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30年以上前の盲学校の寮生活が自立へと導いてくれた

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2022.1.15

盲学校では、掃除、洗濯、料理や買い物といった一人暮らしをするための生活訓練があります。今回は、小学校1年生から15年間、盲学校の寮に入って生活を送っていた私が、当時の訓練が現在にどのようにつながっているかを振り返っていきます。

執筆:小川 誠

私は、小学校1年生から15年間盲学校に通っていました。

盲学校へは実家から通うこともできますが、自宅が学校から遠い、交通が不便などの理由から寮で生活する生徒もいました。私もその一人で、週末や祝祭日、学校の長期休みの期間は実家へ帰省していましたが、小学校入学からマッサージと鍼灸の勉強を行う専攻科を卒業するまでの15年間を寄宿舎で過ごしました。

あまり知られていないかもしれませんが、盲学校では学校卒業後に自立して生活を送るための生活訓練というものがあります。この生活訓練は、主に寄宿舎で行われています。


自分の身の回りの事と生活訓練

小学校に入学してすぐに始まった生活訓練は、自分たちが寝起きしている部屋の掃除からでした。

一部屋を複数人で使っていたので、寮母先生が見守る中、みんなで協力して掃除を行いました。私も、先輩たちから教わりながら進めていきました。

当時の私はまだ少しだけ視力があったのですが、ほこりや小さいごみが見えなかったので、部屋をほうきで掃いてごみを一か所に集めて、手で触って確認しながらちりとりに入れるという感じでした。

その後、学年を重ねるごとに、洗濯、料理、お風呂とトイレの掃除と訓練は続いていきました。

歩行訓練と共に買い物の訓練

小学校3年生の後半くらいに友達の手が私の右目にあたり、その直後から視力が急激に落ちてきました。それをきっかけに本格的に白杖を使った歩行訓練を始めました。

歩行訓練では、最初に白杖の使い方を教わります。少し慣れてきたら、学校内での歩行訓練、実際に外へ出ての歩行訓練と言う順に行っていきました。

当時、点字ブロックはありましたが、横断歩道にはエスコートゾーン(視覚障害者が横断歩道から外れないための点状の突起)がなかったので、渡る練習を何回も行いました。

歩行訓練も大変でしたが、それよりも同時に行っていた買い物の訓練の方が大変だったという記憶があります。買い物では、自分から周囲にいる人たちに声をかけられるかが重要になってくるのです。

自分の近くを通る人に声をかけても無視されてしまうこともありましたが、担当の先生は何もアドバイスをしてくれません。最終的には他の買い物客に声をかけていただき、無事に探している商品を購入するという感じになりました。

社会人であれば、これで「親切な人が助けて下さって感謝」となるわけですが、このときは訓練中であることもあり、担当の先生から指導されてしまうのです。

自分から周囲に声をかけて助けてもらうことが苦手という問題は、卒業するまでになかなか克服出来ませんでした。

料理の訓練での様々な工夫

料理は、小学校5年生から始めました。

料理の訓練の仕方は、健常者と大きな差はないと思いますが、視覚障害者ならではの工夫もありました。

包丁の使い方、火を通した料理の出来上がったときのにおい、片付けの方法などは、視覚以外の感覚をうまく利用しながら料理をしていきます。

一番難しかったのは、材料にちゃんと火が通っているかの判別でした。たとえば、私は炒め物ではにおいと音をヒントに「火が通っていそうか」の判断をするのですが、「もう、大丈夫だろう」と火を止めても、いざ食べてみると野菜が生っぽかったということがよくありました。

「極論、肉さえ火が通っていればお腹を壊さないだろうし、ま、いいか。」と思っていました。

自立訓練室での生活

掃除、洗濯、料理、買い物などの訓練を、普通科(健常者で言うところの、高等学校にあたります)の卒業までに、一通り終わらせました。専攻科に入学してからは、これまで学んできたことを活かして、実際に一人暮らしできるのかが試されます。寄宿舎内の「自立訓練室」という、一人暮らしの練習をできる場所に移って生活をするのです。

ちなみに、自立訓練室に入ることは強制されないので、普通科を卒業するとともに寄宿舎を出て自宅から通学する生徒もいました。

私の場合は、実家が遠かったのと、一人暮らしをしたいという希望があったので、そのまま寄宿舎に残り自立訓練室に入ることになりました。

自立訓練室には、調理台、ダイニングテーブル、冷蔵庫が設置してありました。幸い、私は料理を好きになっていたので、自炊はそれほど苦にならずに、毎日、朝晩の2回は料理をしていました。

当時を思い返すと、自立訓練だけでなく、学業と部活もあり、とても充実した日々を送っていました。

専攻科を卒業した後、私はすぐに一人暮らしを始め、自立訓練との違いを感じながら生活をしていきました。


まとめ

盲学校に入学してすぐ、生活訓練を始めましたが、正直に言うと、やりたくない日も沢山ありました。その中でも、先生方の熱意により、一つ一つの課題をクリアしていくことが出来ました。

私は小さい頃は少しだけ視力があったため弱視として訓練を受けていましたが、途中からほぼ見えなくなり全盲の訓練も始めました。両方を体験できて、それぞれの工夫が学べたことも良かったのではないかと思います。

私の母は、どこまで出来るのか分からない事が多かったためか、全部私の代わりにやってしまおうという感じでしたので、結果的に盲学校で生活訓練を行うことが出来て良かったと思っています。

これらの訓練のおかげで、出来そうな事は自力で出来るようになりました。苦手だった援助依頼も周囲の人に声をかける難しさはありますが、少しずつクリア出来るようになっていったと思います。

私が盲学校で訓練を受けていたのは、もう30年以上前の話なので今とは少しちがうかもしれません。私達を取り巻く環境も変わってきています。

今後、生活用品の利便性は増す一方だと思いますが、しっかりとアンテナを張り、技術革新のスピードに遅れることなく、チャレンジし続けて行くつもりです。

日々の努力が、出来る事へと引き上げてくれますが、どうしても出来ない事は積極的に他人に援助依頼をすることも大事なのです。

私は、日々成長という言葉を忘れないようにしたいです。

Text by
小川 誠 twitter note

視覚障害者の全盲の男です。趣味は、IT情報機器いじり・スポーツ・読書です。群馬県内、またはオンライン上でITサポートの活動をしています。最近ウェブアクセシビリティ当事者になりました。

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