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視覚障害者のIT支援をする上で大切にしていること

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2022.4.23

私は全盲の視覚障害者ですが、2015年から地元の視覚障害者福祉団体でIT支援をしています。今回は、IT未経験者への支援の難しさについて書いてまいります。

執筆:小川 誠

私は全盲の視覚障害者ですが、2015年から地元の視覚障害者福祉団体でIT支援をしています。以前、視覚障害者へのIT支援を始めたきっかけや想いについて書きました。

これまで、様々な受講者がいました。

順調にスキルアップしていく方、難しくて諦めてしまう方、一度は諦めかけたけど思い直して練習した結果、スキルアップに繋がった方など、十人十色です。

今回は、私が視覚障害者のIT支援をする上で大切にしていることについてまとめました。これは障害の種類に関わらず、「何かを教える」支援の現場には共通するものかもしれません。


視覚障害者へのIT支援は、一人の先生が多くの生徒に対して説明をする講義形式ではなく、一対一で行っています。受講者から「どのような目的でIT機器を使えるようになりたいのか」などを聞き出し、個人に合わせた支援方法を考えています。

受講者がどの程度IT機器を扱えるかなど、これまでの経験はバラバラですし、飲み込みの早さもちがいます。あまりサポートがなくても、自ら学んでいける方もいますし、手厚い伴走が必要な方もいます。それこそ、順調にスキルアップしていく方は、基礎を身に着けた後、自分にとってやりやすい操作手順を見つけ、自走していくことが多いです。

しかし、サポートを受ける前のほとんどの受講者は「自分はこの先練習してしっかりと身に着けることが出来るのか」や「うまく仕事で活用出来るのか」など、様々な不安を抱いています。特に、パソコンやスマホといったIT機器をあまり使ったことのない方だとその不安は大きいようです。

不安を抱いている方が多い中、私はどのようなサポートを行っているのかを振り返ってみました。すると、私の中に「4つの原則」というものがあることに気づきました。

①一つの操作を自信が付くまで、練習をする

まずは、一つの操作を自信がつくまで練習をすることです。

1回の授業で、多くの事を伝えてしまうと余計に不安になり、スキルアップが難しくなってしまうことがあります。それを避けるために、受講者が納得するまで、同じ操作を何度も自信を持てるまでやっていただきます。

出来るかどうかの不安を残したまま、先を急ぐ必要はありません。自信が付いてから、次の練習項目へ移ってもらうようにしています。

できることを着実に一つずつ積み重ねていけば、次に新しく学ぶことも「できるようになるかも」と前向きに捉えやすくなります。

②スキルアップには個人差があるので、自分のペースで練習する

2つ目は、自分のペースで練習することです。

新しい操作がなかなか身につかないとき、「皆様はどのくらいでパソコンの操作がうまく出来るようになりますか」というご質問をいただくことがあります。

そのようなときには、「スキルアップには個人差がありますので、マイペースで練習しましょう」とお答えしています。

他の人のことが気になると不安感が高まってしまい、焦りも生まれてきます。焦りが出てくると、集中して練習出来なくなります。習得するには、練習を積み重ねていくことが大切です。

③サポートの持ち時間に到達しなくても、疲れてしまったらそこで終わりにする

3つ目は、疲れてしまったら割り切ることです。

IT支援の受講者は、大変な集中力を持って練習をされています。そのため、あらかじめ設定されている時間の上限に達する前に疲れてしまう方もいらっしゃいます。そんなときは、その時点で終了にするか、休憩を入れてから再開するようにしています。

集中が切れてくると、操作の間違いも多くなってきます。一度途切れた集中力を復活させることは大変です。無理をさせないということも大事なのです。

④楽しさを知ってスキルアップ

最後は、楽しさを知ってもらうことです。

IT支援を受けるまでの経緯は人によってちがいます。就職先でパソコンを使わなければならなくなって、やむを得ずパソコンの訓練を受けている方もいらっしゃいます。

「将来のために必要だから」と割り切って練習できる方もいますが、割り切ることが苦手な方だとどうしてもモチベーションが低くなりがちです。

IT機器の練習を「やらなければならないこと」として義務感のような心持ちで取り組んでいる方には、練習の成果がわかりやすく出る操作に取り組んでもらうように工夫しています。時には実演して効果を実感してもらったりしながら、受講者が喜んでくれるような内容を取り入れてモチベーションの維持を図っています。

支援を受けることを楽しいと思えるかどうかは、その後に大きな影響を与えます。


まとめ

私が行っている「視覚障害者へのIT支援の4つの原則」をご紹介しました。パソコンの操作はできるようになるまでに繰り返し、練習することが必要です。「自宅で練習してください」と伝えても、なかなか難しい方もいます。

そんな中で、私自身が心がけていることがあります。それは、受講者が抱いている不安をくみ取れるようにすること、不安の原因はどこにあるのかを考えて、その原因の解消を行い、不安の原因が解消されたら、一緒に喜ぶことです。

うまくいくときは、支援者である私の心がけと受講者の想いがうまくマッチしたときなのではないかと考えています。おそらく、支援をする側と、受ける側、どちらの想いが欠けても上手くいかなくなってしまいます。その二つがそろって初めて、受講者をスキルアップへと導いてくれるのではないでしょうか。

Text by
小川 誠 twitter note

視覚障害者の全盲の男です。趣味は、IT情報機器いじり・スポーツ・読書です。群馬県内、またはオンライン上でITサポートの活動をしています。最近ウェブアクセシビリティ当事者になりました。

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