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国の指定難病の下垂体性ADH分泌異常症とは??

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2022.5.28

9歳の頃から始まった異常なのどの渇き、水のガブ飲み、1時間に1回の大量の排尿、発熱。今回は、全国に5000人ほどしかいないと言われている難病の下垂体性ADH分泌異常症とはどんな病気なのか、自分の経験からお伝えします。

執筆:たに りゅうた

それはある日突然、訪れました。

9歳の時、異常な口の渇きから、水をガブガブと飲むようになり、1時間もたたないうちにトイレへ行き排尿。さらに毎日のように熱を出し、学校を早退するようになりました。

こうして、私の難病当事者としての生活が始まりました。



小学5年生になった年の初夏にはさらに排尿を我慢できる時間が短くなっていました。学校の授業が始まると15分くらいで尿意を催し、45分授業が終わった頃にはすでにお腹がパンパンだったのです。

チャイムの音がなった途端に、お腹をおさえながらやや前かがみでトイレまで猛ダッシュ!便器の前に立ち、大量の排尿をします。トイレを済ますと手洗い場へ行き、蛇口の水をガブガブ飲むまでがルーティーンでした。

「水が飲みたい!」「おしっこしたい!」「授業、早く終われ!」で、頭の中がいっぱいで、授業の内容は頭に入ってきませんでした。

さらに月曜から土曜日まで毎日、37度以上の熱を出して、学校を早退していました。

学校を早退して帰宅すると、冷蔵庫の扉を開けてしゃがみ込み、冷気を浴びながら麦茶やジュースをガブ飲みする生活を送っていました。それは、小学生だった私にとっての至福の時というよりは、一番安心できる時間でした。

夜間も、約1時間に1回の排尿と水分をがぶ飲みする生活でした。今振り返ると、小学5年生のときは、これまでの人生の中で一番睡眠時間が短かったかもしれません。

得体の知れない症状に悩まされ、母と病院へ。当時かかりつけの町医者で診てもらっても原因はわからず、そこから紹介されて総合病院では「尿崩症の疑いがありますが、うちでは治療ができません。」と言われて、大学病院の受診をすすめられました。

大学病院での診断名は下垂体性ADH分泌異常症。ADHは尿量を少なくする作用を有するホルモンのことです。このホルモンが少なくなることで、のどが渇き、大量の水分を摂取して、尿量が増加してしまうのです。

一度、発症すると治癒することはまれです。全国に5000人から10000人程度の患者数がいると言われていて、国の指定難病でもあります。



結果として、大学病院に約一カ月半入院することになりました。

当時、子供だった私から見た入院生活はネガティブな出来事の繰り返しでした。暗い部屋の中で仰向けにされて体を固定されたまま行うMRI検査、何度も刺される痛い注射。

同じ小児科病棟の子供たちは、白血病や喘息で苦しんでいました。私は、自分とはちがう病気を抱えている彼ら、彼女らを自分と重ねて見て、漠然とした病気に対する不安や恐怖を感じていたように思います。

まだまだ年齢的にも、精神的にも未熟だった私たちは、悩みを打ち明けることも、共に励まし合うこともありませんでした。

病気で蝕まれていく心と体を、俯瞰することもできません。病院内の景色は、僕の心を癒してはくれませんでした。

暗黒時代とも呼べるような闘病生活を送っていた私ですが、そんな中にも小さい光明はありました。それは、下垂体性ADH分泌異常症には、治療法があるということでした。

この難病は尿量を少なくするホルモンであるADHの分泌がうまくいかないことからいろいろな症状が出てしまいます。尿量を減少させる作用のある薬のデスモプレシンを投与するという対症療法があるのです。

「デスモプレシン」の点鼻薬を鼻に噴霧すると不思議なことに、水のガブ飲み、頻回で大量の排尿、発熱は、数分で症状が治り始めるのです。子供の私は、この薬を使ったときに、感謝や驚きよりも「元に戻った!」と感じたことを覚えています。

デスモプレシンは鼻に噴射する点鼻薬でしたが、最近は「ミニリンメルト」という経口製剤も出てきました。舌の下に入れて、吸収させる薬です。現在、私はそのミニリンメルトをメインの薬とし、補助的にデスモプレシンを使用しています。


下垂体性ADH分泌異常症は根本的な治療方法は確立されていないので、完全に治癒することはほとんどありません。薬のおかげで症状が楽になるので助かっていますが、あくまでも対症療法なのでずっと薬を摂取し続ける必要があります。

これからも、私はこの病気と共に生きていく事になるでしょう。

下垂体性ADH分泌異常症。発症原因は不明。

これが、私の難病当事者としての人生の起源です。

三重県出身。9歳で下垂体性ADH分泌異常症/下体前葉機能低下症を発症。日々の投薬や週に一度通院する生活を送っている。愛知みずほ大学卒。患者団体、三重県下垂体友の会会長、NPO法人三重難病連の理事も務める。社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、公認心理師として障害福祉の仕事に従事。

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