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生まれつき目の見えない人は聴覚が冴えてるって本当?

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2022.1.20

目の見えない人はほかの感覚が発達していて、聴覚に関しては並外れているのではないか、という噂がある。では、本当のところはどうなのか。先天性全盲の当事者として、「あくまで私の場合」ということにはなるが、ここでお伝えしたい。

執筆:山田 菜深子

先天性全盲の人は、超能力かというくらい聴覚が冴えている。そんな噂があちらこちらで囁かれているらしい。見えていない分ほかの感覚が発達していて、特に聴覚に関しては並外れているのではないか、というのである。私も時々「耳、いいんじゃないですか?」と聞かれることがあるが、確かにそうだったとしても不思議ではないのかもしれない。

では、本当のところはどうなのか。いったいどれくらい聴覚が冴えるものなのか。先天性全盲の当事者として、「あくまで私の場合」ということにはなるが、ここでお伝えしたい。



歩行訓練で耳のトレーニング

耳を存分に活用する。それは私にとって、生きるために必要なこと。だからこれまで、いろいろな方法で耳を鍛えてきた。中でも必死に頑張ったのは小学生の頃だったと思う。「歩行訓練」というものがあったからだ。

歩行訓練というのは、盲学校で受けた授業プログラムの一つ。一人で外を歩けるようにするため、白杖の正しい使い方や危険回避の方法などを教わるのである。

あえてアピールするようなことでもないのだが、私はこれが大嫌いだった。命に関わる大事な訓練とあって、先生がとにかく厳しかったのだ。今となっては感謝しかないのだけれど、当時の私には刺激が強すぎた。

その訓練で耳を鍛えたときのことは、今でもよく覚えている。

印象的だったのは「自分と壁との距離感を耳で測る」というトレーニング。反響音を頼りに壁に向かって歩いていき、その壁にぶつかる一歩手前で止まれ、というミッションが与えられたのだ。

「そんな無茶な……」と心の奥で悲鳴を上げつつ、私は歩いた。恐る恐る一歩踏み出し、また一歩踏み出す。怖いので「壁はここです」とすぐに立ち止まってしまう。確かめてみると、壁はまだまだ先だった。

「その歩き方では壁の位置なんてつかめない。自分の出す音をしっかり聞きながら、いつもの速度で歩きなさい」

先生にそう注意され、再びチャレンジ。トントン、タンタン。地面と対話するかのように音を響かせ、耳に意識を集中させて前に進んだ。

難しいミッションだった。なかなかうまくいかない。壁に近づくにつれて反響音が変わっていくのだというけれど、私には感じ取れない。やっぱり無茶だ、と嘆くしかなかった。

それでも何度かやっているうちに、「なるほど」という気持ちが芽生え始めた。音の変化が何となくわかるようになってきたのだ。「何となく」でしかなかったのが残念なのだけれど。私の耳も、少しは成長したということなのだろう。

ちょっとした状況の変化も耳でキャッチ

それからは聴覚に自信が持てるようになった、というわけでは決してないけれど、訓練で学んだことは活かされているような気がする。歩くときに限らず、日常のさまざまな場面で。

例えばある日、夫が大好きな缶ビールを楽しんでいたときのことだ。

「いやあ、仕事の後のビールはうまいなあ」とか言っていたかどうかは覚えていないけれど、たぶんそんな雰囲気だったのだろうと思う。グビグビッと、それはそれは勢いよく飲み干した。そうして缶を机の上に置いたのを聞きつけ、私は言った。

「え、もう飲み終わったん?速いなあ!」

すると夫は驚きの声を上げた。

「なんでわかったん?なんで飲み終わったってわかったん?実は見えてるんちゃうん?」

その驚きように、私のほうが驚かされた。

実は私の目、見えているのだ。というわけでは当然ない。音でわかったのである。液体の入った缶と空き缶とでは机の上に置いたときの音が違うからだ。それまであまり意識していなかったけれど、私もちょっとした音に注意を向けてその場の状況を判断することができている、ということなのかもしれない。そう思うと少し嬉しくなった。

そういえばガラスのコップに飲み物を注ぐときにも、音を参考にすることがある。コップをたたいたときの音の高さで量を判断するのだ。

例えば、「このコップは何も入っていない状態でたたいたら『ド』の音がして、いっぱいの状態なら『ラ』の音になるから、『シ』のところまで注げばちょうどいいかな」というように。

私のその感覚がどの程度信頼できるものなのかはわからないけれど、自己満足でやっている。



私の耳は頑張っている

そんなわけで、「超能力かというくらい聴覚が冴えているのか?」に対する私の答えは、「特別冴えているわけではありません、でもしっかり鍛えているし、普段からよく使っているから、まあまあ敏感にはなってるのかも?」といったところだ。本当は「そうなんですよ、私。耳で何でもわかっちゃうんですよ」などと自慢したいところなのだけれど。

今は、少しだけ後悔している。大嫌いだとか言わずに歩行訓練をもっとまじめに受けて、聴覚をきちんと磨いておけばよかったな、と。

とはいえ私の耳、今日も頑張っている。大活躍している。たまには褒めてあげてもいいかも、とひそかに考えているところだ。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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