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念願の正社員になって見えた「会社で働き続けること」の難しさ

~内部疾患を持つ私が就職して感じたこと

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2022.6.8

一昔前に比べて、近ごろは各企業の障害者雇用が進んできていると思う。

けれど、雇用の先で障害者が感じる「もどかしさ」が解消されないことには、本当の意味での障害者雇用は進んでいかない。

一例として、今回は私が正社員として働いた中で味わった苦悩を紹介したい。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

バイト先で声をかけられて念願の正社員に

内部疾患は見た目で分かりにくく、言葉で説明しても理解してもらうことが難しいため、障害者枠で雇用に応募しても、面接で落とされてしまうことが少なくない。

現に私はことごとく採用されず、心が折れ、コンビニでアルバイトをするフリーターとなった。本当に仕事が見つからなくてしんどい…。勤務中に、そんな弱音をバイト仲間に溢していた時、レジに来たある年配女性から「だったら、うちの会社で働いてみない?」と声をかけられた。

思いもしない言葉に、驚愕。後日、会社で話をしようと言われた。教えられた住所を、半信半疑で尋ねてみると、そこには小さな工場が。中に入ると、あの年配女性が待っていてくれた。

その会社は、家族経営。年配女性は、会長夫人だった。従業員数は、社長やその妻である専務を含め、5人程度。会社を立ち上げて間もないため、これから従業員を増やそうと考えていたところだったそう。

頼まれたのは、事務職。私は事務経験がなく、簿記の資格も持っていなかったが、「エクセルやWordがある程度、使えればいい」と言われ、それならできるかもしれないと思った。

事前に先天性心疾患であることを伝えていなかったため、持病があることを切り出すのは怖かった。障害を知られたら、「この話は、なかったことに…」と言われるかもしれないと思ったからだ。

けれど、定期健診のために休みを貰わなければならないので、正直に打ち明けることに。すると、社長たちは若干、困惑したものの、「バイトもできてたんだし、日常生活に支障がないなら気にしない。定期健診で休みがほしい時は、その都度教えてね」と言ってくれた。

その会社は障害者雇用ではなく、健常者と同じように私を雇ってくれた。憧れていた正社員になれたことや、自分という人間が求められたこと。それが、私には嬉しかった。

「できること」を同僚全員に共有できないもどかしさ

私は月に1度、休みを貰い、定期健診へ行った。しかし、事務員が私ひとりだけだったこともあり、定期健診に行くと、仕事が溜まってしまい、翌日は毎回、激務となった。

そして、「昨日いなかったから、○○できなくて困ったよ(笑)」と同僚から言われることも。その度に、申し訳なさでいっぱいになった。

そこで、主治医に相談し、定期健診を3ヶ月に1回にしてもらった。やっと掴んだ正社員という肩書きを、私はどうしても手放したくなかったのだ。

やがて、会社は新しい工場を新設するほど業績が上向きになり、従業員の数も増加。しかし、同僚が増えていくにつれ、持病を理解してもらいにくくなっていった。

新入社員が入ってくるたび、「この前、休みだったけど、どうしたの?」と聞かれるようになり、説明をするのが苦しかった。心配してくれる気持ちは嬉しかったが、事情を説明した後に「毎月1回は必ず休むから、変だなと思ってたんだよね」と言われると、周囲から自分がどんな風に見えているのかが分かり、落ち込んだ。

職場という環境の中では、持病をすべての人に詳しく説明する機会は当然持てない。だから、いつしか、「あの子は心臓が悪いから、なるべく動かさないように」という暗黙のルールが社内で広まっていった。

その気遣いは、優しさから生まれた尊いものだ。けれど、私は居心地が悪くなった。自分ができることを普通にやろうとするたびに、「やらなくてもいい」と周囲から制止されるようになったから。

事務職の私は基本的には、工場内で作業をする同僚たちとは別の部屋で仕事をしていたが、時折、社長や専務から「荷物を持つのを手伝ってあげて」と言われ、工場内の現場へ行くことがあった。

しかし、現場にいる同僚たちは「重いから、体がしんどくなっちゃうよ」と言い、手伝わせてくれない。どれだけ「本当に平気なんですよ」と伝えても断られ、忙しい時には「何かあったら怖いから、手を出さないでほしい。他の人呼んできて」と強く言われた。

どんな仕事を、どれだけ任せてもいいのか分からない。なにかあったら、責任がとれないから怖い。それが、みんなの本音なんだろうなと思い、少し悲しかった。やがて私は、仕事を通じて絆を深め合う同僚たちの輪に入れず、社内で孤立していった。

採用の先にある「定着」を妨げる壁はどう壊す?

就職する前、私はどこかの会社に採用さえされれば、「働くこと」への悩みは解消されると思っていた。けれど、実際に就職してみて「会社に勤め続けること」のハードルの高さを思い知った。

定期健診のため、有給が発生する前に休みを貰うと減給されてしまうし、学校やプライベートとは違って関わる時間に限りがある同僚全員に、自分の病気を正しく理解してもらうのは不可能に近くて、歯がゆかった。

病気を思い、配慮してくれる周囲の優しさは障害を持っている身からすれば、とてもありがたい。けれど、気遣いが過度であると、私の場合は申し訳なさがこみ上げてきたし、自分が何もできない邪魔な存在のように思えた。会社の歯車にすらなれない人間だと感じた。

こうした苦しみを100%無くすのは、おそらく不可能だ。けれど、もし、風の噂で障害が伝わる前に自分の口から「できること」と「できないこと」を説明できる機会を作ってもらえたり、有給とは違い、減給がされない「通院休暇」のようなものが、どの会社にも義務付けられていたりしたならば、障害者が感じやすい働きづらさは少し解消されることがあると思う。

また、互いの事情を把握し合え、気兼ねなく通院できる職場は障害者だけでなく、健常者にとっても働きやすい場となるのではないだろうか。

障害者の就職には、まだまだたくさんの壁がある。けれど、十人十色な当事者体験を通し、壁となるものの正体が分かれば、壊し方を考えることができるようにもなる。

障害の有無に関係なく、様々な人が自分を酷使したり、傷つけたりしなくてもいい働き方が浸透していってほしい。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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