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弱視のボクが、マスコミで働く理由

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2022.4.29

はじめまして!ライターの榎戸(えのきど)です!

ボクは3歳の時のケガで弱視になり、現在はテレビ番組の制作会社で働いています。
そんなボクは、こう尋ねられることがあります。

「視覚障がい者にとってハンデの大きいテレビの世界に、どうして入ったの?」

そこには、ある盲学校での出会いがあります。

今回は自己紹介を兼ねて、それを書かせてください。

執筆:榎戸 篤 Atsushi Enokido

衝撃!「障がい者」のイメージが崩れていく体験

小・中と地元の普通校に通ったボク。高校は盲学校に進学しました。

自分以外の障がい当事者と接することが少なかったボクは、障がい者とはテレビに出てくるような「真面目」で、「頑張っている」人たちというイメージを漠然と抱いていました。
しかし盲学校での体験が、その見方をいっぺんさせます。

高校生活にも慣れた頃、ボクはあることに気付きました。一つ上の学年の人数が足りないのではないか?ということです。盲学校の生徒数は少なく、その学校も一学年20人弱。人数はすぐわかります。

そこで、中学から内部進学したクラスメイトに尋ねてみました。
榎戸「一個上の学年、一人足りないよね?」
友人「うん。そうだよ」
榎戸「その先輩、どうしたの?」
病気や家の事情といった答えが返ってくると思っていたボク。しかし、友人の回答は予想もしないものでした。
友人「その先輩、寮の先生を殴って停学になったんだよ。タバコもバレたしね」
榎戸「え!?」
ボクは言葉に詰まってしまいました。

ボクが作ってきた「障がい者」のイメージの枠から明らかに逸脱(いつだつ)している。自分が抱いてきたイメージは、しょせん24時間テレビや、ドラマを観て描いたものでしかなかった。そのことに気付かされました。

これ以降も、予想しないような障がい当事者たちと出会うことで、自分のイメージがどんどん崩れていきました。
「いつかマスコミに入り、読者・視聴者のイメージも崩したい」ボクは、そう考えるようになりました。

「本当は星の仕事に就きたかった。」

その後、またとある先輩と出会いました。
ボクが通っていた盲学校には、幼・小・中・高に加え、マッサージ師を養成する学科も設置されていました。彼は、その学科の生徒でした。
風貌は茶髪で、アクセサリーを身に着け、香水をまとう、全盲であることを除けば、いわゆる「街中によくいる普通の若者」でした。

初めて出会った時の先輩の発言はこんな感じ。
「榎戸君、好きな子できた?え、俺?俺は、出会い系で知り合った看護学生とメールしてる~。え?見えないから会うのためらわないかって?全然。目が見えないと、肘を貸してもらったり、女の子にすぐさわれていいよね~」
・・・つまり、彼も24時間テレビには出てこないような人でした。
 
ある日、先輩からハンバーガーショップへ行こうと誘われました。
店に着き、ひとしきり話したのち、先輩がおもむろに点字の本を取り出しました。
いつも出会い系サイトに熱中している先輩が本を読む光景が不思議で、ボクは興味を持ちました。

榎戸「何の本読んでるんですか?」
先輩「星の本だよ」
榎戸「え?意外!!」
先輩「意外ってなんだよ」
榎戸「星、好きなんですか?」

ボクの質問に、先輩は少し沈黙したのち、こう続けました。
先輩「いや俺ね、本当は星や宇宙に携わる仕事をしたかったんだ」
榎戸「え?じゃあ、なんでそういう仕事を目指さなかったんですか?どうしてマッサージ師の道に?」

無知ゆえに残酷な質問をしたボクに、先輩は優しく答えてくれました。
先輩「やっぱりさ、全盲だとそんな仕事ってほとんどないんだよ。だから、マッサージでもやるかって思ってさ」
ボクは言葉を失いました。

当時の先輩の年齢は18歳。
18歳といえば、まだまだ夢を見たい年齢。まだまだ夢を見ていい年齢。
しかし、先輩は夢すら見られず、現実を受け入れるしかなかった。

その後、多くの先輩から同様のことを聞きましたが、高校生の自分にとって、それはショックな出来事でした。
「障がいのある方には優しく。」という言葉をあきるほど聞いて育った自分は、どこかで「この社会は、弱者を受け入れてくれるもの」だと思っていました。
しかし、まだまだそうではない現実もあった。

一見普通の若者にしか見えない先輩にも、その現実は重くのしかかっていました。
ボクはうつむき、本をなぞる先輩の指をじっと見つめることしかできませんでした。

時代の針を進める一人に。

時は流れ、ボクはテレビ番組の制作会社で働き始めました。

「視覚障がい者がマスコミで働くのは難しい」と言われることも多々ありました。
多くの企業から門前払いをされることもありました。
もし数十年前だったら、不可能だったかもしれません。
しかし、たくさんの先人の力、助けてくれる方たちの力に背を押してもらい、実現しました。

時代の針はちょっとずつ動いている。
ボクも、そんな針を進める一人になりたい。
そう思い、自分はハンデが大きいと知りながらも、テレビ業界で働いています。

報じられる人たちの本当の姿を知ってもらえるように。
夢を見ることすらできない人が、一人でもいなくなるように。
それが、今の自分にとっての夢になっています。

1989年生まれ、東京都青梅市出身。
3歳の時のケガにより弱視に。視力は左0.04、右0。
現在は、テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターとして活動中。
▼執筆媒体
当事者向け旅行サイト「COTRAVEL」
障がい者ライフスタイルメディア「Media116」

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