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見えない私が恋に落ちる理由

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2021.12.23

私にとって恋の始まりとはどんなものだったのだろう。目の見えない私の思うイケメンの要素は何か。今の夫を好きになった経緯を振り返りながら、恋や結婚について考えてみる。

執筆:山田 菜深子

電車に揺られて約4時間。片道200km。大学生だった私にとって、そこは遠い遠い場所だった。それでも何度となく足を運んだ。数年後結婚することになる彼に会うために。あの頃、生まれつき目の見えない私も、恋をしていたのだ。

そういえば、私にとって恋の始まりとはどのようなものだったのだろう。どうして彼を選んだのだろう。どうして結婚しようと決めたのだろう。改めて思い返してみる。


私の思うイケメンの要素

私は人の顔を見たことがない。でも時々、「この人イケメンだな」と思うことがある。その人がどんな顔をしているのかなんてもちろん全然知らない。それでも、そう感じられて仕方がない。私の勝手な想像でしかないけれど、確信できる。

イケメンと言っても、顔がいいというのとはちょっと違う。顔を見ない私にとって、それは重要なことではないのだ。「この人はどんな顔をしてるんだろう?」などと思いを巡らすこともほとんどない。私の思うイケメンの要素は、声や話し方にある。

一般的な「イケメンボイス」であれば心を奪われるというわけではない。声そのもののよさも無関係ではないけれど、それ以上に私の心をくすぐるのは、そこににじみ出ている「人柄」。それを耳でキャッチしていて「最高!」となるかどうか。ここがポイントなのである。

その上で、「最高!」となったら何が起きるか。声を聞くたびドキドキして、「この声をもっと聞いていたい、この人にもっと近づきたい、できることなら彼にとっての特別な存在になりたい」などと切望し始める。

さらに、彼と自分の登場する甘いストーリーが頭の中で流れ出し、こうなるともう、何か恥ずかしいけれど、「あ、恋しちゃったんだ」と認めざるを得ない。「キュンキュンセンサー」とでもいうのだろうか、そういうものが作動していると気づく。子どもの頃、そんな感覚を何度か味わった。

ただ、今の夫を好きになった経緯は、それとはちょっと違っている。

もしかして誤作動?

初めて会ったのは今から10年以上前。視覚障害関連団体のイベントに参加したときだった。彼は積極的に話しかけてくれる優しい人だった。

何度か話をするうちにだんだんと距離が縮まっていき、「結構、気が合うかも」と思うようになった。彼も視覚障害者(弱視)で、普段感じているモヤモヤなどがいろいろあるのだと言う。私は共感し、深いところまで語り合ったのだった。

彼の告白は唐突だった。「好きになったかも」とサラッと言ったのだ。驚くほどサラッと。「寒いね」とか「お腹すいたなあ」とでも言うかのように。私はどう受け止めるべきかわからず戸惑い、軽く考えることにした。一時的に気持ちが盛り上がっているだけなのだろう、と。

ところが、そうでもなかったらしい。「サラッと告白」から数日経った頃、彼は改めて本気で告白してくれたのだ。「付き合うなんて絶対ないない」と思っていた私は、断ろうとした。でも、できなかった。断る前に、キュンキュンセンサーが作動してしまったから。遠くに住む彼と付き合う。その決断を下したのだった。

最初は、「あれ?誤作動かな?」と思ったりもした。私の知っている恋の感覚とは違っていたから。ドキドキしないのだ。ちょっとつまらない。

それに性格は正反対で、すれ違いが起きることもあった。彼は思ったことをすぐに口にしてしまうタイプ。私は思ったことがあっても「どれを伝えよう、どんな言葉で伝えよう、いつ伝えよう」などとじっくり悩むタイプ。私たち本当にうまくいくのか、と心配になった。

それでもどういうわけか、遠距離にも性格の違いにも負けず、お付き合いは続いた。一緒に生活するようになり、結婚までした。幸せな日々だ。



ドキドキより安心感

ドキドキしない。今思えばこれがよかったのだろう。彼は素の自分を見せられる、安心できる存在だったのだ。だからこそ長く一緒にいられるのではないだろうか。

性格は正反対。そこには今も困惑することがあるけれど、実は私たち、よく似ていたりもする。根っこの部分は一緒なのだ。

二人に共通するものと言えば、特に大きいのは「頑張らない精神」。「障害者は人一倍頑張るのが当たり前、もっと頑張りなさいって、周りから圧力をかけられるのがつらい」。彼はいつもそう言って嘆いていた。

背伸びすることなく、自分らしく生きる人。何かぼーっとしているような私のことも、そういうところがいいのだと褒めてくれた。こんな自分はダメなんじゃないかと自信を持てずにいた私は、彼に気づかされたのだった。そのままでいいんだ、と。

おかげで今は堂々と、頑張らずに生きている。家事なんかでも力を入れすぎず、思い切り楽をしている。

というわけで、たまには嵐が起こることもあるものの、私たちの結婚生活は順調。私のキュンキュンセンサー、どうやら間違ってなかったようだ。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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