いやすい』デザインを追求しています。
また、クラウド会計ソフトのFreeeも同様の取り組みをされています。
ユーザーの利用環境が多様化するデジタルプロダクトでは、開発やデザインプロセスに多様性を持ち込むことが推奨されています。
これらの動きに共通するのは、多様性を実現することが手段ではないという点です。
顧客のニーズに応えるため、さらにはプロダクトやブランド価値を高めるために多様な人と向き合っています。
ダイバーシティ/多様性は、ブランド価値を高める、持続的に成長するための手段、と捉えられた方が、無理なく組織に浸透させることができるのではないでしょうか。
マーケティングリサーチに多様性を取り入れる
もう少し具体的に、マーケティングやデザインの仕事にダイバーシティ/多様性を組み込む方法について整理していきます。
どの企業であっても取り組みやすいのは、ユーザー調査に特別のニーズがある方を巻き込むことだと考えています。
例えば、下記のようなアクションは今すぐにでも実践が可能だと考えています。
- 視覚に障がいのある方に、自社のホームページを閲覧してもらいフィードバックをもらう
- 自社の商品やサービスを、何かしらの障がいがある方に使ってもらいフィードバックをもらう
ビジネスの世界で注目を集めるキーワード「デザイン思考」でも、エクストリームユーザーと呼ばれる極端なニーズある人へのインタビューが推奨されています。
多様性と向き合うことで、自分たちの思い込みを取っ払い、新しい視点で顧客や市場ニーズを捉えることができる可能性が高まります。
最も手軽にできるのは、自社WEBサイトの体験をチェックすることからだと考えています。
実際に、私が実践している方法をご紹介します。
メディア構築時に障がいのある方や高齢者に使ってもらいフィードバックをもらいます。
①観察:視覚障がい者にサイトを使ってもらう
②対話:視覚障がい者と体験について話す
③批評:視覚障がい者から批評をもらう
上記取り組みの目的は障がいのある方向けに商品/サービスやコミュニケーションを最適化することだけではありません。
障がいのある方や高齢者などの、特別なニーズを学び、そのニーズを深堀りすることで、顧客に共通する潜在ニーズに気づくことが重要です。
例えば、視覚に障がいのある方がWEBサイトから離脱してしまう要因は、健常者が急いでいる中で使っている時に離脱してしまう要因と共通しているかもしれません。
このように、まずは自分たちのサービスレベルをあげるために、身近なことから多様な人を巻き込むことで、ダイバーシティを実現する意味を考えていくことが、自然な流れだと考えています。
まとめ
障がい者雇用についても、マーケティングやデザインといった仕事との接続をし、顧客や市場の多様化するニーズと向き合う機会と捉えられると、新しい可能性が見えてくるのではないでしょうか。
- 組織に多様性を持ち込む意味は、顧客ニーズの多様化に適応するため
- マーケティングやデザインリサーチの領域は、多様性と向き合う機会としやすい
- 大袈裟なものではなく、まず小さなアクションからはじめてみる
とりあえずではなく、経営にとって前向きなダイバーシティ/多様性推進の動きを増やしていくことに繋げて頂いたら幸いです。
Text by
Tomoki Kurosawa
黒澤 友貴
1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室CMO。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに9,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを主宰。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」出版