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視覚障害者がコロナ禍だからこそ困ること

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2022.4.9

2020年から始まった新型コロナウイルスのパンデミックの中で、私自身をはじめとする視覚障害当事者に対しどのような変化が起きたのか?という疑問からどのような不便さが生じるようになったのか書いてまいります。

執筆:小川 誠

新型コロナウィルスのパンデミックは、社会に多大な影響を与えています。

今回は、私自身を含む視覚障害者にはどのような変化が起きたのか。どのような不便が生じるようになったのか。日常生活、福祉サービス、仕事などの変化について、私自身の経験からお伝えしていきます。


マスク着用の影響

コロナ禍になってから、マスクを着用して外出するようになりました。このマスク1枚を顔の下半分に着けただけでも、歩くときの感覚が変わってしまうのです。

全盲であるため、嗅覚、聴覚そして顔に当たる空気の変化の感覚を使って判断しながら歩いています。私の場合、マスクを外しているときは、顔に当たる微妙な空気の変化を感じることによって、電柱やエンジンを停止させている車があることが分かります。

ただ、マスクを着用してしまうとその感覚が鈍化してしまい大変歩きにくくなってしまうのです。

他にも、コロナ禍になってから「買い物のときは手で商品に触れないようにすることがマナー」という空気となりました。

私の場合、ヘルパーや店員に商品を持ってきていただくようにしているので、自ら商品に触れることはありませんでしたが、弱視の方から聞いた話では、目に近づけて商品を見ようと思って手にしたところ、店員に「感染症予防のために、商品には触れないようにお願いします」と言われたそうです。と言っても、商品を籠に入れるとき手で持つのですが…。

サポートが受けづらくなった

マスクや買い物は自分が感染症対策をすることによる影響ですが、私が一番気を遣ったのはソーシャル・ディスタンスの問題です。多くの人が、他者と一定の距離を保つことに意識を向けているからか、サポートを得づらくなったように感じています。

たとえば、緊急事態宣言または蔓延防止等重点措置が発令中の際は、電車に乗ったときに空いている席を教えて下さる頻度が低かったように思います。

こちらから、「どこか席が空いている所はありますか?」と声を発すると、教えていただけるのですが、そのときもどうにか身体に触れずに席まで案内しようとされていたように思います。逆に、このような制限が解除されたときは、空いている席を教えて下さる頻度が高くなるように感じます。

他にも、私は同行援護と呼ばれる福祉の支援が受けづらくなりました。同行援護サービスとは、視覚障害者の外出が困難な場合、外出や移動をサポートするヘルパーさんを派遣してくれる制度です。コロナウィルスは、利用者とサービス提供者の双方に影響を与えていると思います。

事業所の方では、利用者が頻繁に参加していた集まりが自粛になり、依頼が減少したため事業所の収入が減少し、退職するヘルパーが増えたようです。

利用者の目線では、事業所に依頼をしても「ヘルパーが減ってしまったので、対応できません。」という返答をもらうことが多くなりました。日々の買い物や、用事、行きたい場所があっても行けなくなってしまいます。

仕事に与えた影響

私は視覚障害者のIT支援の仕事をしているのですが、その利用者にも影響が出ています。

2020年4月から5月末まで緊急事態宣言となり、職場も休業となりました。手当を給付していただいたため働いている身としては、経済面で大変助かりましたが、多くの利用者に制限を課すことになってしまい、心苦しく思っています。

コロナ禍以前は、センターへの来場は自由でしたが、現在は予約制になり対応時間の制限を設けることになりました。

オンラインでのITサポートも個人的に行うようにしたのですが、これは初心者の利用者には難しい方法となってしまいます。ITに慣れていない方々へのサポートであるのに、利用者の方々にとって難しい方法で支援しなくてはならない状況は本末転倒だなと感じてしまう部分も当初はありました。

オンラインツールは、LINE電話などその人が使いやすいものに合わせており、私は通話先から聞こえてくるスクリーンリーダーの音を聴きながら、相手に操作方法を教えて、実際に操作をしていただく形をとっています。

その場にいると、操作が上手くいかないときに私が代わりにやってみたり、利用者がうまく説明できなくても私が状況を把握することもできます。離れた場所だと、操作は本人がする他ありませんし、状況がわからなくても言葉で説明してもらうしかないので、支援者だけでなく、利用者の力量も問われます。

ある程度操作技術がある利用者の場合は、オンラインサポートでも対応ができますが、やはり慣れていないと難しいようです。おそらく、見えている方でも電話でパソコンやスマホの操作方法を教わるのはむずかしいのではないでしょうか。

ITの支援センターに来ていただければ一番いいのですが、なかなか来られない方も多いのです。


まとめ

ここまで様々な角度から視覚障害者がコロナ禍だからこそ困ることについて書いてきました。私が一番気を使ったのはソーシャル・ディスタンスの問題だったと思います。

特に、同行援護のヘルパーと歩いていると、ソーシャル・ディスタンスは崩れてしまうことになります。私の場合は、ヘルパーの肩に手をめいっぱい伸ばした状態でつかまり、後ろからついて行くかたちで歩き、必要最低限のことしか発言しないようにしていました。感染症対策をすることで、これまでとは違う困りごとが生じていました。

非常時には、福祉制度の枠の中ではどうにもならないことが出てきたり、社会に吹く風が厳しくなったりします。そうした中でも、知恵を振り絞りながら生きていこうと思います。

Text by
小川 誠 twitter note

視覚障害者の全盲の男です。趣味は、IT情報機器いじり・スポーツ・読書です。群馬県内、またはオンライン上でITサポートの活動をしています。最近ウェブアクセシビリティ当事者になりました。

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