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見えない私の「相手をじっくり見る」方法

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2022.2.17

コミュニケーションを取る上で影響力が大きいといわれる、視覚情報。全盲である私には、相手の表情や目から、思いを読み取ることができない。では、私はいったいどんなふうに相手を見て、関係性を深めていくのか。言語化にチャレンジしてみたい。

執筆:山田 菜深子

相手をじっくり見る。それは私にとって、とても大切なこと。この人は普段どんなことを考えているのか。どんな性格なのか。今どんな気持ちなのか。その辺りの想像を膨らませ、勝手に分析してみたりもしつつ、自分なりにじっくり見る。それがすっかり習慣になっているのだ。

どうしてそんなことをしているのか。それは、人に興味があるから。いろんな人がいて、いろんな生き方があって、みんな違っていて。その一人ひとりの日常や考え方に触れるのが楽しいのだ(私が超小心者であるため、人とは慎重に関わらないと不安だからというのも大きいのだけれど)。

ところが、私は全盲。じっくり見るというのは結構難易度の高い作業となる。得られる情報は限られている。そんな中でどうにかやっていくしかない。

では、私はいったいどんなふうに「どうにかやって」いるのか。何となくやっていることなので説明するのは難しいけれど、言語化にチャレンジしてみたい。


視覚情報はやっぱりほしい

コミュニケーションを取る上で影響力が大きいといわれる、視覚情報。私もこの目でそれを受け取ることができたらどんなにいいだろう、と思うことがある。

中でも見たいのは表情。相手が沈黙しているときなどは特に、切実に表情が知りたくなる。機嫌が悪いのか、疲れているのか、それとも考え事でもしているのか。映画の音声ガイドみたいに「首をかしげて考え込んでいる」などと解説でも入れば問題はすぐに解決するのだろうけれど、現実はそう甘くない。判断する材料がほしいところだ。

それから、目も気になる。「口ほどにものを言う」といわれる目には、本音が表れているに違いない。相手の目をしっかりのぞき込んで、そこから読み取れる思いを深く知りたい。

さらに、それを発展させて「目で会話」なんていうのもやってみたい。言葉のやり取りでは得られない何かが伝わってくるはずだから。私には想像のつかない世界だし、「なんでそんなことできるの?どういうシステム?」と疑問を感じずにはいられないのだけれど、非常にあこがれる。

私にはものを見た経験がないので、そういうことができるのとできないのとでどれほど差があるのかは正直わからない。でも、視覚情報の影響力がかなりのものであることは疑いようがない。それを受け取れないというのは結構な痛手なのではないだろうか。

私なりの見方で

とはいえ得られないものを求めてみても仕方がないので、私は自分なりの方法で相手をじっくり見ることに徹している。話している内容やメールなどの文章はもちろん、声のトーンや話し方、足音、机にものを置いたときの音など、小さなことにも意識を集中させる。そうすれば見えてくるものは確かにある。

(本当はハグなどさせてもらえればもっと相手のことがよくわかるのだろうけれど、さすがに日本でそれはできないので我慢するしかない。残念。)

得られる情報が限られているので、戸惑うことは多い。ただ逆に限られているほうがいいこともある。その分「想像」できる。つまり相手を思うことができるのだ。

相手を思うことができれば、相手の本質に触れることができる。相手の本質に触れることができれば、相手との関係性をより深めるきっかけが生まれる。私のコミュニケーションはそんなふうに発展していく。

大学時代、私は社会福祉について学んでいた。その中で、「福祉の現場では利用者さんの思いを傾聴することが大事だ」と教わった。言葉はもちろん、言葉にならない部分もしっかり受け止めなければならない。視覚情報の読み取れない自分にそれが可能なのだろうか、と不安になったものだ。

そのとき、そんな私を勇気づけてくれた人がいた。その人は投げかけてくれたのだった。「見えないからこそ見えるものがあるんじゃないかな?」と。

最初はピンとこなかった。でもだんだんと、「そうなのかもしれない」と思えるようになってきた。今なら確信をもってそうだと言える。

視覚情報は重要だけれど、それが得られないのはある意味ラッキーなのだと思う。外見が派手だからチャラチャラしていそう、みたいな先入観を持つことはない。見た目の影響で相手の本質が見えにくくなってしまうことは避けられるのだ。


自分の感覚を信じたい

もしかしたら将来、スマホアプリなどが相手の表情を細かく教えてくれる時代が来るのかもしれない。ニコニコしてるんだなとか、共感してくれてるんだなとか、信頼できそうだなとか、私も簡単に判断できるようになるかもしれない。それはきっと嬉しいことだ。

でも私は、どれだけ技術が進歩したとしても、コミュニケーションを取る上では何より自分の「感覚」を信じるだろう。本当にあてになるのかどうかはもちろんわからないけれど、それでもそこを、一番大事にしたいのだ。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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