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車いすパパの子育て奮闘記①分娩室にたどり着けない

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2022.3.29

2021年10月、我が家に第一子が誕生しました。この5ヶ月、振り返ってみると車いすパパとして困ったことも嬉しかったこともたくさん経験しました。せっかくなので、それらの経験をこのコラムを通じてお伝えできればと思います。初回の今日は、出産当日の出来事をお届けします。

執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura

出産に伴う車いすパパ特有の問題

妻の妊娠が分かったとき、私は「少しでも妻をサポートしたい」という気持ちから出産に立ち会いたいと思いました。

ただ、そんな私の気持ちを阻む問題が2点ありました。

①コロナ禍により病院内に入れない

実は妻の妊娠が分かってから出産前日まで、私は一度も通院に付き添うことができませんでした。理由は、コロナウイルスの感染拡大予防のため病院内での付き添いが認められていなかったからです。

そのため、妻はつわりが酷い時期も一人で病院に通いました。はじめての妊娠ということもあり、妻の不安は私の想像以上だったと思います。

さらに出産当日も、仮に緊急事態宣言が発令されていたら立ち会いはできないと言われていました。ただ「なんとか出産に立ち会いたい!」この気持ちが通じたのか、出産の数週間前に兵庫県内の緊急事態宣言が解除され、出産の立ち会いが許可されました。

②車いすでは分娩室にたどり着けない

立ち会い出産は認められたものの、新たな問題が発覚します。実は、この産婦人科は分娩室が2階にあり、そして院内にエレベーターがありませんでした。

健常者なら大した問題にはなりません。ただ私は車いすユーザー。階段どころか平面を歩くことすらできません。つまり自力では、分娩室にたどり着けませんでした。2階に上がるためには他者のサポートが必要になります。

もちろん看護師・助産師のみなさんは出産を優先するため、私の介助に人手を割くわけにはいきません。どうしたものかと悩んだ結果、友人にサポートをお願いしました。友人は快く承諾してくれ、出産当日に私を2階にあげるためだけに、神戸まで来てくれました。


出産当日

私たち夫婦は計画無痛分娩を選択したので、出産予定日に病院で陣痛促進剤を投与し陣痛を待つことになります。当日の朝、入院の荷物を私の膝の上に乗せ、妻と産婦人科へ向かいました。

ただ私は出産の立ち会いは認められたものの、出産間際にならないと病院内に入ることができないため、病院の前で妻を見送った後、一度帰宅しました。

その後、自宅で友人と談笑していると、あっという間に日が沈みました。

そして22時を過ぎた頃、妻から「陣痛が強くなってきたから病院前で待機していて」とメッセージが届きます。

「もうすぐ出産か」

不安と期待が交差する中、実母と友人と3人で病院の駐車場に向かいました。

車内で待機すること1時間。「分娩室に上がってきて」という妻からのメッセージを確認するとすぐに病院内に入りました。

そしてロビー横にある階段の手前まで車いすで移動し、母と友人に2階まで体を抱えてもらいました。階段を登りきった後、私は2階の廊下に座り、車いすの到着を待つことになります。友人が1階から車いすを持ってきてくれ、その後、分娩室に移動しました。


出産の感動

生まれて初めて分娩室に入った感想は「コックピットみたい(笑)」。

分娩台で仰向けになっている妻は、麻酔が入っていることもあり、比較的落ち着いていました。ただ、出産が進むにつれて痛みが強くなってきます。

「無痛分娩とはいえ痛みはあるんだな」と思いつつ、妻の肩をさすりながら、とにかく声をかけました。出産時、男は無力だと聞いたことがありますが、まさにその通りですね。

そして0時を過ぎ、痛みが絶頂になった頃に先生が分娩室に入室。出産のクライマックスが近づいてきます。

妻『ぬうぉーーーーーーー!!!!!!』
(このとき悟空がスーパーサイヤ人になった姿が脳裏をかすめました)

そして先生が妻のお腹を押すと、一気に頭が全部出ました。

「ふっ、ふぇっ、ふぎゃー、おぎゃーーー!!!」

元気な産声とともに新しい命が誕生。同時に、分娩室内に出産を祝う音楽が爆音で流れました。

誕生した我が子は、力いっぱいに泣き叫び、ジタバタと手足を動かしています。元気いっぱいの男の子。

取り上げてすぐに、頑張った妻の隣へ運ばれる息子。このときの妻は、何とも言えない優しくホッとした表情をしていました。

優しく見つめ合う妻と息子を見ていると、こちらも幸せな気持ちになります。コロナ禍により、通院の付き添いすらできなかった中、出産という奇跡の瞬間に立ち会うことができ、自然とこの言葉が出てきました。

「生まれてきてくれて、ありがとう。頑張って生んでくれて、ありがとう。」

まとめ

今回は出産までのエピソードを紹介しました。分娩室のある2階に上がれないという車いすユーザー特有の問題に直面したものの、無事に出産に立ち会うことができました。

しかし、自宅で子育てがスタートするとさらなる困難に直面することになります。その詳細は次回以降のコラムでお伝えさせていただきます。

1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。

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