PARA CHANNEL Cage

10年かかってようやく解けつつある「子どもを産めない苦しみ」

~きっかけは婚約者の言葉だった

1 1

2022.9.23

「子どもが産めなくても、気にしない」
持病が原因で妊娠・出産が難しい私に夫は、そう言ってくれた。

けれど、そんな優しい言葉をかけてもらっても、自分の中からは子どもを持てない人生を共に歩ませてしまうという罪悪感が消えず、苦しかった。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

産めない人生をどう生きたらいいのか分からない

18歳の頃、主治医から体のことを考えると、妊娠・出産は避けたほうがいいと告げられ、必然的に子どもを持たない人生を送ることになった。

当時、付き合っていた彼はそうした私の事情を「そうなんだ」の一言で受け止め、夫になってくれた。だが、結婚後、私の中では自分のせいで夫にも子どもを持たない人生を強いてしまったという想いが膨れ上がっていった。

甥っ子と楽しそうに遊ぶ夫の姿を目にした時や会社の人から冗談交じりに「夫婦仲はいいのか」と聞かれた話を打ち明けられた時、そして、夫の口から「子どもがいない分、お互いの甥っ子をかわいがればいいよね」と、まるで自分自身に言い聞かせるような言葉が飛び出た時、心が痛んだ。

私と結婚したばかりに我慢させることが多くなってしまった…。とコンドームなしのセックスに応えてあげられないことへのもどかしさを伝えられた時も、そう感じ、自分を責めた。

産めなくて、ごめんね。そう謝ると、穏やかで温厚な夫は「でも、子どもがいない分、お互いに趣味を楽しめるじゃん」と言ってくれた。

けれど、そうした理解ある言葉を言われても、私と結婚しなかったら子どもを持てる未来がこの人にはあったのだという想いが消えず、余計に自己嫌悪。

養子を迎えるという手段も一度は考えたが、自分にそんな器があるとは思えず、断念。「子どもを持たない人生」をパートナーと一緒に謳歌しようと必死にもがいても、ふと気づけば、「子どもを持てない人生」を歩むしかないのだと自身に言い聞かせる状態に陥っている日々。

苦しみを口にしたところで、夫は「そんなことはない」とフォローするしかないよな…。いつからか、そう思うようになり、私は自ら子どもの話題を避けるようになった。

「どれだけ大丈夫と言ってくれても、私は何度も悩んでしまう」とか「あなたとの子どもを産みたかった」と、もし素直に言えていたなら、私たちは今もまだ夫婦でいられたかもしれない。

直接的な原因は他にあったが、私たちは離婚し、他人になった。

離婚後、夫からシングルマザーとの交際をスタートさせたことを聞き、やっぱり私から解放してあげてよかったのだと思った。私では一生、築いてあげられなかった幸せを手にできたことを心の底から祝福した。

けれど、同時に、子どもを産めないという負い目がますます強くなっていった。「私だからパートナーを幸せにできる」がなく、「私だから幸せにできない」ことばかりなのだと痛感し、誰かと共に生きることが怖くなった。

パートナーに「子どもはいらない」と言ってもらえて心が楽に

それでも、ひとりで生き続けていくのは寂しく、人恋しくなったので、マッチングアプリアプリを利用して彼氏を作った。

正直、当時は結婚願望などなかったが、相手の時間を無駄にしてはいけないと思い、プロフィールに「子どもが欲しい」と記載している人とは最初から関わらないようにし、明記していない人には「将来、子どもは欲しいと思う?」と必ず確認していた。

その中で出会ったのが、いま一緒に暮らしている婚約者だ。彼は自分の給料では子育てをしていくことが難しいと思うし、かわいがれる自信がなく、苦手でもあるから子どもはいらないと言った。

「だから、子どものことは気にしなくていいよ。諭香が産めないんじゃなくて、僕もいらないと思うんだから」
そう言われた日、涙が止まらなかった。長年、自分の中にあった罪悪感がようやく薄れていったから。

子どものいない人生を歩むことになった責任を、いつも私は自分にだけ課していた。でも、相手から「いらない」と言ってもらえて、「子どもを持たないを道を歩む」という結論は2人で下した選択だと思えた。

子どものいない人生を、相手に強いるわけじゃない。そう感じることができて、私はようやく、産めない苦しみや自分を責め続ける日々から少し解放された。

正直、今でも街で親子連れを見ると、心がざわつくことはある。私に対して優しい彼はきっと、子どもがいたら過保護なくらい愛情を注ぐのだろうな…と、一生来ることがない未来を想像し、鼻の奥がツンとすることもある。

けれど、毎週末、必ず2人で過ごす時間を取ってくれる彼の姿を受け、子どもがいなくても人生を謳歌することはできるのかもしれないと、少し前を向けるようになった。

一生、我が子を抱けない。愛する人の子どもを産めない自分がもどかしい。どうしようもない事情から、そんな苦しみと闘わざるを得ない人は意外に多い。そうした人の心の重荷が少しでも軽くなるよう、誰かに私の体験談が届けばいいなと切に思う。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

このライターが描いた記事

障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」新規登録受付中!!

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ADHD編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! 車いす編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ASD編

LINE 公式アカウント友達募集中! ID:parachannel