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持病が理解されず就職を断念

「障害者」ではなく「私」として働ける場所が欲しかった

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2022.6.1

障害者の雇用を促進するため、企業が受けられる助成金制度は多くある。けれど、内部疾患の場合は持病を分かってもらうことが難しく、面接で落とされてしまうケースも少なくない。また、「障害者」ではなく「私」として雇用されたい障害者はどこでどう働けばいいのだろうか。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

大量の不採用通知で心が限界に

「あなたは一生、私たちが面倒みてあげる」と母から言われるたび、私は障害者が就職することの難しさを感じた。

障害を持っていることを告げると、バイトの面接すら受からない。だから、年齢を重ねるごとに将来への不安が大きくなった。

でも、頭の中で考えているだけでは何も始まらないから、一度、就活というものをしてみよう。そう思い、大学中退後、ハローワークに通って障害者を雇用してくれる企業を探した。

たくさん受ければ、1~2社は受かるだろうと安易に考えていたけれど、現実はそう甘くはない。面接後には、いつも決まって不採用の通知が。まるで、「あなたには価値がありません」と言われているようで、苦しくなった。

そして、面接で投げかけられる質問は、日常生活がどれくらいできるか、どのくらいの業務なら任せても大丈夫なのかなど、できることや持っているスキルよりも、障害の話ばかり。「私という人間」は見られていない、求められていないと感じるようになっていった。

面接官に「内部疾患」を理解してもらえない

このままでは、メンタルが持たない。そう感じたため、これで最後にしようと思い、地元で一番大きな銀行の事務職に応募。その時、面接官に言われた言葉は今も私の心に残っている。

面接では、いつものように、できないことや障害者手帳の等級などを聞かれた。日常生活が普通にこなせるけれど、障害者手帳1級の私は手帳の等級と現状の姿にギャップがある。だから、正直に「日常生活は普通に送れます」と答えても、信じてもらえない。

その面接官も半信半疑だったようで、階段はどれくらい登れるのか、社内を歩くことはできるのか、車いすなどは必要なのかなど細かく聞かれた。そのどれもが自分にとっては普通にできることであったため、私は「無理なくできます」と答えた。

すると、面接官は言った。「車いすの人だったら一目で足が不自由なんだと分かるけれど、あなたの障害は言葉で説明されても目に見えないから、分からない部分がある。できると言われても、全てを信じることが難しい」と。

だったら、今すぐ階段を上り下りさせてほしい。社内を歩かせてほしい。日常生活を録画してほしい。そしたら、息切れしないことや普通に生活できているって証明できるから。

そんな言葉を口にできるはずもなく、面接は終了。目に見えない障害を言葉で伝えることや、障害者手帳の等級がかすむほど、「自分ができることの証明をすること」は、なんて難しいんだろうと思った。

同時に、「障害者雇用」という形での就職に自分自身が違和感を覚えていることにも気づいたのだ。

「障害者雇用」ではなく「私」として雇ってほしかった

日本には、障害者の一般就労を後押しするため、企業が受けられる助成金制度が多々ある。障害と共に生きていると働けないことも少なくないため、その制度自体は、とても意味のあることだ。

だが、私個人としては、目で見て障害が分からない障害者は持病を伝えきれず、障害者枠での採用も難しいことがあると感じた。また、助成金が発生するため、どうしてもお金ありきな雇用であるようにも思えてしまった。

わがままかもしれないけれど、私は「障害者」としてではなく、ひとりの人として自分を見て、いいなと思ってくれる人と仕事がしたかった。私であるからできる仕事がしたかった。お金が発生しなくても、「私」を雇ってくれる企業と出会いたかった。

現在、私はフリーライターとして、大手出版社や新聞社などと業務委託契約を交わし、記事を執筆している。フリーランスという働き方に辿り着いたのは障害があったことだけが理由ではないけれど、この道を選んでよかった。

なぜなら、フリーライターの世界は障害の有無や、障害者らしくない見た目をしているなど、これまで私が気にしてきたことが重視されないから。むしろ、それが本当の意味で「個性」になることもあるし、どんな記事をかけるかが最も重要な完全実力主義の世界だ。

記事は書き手の経験によって、深みが出る。執筆していく中で、そう気づいた時、「なんで自分だけ…」と悲観していた世界の見え方が変わった。

差別や苦しみ、もどかしさをたくさん感じ、色々な世界や人の裏の顔を見られた「私」でよかったと、自分を受け止めることができたから。今、私は障害者ではなく、「私」として働けている。

「障害者雇用制度」は障害者にとって、たしかに救世主となるものだ。けれど、もし、かつての私と同じように、その雇用形式では苦しいと感じるのであれば、フリーランスなど、自分が輝ける道を目指すのも、ひとつの自己救済法だと思う。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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