障害者雇用で知っておくべき基礎知識5選(3)障害者総合支援法とは
~就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援~
1 1
2021.4.26
ここでは障害者雇用に初めて挑戦する人事担当者のために分かりやすく、(1)障害者基本法(2)障害者雇用促進法(3)障害者総合支援法(4)障害者差別解消法(5)障害者権利条約の5つに絞り障害者雇用に関連する知識を法律と実態を照らし合わせながら紹介していきたいと思います。
前回は、(2)障害者雇用促進法にある障害者納付金制度について解説しました。今回は、(3)障害者総合支援法について解説したいと思います。
執筆:中塚 翔大 Shota Nakatsuka
障害者総合支援法とは
障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)は、「働きたい」「遊びたい」「一人で暮らしたい」などの障害の有無にかかわらず、個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営むことができるよう、障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会を実現することを目的としています。
また、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるもの」との障害者基本法の理念にのっとり、以下に留意し総合的かつ計画的に支援する必要があります。
- 社会参加の機会の確保
- どこで誰と生活するかについて選択する機会の確保
- 地域社会における共生の自由を妨げないこと
- 日常生活または社会生活の障壁となる一切のものの除去に資すること
人事担当者が知っておくべき4つの支援
障害者総合支援法は、目的・理念のように障害者の自立を支援する給付金や社会生活を支援するための訓練などの給付、相談支援や地域生活支援事業、個人や福祉・地域サービスに対する法律となります。
ここでは障害者雇用を担当する人事担当者が人材の採用と定着において関係する4つの就労系障害福祉サービスに焦点を当て説明したいと思います。
- 就労移行支援事業
- 就労継続支援A型事業
- 就労継続支援B型事業
- 就労定着支援事業
就労移行支援事業
就労移行支援事業とは、就労を希望する障害者で一般の企業・事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対し、以下4つの支援を行う事業所です。
- 生産活動や職場体験などの機会の提供、その他の就労に必要な知識および能力向上のための必要な訓練
- 求職活動に関する支援
- 障害の適性に応じた職場の開拓
- 就職後における職場への定着のため必要な相談
利用期間は原則として2年、必要性の認定により最大3年間の利用ができます。
一般の企業・事業所での就労を目的としており、業務上の必要なスキルアップだけでなく、職場適応のための障害特性に応じた訓練が受けられ、障害者雇用に積極的な企業の多くが採用チャネルの1つとして有効活用しています。
支援員の面接の同席だけでなく、入社後も人材の定着支援が受けられるため初めて障害者雇用に取り組む企業にはオススメです。
就労継続支援A型事業所
就労継続支援A型事業所とは、就労を希望する障害者で一般の企業・事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して就労および生産活動の機会の提供、知識・能力の向上の支援を行う事業所です。
一般の企業・事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者とは以下の通りです。
- 就労移行支援事業を利用したが、企業などの雇用に結びつかなかった者
- 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業などの雇用に結びつかなかった者
- 就労経験のある者で、現に雇用関係の状態にない者
利用期間の制限はなく、一定の支援を受けながらリハビリや訓練も兼ねて就労経験を積めるため、特例子会社への就職や就労移行支援事業所を経て一般の企業・事業所への就職を目標とする方々が多く在籍しています。
仕事内容は、カフェやレストランでのパンやお菓子の製造・販売、パソコンによるデータ入力、梱包などの軽作業や農業などさまざまですが、マニュアルが整備されたルーティンワークが多いため、一般の企業・事業所内での明確な業務の切り出しが可能な場合、人事担当者は採用チャネルの1つとして検討して良いでしょう。
就労継続支援B型事業所
就労継続支援B型事業所とは、就労を希望する障害者で一般の企業・事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して就労および生産活動の機会の提供、知識・能力の向上の支援を行う事業所です。
一般の企業・事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者とは以下の通りです。
- 就労経験があり、年齢や体力の面で一般の企業・事業所に雇用されることが困難となった者
- 50歳に達している者又は障害基礎年金1級受給者
- 上記に該当せず、就労移行支援事業者などによるアセスメントにより就労面に係る課題などの把握が行われている者
利用期間の制限はなく、在宅勤務を前提とした入力やチェック作業などネット環境やオフィス機器の発展により雇用可能性が広がりつつあるため業種や業務形態によっては採用チャネルの1つとして検討して良いでしょう。
就労定着支援事業
就労定着支援事業とは、一般の企業・事業所に新たに雇用され6ヶ月が経過した者に対して就労の継続を図るために、障害者を雇用した企業・事業所、障害福祉サービス事業者、医療機関などとの連絡調整、雇用に伴い生じる日常生活または社会生活を営む上でのさまざまな問題に関する相談、指導及び助言などを行う事業です。
以下全てを満たす者が対象となります。
- 就労移行支援、就労継続撰、生活介護、自立訓練の利用を経て一般の企業・事業所での就労をする者
- 環境変化により生活面・就業面での課題が生じている者
- 一般の企業・事業所で就労後6ヶ月を経過した者
利用期間は3年間となり、現在では多くの就労移行支援事業所が就労定着支援事業も展開しているため、採用から定着までを一貫して支援してもらえる体制も整いつつあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
障害者雇用においては障害種別により異なりますが、1年間での離職率30~50%程度を推移しており、採用だけでなく定着が大きな課題として挙げられます。
初めて障害者雇用に取り組む人事担当者は、まず企業内での業務内容を明確にすること、そして業務に適した採用チャネルを活用することが求められています。
受入れ部署が抱える漠然とした不安は偏見や差別にも繋がりかねませんので、外部の専門知識や経験など活用できるツールは予め把握して準備をしておくと良いでしょう。
Text by
Shota Nakatsuka
中塚 翔大
1985年生まれ。多様性を推進するプロジェクト『パラちゃんねる』の管理人。人材派遣・人材紹介など就職・転職支援に精通し、延べ1万人以上のキャリア支援の経験を持つ。耳で聞くラジオ、目で読むコラム、自由な出会いの求人サイトを運営し、障害のある方々含め多様性の浸透に向け活動を続けている。