車いすユーザーの私が自分の取扱説明書を職場で共有したときの話
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2021.11.28
電動車いすユーザーの私は、養護学校の高等部を卒業後、一般企業で働き始めました。仕事を始めたばかりの頃の私はわからないことだらけでしたが、職場の皆さんも私の身体のことでどのように対応したらいいのか悩んでいたと思います。そこで私の取扱説明書を書くことになったときについてまとめてみます。
執筆:佐々木 美紅 Miku Sasaki
私は脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの病気のため、電動車いすで生活しています。
脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚など全身の筋肉を動かす脊髄の細胞に異常があり、筋力が低下していく進行性の難病です。
養護学校高等部を卒業後、夢だった仕事を開始しました。仕事を始めたばかりの頃は、自分の身体の状態を理解して、伝えていくことで仕事が順調に進んでいくということに、なかなか気がつきませんでした。それはきっと採用してくれた会社も同じだったと思います。
私が「この会社で働きたい」という気持ちはすごくわかってくれていたと思うのですが、重度障害者の私を採用したものの、どんな仕事を与えるべきなのかと悩んでいたのではないかと考えます。
採用面接でのやり取り
一社目では、ほとんど身体のことは聞かれませんでした。筆記試験と簡単な面接を行ったのですが、アルバイトのような扱いだったのでさほど詳しく聞く必要がないと判断されたのかもしれません。
二社目では、コールセンター業務だったこともあり、電話対応ができるかどうかということをメインに聞かれた記憶がありますが、それだけでした。
三社目では、採用面接の時に自分の障害のことを話したのですが、ものすごく詳しく話したわけではありませんでした。過去に働いていた経験があるということと、どんな気持ちで働きたいのかという心の部分をメインで聞いてくれました。身体のことだけを聞くのではなく、私の仕事への意気込みなどを聞いて、採用してくれたように思います。
全ての面接で「会社としてどんな配慮が必要ですか」ということは聞かれました。
- 自分の病気のこと
- 車いすで通れるスペースが必要だということ
- 車いすで入れるお手洗いが必要ということ
最低限、 これが私の配慮事項だとお伝えしましたが、実際に働いてみなければ私も他にどんな配慮が必要なのかわからなかったので、具体的に、そして数多くは伝えられませんでした。
仕事を依頼された時のドキドキと不安
三社目の話ですが、入社後、上司は私にどんな仕事を頼めばいいかを悩んでいるようでした。私もどんな仕事を頼まれるか緊張していました。
これは、普通にドキドキしているというだけではなく、身体に力が入りにくいこともあって、「重たい書類を持ち運ぶ仕事を頼まれたらどうしようか。」と不安だったのです。
そんな中、最初にお願いされたのは、定規を当てて二重線を引いて、その上にスタンプを押すというもの。
一見簡単そうな仕事なのですが、指の力が入らない私は上手に押すことができません。特別な知識を使うわけではないので、初めに依頼する仕事としては妥当かもしれないと思いましたが、他の方よりも何倍も時間がかかってしまいます。
「できません」と断ってしまうと会社の皆さんに申し訳ない気がして、なんとか取り組んでいました。そんな私の様子を上司は黙って見ていました。
「もしかして、こんな単純なこともできないとがっかりさせてしまっているのではないか」
私は不安で仕方がありませんでした。
できることとできないことリストについて
ある日、上司が私に質問してきました。
「パソコンはできる? Word や Excel は使えるよね?」
スタンプを押したり、ホッチキスを使ったりする仕事よりも、パソコンを使う仕事のほうが得意だったので私は「できます!」と答えました。
すると、上司は私に、
「あなたのできることとできないことを Word を使ってリストにしてみて。」
と、いわゆる「私の取扱説明書」を作成してくださいと伝えてきたのです。そうすればお互いにできることとできないことを共有することができ、仕事がスムーズにいくのではないかと。
私は「素直にできないことを書いてもいいのか」と悩みましたが「何でも書いてくれ」と言ってくれたこともあり、詳しく書き込んでいきました。
あえて Word を使ってというところもミソだと思いました。取扱説明書を作るのに、私のパソコンのスキルも一緒に把握するために Word と言ってくれたのです。
私は学生時代に検定をとっていたので、その時できる知識をフル活用し文字を大きくしたり、記号を入れたり、皆さんに伝わりやすい「私の取扱説明書」を作成しました。
まとめ
「私の取扱説明書」が完成してからは、私が苦手とするスタンプを押すことやホッチキスを使う仕事が頼まれることはありませんでした。 得意とするパソコンの仕事を多く与えてくれるようになり、やりがいが持てました。
また、私が嬉しかったのは、採用面接の時に障害のことばかり聞いて判断するのではなく、心の部分をたくさん聞いてくれたことでした。「この会社で働きたい」という気持ちを汲み取っていただき、採用した後に私にどんなことができるのかと一生懸命考えてくれたことがありがたかったです。そんな関係性だったからこそ「取扱説明書」を素直に作り上げられたのかもしれません。
自分のことをうまく伝えられなかったり、あまり話したくなかったりという方もいますが、個人的な考えとしては、取扱説明書があるほうがスムーズに働きやすいと思います。そして、社内に共有するのは、車いすの私が働く上で大切なことだと思った出来事でした。