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障害者ではなく“私”として働ける「フリーランス」という働き方

~感じた喜びと辛さ~

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2022.7.6

「フリーランス」という働き方は様々な理由から、会社勤めが難しい障害者にとって魅力的な働き方だ。しかし、フリーランスとして食べていけるようになるまでの道のりは長く、事業が安定してからも体調を考慮して働くことが難しい場合も多い。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

体験談が売れた感動から「文を生業にしたい」と思った

目に見えない持病を周囲に理解してもらえず、会社勤めが困難だった私は「自分は一生、自立できないのではないだろうか」という不安に苦しめられていた。

そんな時、浮上したのが、彼氏との結婚話。「就職」から逃げるように、私は「結婚」という道を選び、持病があることを隠してパート勤めをするようになった。

しかし、やがて、夫の金遣いが荒くなり、家計は火の車。離婚が頭をよぎり、また「就職」という壁と向き合うことに。

当時、少しでも自力でお金を貯めたかった私は、お小遣い稼ぎができるアンケートアプリを利用していた。すると、ある日、そのアプリ内に体験談やレビューを募る案件が。昔から文を書くことが好きだったため、早速、500文字ほどの体験談を執筆。

貰えたお金は数十円だったが、自分の文がお金になったことに大きな衝撃を受けた。

1円未満の案件に消費された日々

この体験から、「文を生業にできたら…」と思うようになった私はネットで検索し、「フリーランス」という働き方や「フリーライター」と職種があることを初めて知った。他者に障害を理解してもらう必要がなく、障害の有無さえ関係ない「フリーランス」という働き方は、自分にとって最適であるように思えた。

これなら、私も自分を食べさせていけるくらい自立できるかもしれない。そう思い、クラウドソーシングに「ライター」として登録。とにかく実績を積んで、「フリーライター」と名乗れるようになろうと考えた。

しかし、思っていたよりも、フリーライターへの道は険しかった。ライター経験がない私がクラウドソーシングで請け負えたのは、文字単価1円未満の案件ばかり。執筆代だけでは食べていけず、パートを2つかけもちしながら執筆に励むという休日ゼロな生活を送るようになった。

障害の有無や障害者らしくない見た目をしているなど、これまで他者から重視されてきたことにまったく重きが置かれない、完全実力主義で納期厳守なフリーランスの世界は、私にとって居心地がいいものだった。

しかし、その一方で、体がついていかないことも多かった。障害があることさえ言っていない薄い関係性であるから、クラウドソーシングのクライアントにとっては、私が持病によってあまり体力がないことや疲れやすいことなどは関係がない。求められるのは、「完璧な原稿」だけ。

だから、自分のコンディションを無視し、クオリティと納期だけに目を向け、記事を執筆し続けた。多い時は、月間200記事近く執筆した。書けば書くほど稼げ、実績も増え、単価も上がっていく。

やりがいなんてどこにもなかったけれど、そのメリットがあったから、私は毎日、記事を執筆し続けた。

今もある「フリーランス」という不安定な働き方への不安

しかし、体は正直だった。ろくに休みをとらず、働き続けた結果、私は体を壊し、入院することとなった。「作業」とも言える低単価の記事執筆から離れて、ようやく気付いたのは「消費される働き方」を選んでいた自分の弱さ。

いつの間にか、私の中で「フリーライターになりたい」という想いは「一般企業で働けない自分にはこの働き方しかないから、しがみつかないといけない」という執着に変わり、消費される働き方を受け入れるようになっていたのだ。

そう気づいてから、私は請け負う仕事を選ぶようになった。そこそこ実績を積んでいたため、仕事が選べるようになったことも、もちろん大きかったが、せっかく障害者ではなく、“私”として働ける働き方に巡り合えたのだから消費されず、「やりがい」を感じられる記事を書きたいと思った。

そこで、媒体がどんなに大手であっても、「書きたい」と思ったら、積極的に自らライターを募集していないかと問い合わせするようになった。

そうやって、たくさんの挑戦と挫折を経験した結果、ようやくライターとして食べていけるようになれた。しかし、それでも不安と悩みは尽きない。なぜなら、フリーランスという働き方は会社員と比べて保証が少ないからだ。

例えば、風邪を引いた時。私は持病の関係で免疫力が低いため、症状が重くなり、完治までに必ず1週間はかかってしまうが、納期は厳守なので休むことは難しい。そのため、納期1週間前には原稿執筆を終えておき、体調が悪化しても大丈夫なように備えている。

現在、一緒にお仕事をしているクライアントさんはありがたいことに、みな体調に理解を示してくださる方ばかりだが、持病によってバリバリと働けない時があると、「フリーランスという働き方を選んでも私はダメなんだ」「どうして私はこんなにも弱い体なんだろう」と感じ、泣いてしまうことがある。

そして、通院時。繁忙期や納期がたくさん重なっている時期に通院日があると、1日の大半が削られてしまい、執筆が難しい。病院へ紙とペンを持ち込んで執筆するが、いつ名前を呼ばれるか気が気でなく、集中力が削がれてしまう。

また、ライター業は完全出来高制であるので、体調不良で執筆できないと生活ができないため、持病が悪化して働けなくなった時のことを考えると怖い。会社員と比べると、アフターフォローが十分だとは言えないフリーランスという働き方を、あと何年していけるのだろう、働けるうちに未来で必要となるお金を貯めなければ…と考え、自分にムチを打つことも少なくない。

注目度は年々高まっているのに、フリーランスはまだ社会的信用が得られにくく、福利厚生が薄い。だが、この働き方によって希望を見出せる人や自信を取り戻せる人は多いはずだ。

障害者だけでなく、様々な事情で会社勤めが難しくなった人が人生の再スタートを切ることができるような社会にもなってほしいから、フリーランスという働き方に潜む問題点が少しずつ解決されていってほしい。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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