弱視だったときと全盲になってからの違い
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2022.2.5
私は小学校4年生までを少しだけ見えている弱視、それ以降は全く見えない全盲の視覚障害者として過ごしました。今回は、盲学校の弱視と全盲の訓練のちがいや、それらが現在にどのように活きているのかについて書いていきます。
執筆:小川 誠
私は生まれて間もなく緑内障と診断され、5歳まで視力は弱かったものの両目とも見えていました。5歳で目の手術を行い、左目を失明、右目の視力が0.03程度、視野はほぼまっすぐ前しか見えない状態となりました。
そこからは、右目のみを使いながら生活していました。
小学校3年生の後半に、友達の手が私の目に強くあたり、それをきっかけに視力が一気に落ちて行きました。その後、数か月で全盲になりました。
小学校4年生まで少しだけ見えている弱視、それ以降は全く見えない全盲の視覚障害者として過ごしてきた私が、盲学校の弱視と全盲の訓練のちがいや、それらが現在にどのように活きているかについて書いていきます。
弱視と全盲
視覚障害者には、視力が少しだけある弱視の人と、全く見えない全盲の人がいます。
盲学校の訓練の内容は、目の見え方によって違ってきます。おおざっぱにいうと弱視の場合は、残っている視力を最大限に使う訓練を行い、全盲の場合は視覚以外の感覚を最大限に使っての訓練となります。
私の場合は全盲になる危険性がかなり高かったので、弱視としての訓練だけでなく、全盲になっても困らないような内容も訓練に加えられていました。
弱視としての訓練
全盲になるリスクが高い人の場合、弱視のときから全盲になってもそれほど困らないように訓練していきます。
弱視のときは点字を勉強していましたが、あまり読めず、拡大文字の教科書を拡大読書器という支援機器を使って読んでいました。ちなみに、拡大読書器とはカメラで撮影した映像をモニターに大きく表示する読書専用のビデオ機器のことです。
生活の訓練の中では、ハサミで紙を切る練習をよく憶えています。片目しか見えていないと、距離感が掴みづらくなるので、最初は、紙を切るときにどうしてもまっすぐ切ることが出来ませんでした。そこで、紙を折ってそこにハサミを差し込んで、視力と手の触覚を使って切っていく練習をしました。
視力だけに頼らず、手の感覚を使っていく練習は全盲になっても大きく役立ちました。
全盲としての訓練
全盲は、とにかく視覚以外の感覚を使って生活していくことになります。変わったところは、目で確認するのではなく手で探りながらという方法になったところです。
どのようなことでも視覚が使えないので、物を触るときは丁寧に全体を触るようになりました。弱視だったころは、視覚に頼る場面もあったためか、手で触れて全体を把握することをしていなかったように思います。
全盲になってから料理の訓練を始めたのですが、手で全体を把握する意識がどうしても欠けてしまうことが多く、結果として、材料を切ったときの大きさがかなり違ったり、まな板の近くに物が置いてあることを知らずに手がぶつかって床へ落としてしまったりということが何度もありました。
見えないのだから触って確認するのは当たり前、ではあるのですが、視力が少しでもあったためか意外に出来ないのです。目で見ていた記憶で、だいたいの形や大きさを想像してしまっていたのかもしれません。
その度に、先生から「ちゃんと手で確認してから始めなさい」と注意されていたことを思い出します。
物を置くときは必ず同じ場所に戻す
物を使ったら必ず元の場所に戻すということは、健常者の方も意識しているかもしれません。整頓です。
視覚障害者の場合、特に物の元の場所に戻すように気をつけないと物を探すことが困難になります。これは弱視・全盲のどちらにも共通する事です。物の定位置を決めることは、整理整頓の訓練なのです。
ただ、物を置く場所については先生方からほとんど注意をされたことはなく、よほど酷いときに「一緒に整理しよう」と声をかけられ片付けをしたくらいです。
逆に、家で自分なりに分かりやすく物を置いているのに、家族に「散らかっていたから」という理由で違う場所へ移されてしまい、見つけるのに一苦労することが多々あります。「分かりやすいように置いていたのに、なんで動かすの?」などと言ったことがありましたが、なかなか分かってくれないのが現状です。
他の人から見ると散らかっている状態であっても、本人が見つけやすいように配置しているということもあるので、これは本人の意思を尊重していただきたいところです。
まとめ
盲学校における、視覚障害者の訓練の内容は、目の見え方によって違ってきます。少しは見えていた小学校4年生までは残っている視力を最大限に使う訓練を行い、全盲になってからは視覚以外の五感を使う訓練をしてきました。
弱視のときは、片目のみの視力であっても物の形が一瞬で分かりますが、全盲になると全体を触って形として認識するまでに時間がかかります。そこに何があるのかを認識する方法が変わるのです。
ただ、弱視のころは目に頼りすぎて、よくあちこちにぶつかって怪我をしていました。全盲の訓練を始めたばかりのころも、記憶を頼りにして手で触って全体を確認する工程が抜け落ちてしまうこともよくありました。
現在、私は視覚障害者に対してスマホやパソコンといったICT機器の支援を行っていますが、私が接している視覚障害者の中には、弱視の方も、全盲の方もいます。教えている内容はちがっても、自分自身が訓練していたころのことを思い出します。
盲学校のころの経験が現在の自分を作り、ICTの支援という形で他の方につながっていくのだなと思います。