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同じ病気なのに状態がいい人が羨ましい…

病気持ちあるあるな「嫉妬心」とはどう向き合う?

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2022.10.5

同じ病気を抱えているのに自分よりも術後の経過や体調がよかったりする人を見ると、嫉妬心を抱いてしまうことがある。
処理するのが難しい、そんな感情とはどう向き合い、折り合いをつけていけばいいのだろうか。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

入院生活でひとりの女の子と出会って価値観が変わった

「古川さんは術後の経過がいいから、そんなに前向きになれるんだよ」
持病を公表し始めてから、何度かそういう言葉をかけられたことがある。

同じ病気と闘っている人が自分よりも不自由なく生きているように見えると、羨ましさを感じるのは人として普通のことだ。私だって、そう思ったことがあるし、「なんで私だけ、こんなにも辛い思いをしなくちゃいけないんだ」と、闘病仲間を恨んだこともある。

「私の辛さなんて、誰も分からへんくせに」
そう言いながら、周囲の人を遠ざけ、ツンツン生きていた時期もあった。

けれど、ひとりの女の子との出会いによって、持病の受け止め方や同じ病気と闘う人に対する感情が変わった。

小学校4年生の時。私が患っている単心室症では最終手術だといわれている「フォンタン手術」を行うため、数ヶ月間、入院した。その時、同じ部屋だったのが、私より2~3歳ほど年上だった、ひかるちゃん。

ひかるちゃんは入院生活が長く、院内学級に通っていた。明るくて社交的な彼女は積極的に話しかけてくれた。他人を遠ざけるようになっていた私はその優しさに触れ、徐々に心を開いていった。

お母さんが好きだという『ベルサイユのばら』を貸してくれたり、眠れない日には「どうしたの?」と話しかけてくれたりと、ひかるちゃんはとにかく優しかった。彼女がいたから、私は長い入院生活に耐えられた。術後、採決と点滴が繰り返されても、明日は一緒に何しようかなとわくわくできるようになったのだ。

退院を一緒に喜んでくれた優しさと強さに触れて

そんな矢先、私の退院日が決まった。私はその事実を、なかなかひかるちゃんに伝えられなかった。自分よりも入院歴が長いのに退院できないひかるちゃんの心境を想像したら、とてもじゃないけれど言えなかった。自分なら、理不尽さに腹が立つし、悲しいだろうなと思ったから。

けれど、母親同士も仲良くなっていたため、親を経由して退院日が知られてしまった。その時、ひかるちゃんは「いいな、おうちに帰れて…」と一瞬涙ぐんだ。けれど、すぐにいつもの笑顔になり、私に「よかったね、おめでとう!これで学校にも通えるし、いろんなところにも行けるね!」と心から喜んでくれた。

その姿を見て、私は子どもながら自分の小ささに気づかされた。本当は「なんで、私だけ退院できないの」と文句のひとつも溢したいだろうに、その感情をグっとこらえ、相手の幸せを共に喜び、笑うことができるひかるちゃんは、なんて大人で強いのだろうと思った。

その強さを目にしてから、私は同じ病気を患っている子と自分の人生を比べないようになった。自分自身には悲観的に思える人生でも、他の誰かから見れば羨ましく感じられることもあるのだと知れたし、そのことに対して優越感を持つのも違うと思うようになったからだ。

誰かと比べて恵まれていると安堵する時間があるのならば、今この瞬間をもっと楽しもう。体が自由に動く幸せを思いっきり漫喫し尽くそう。そう思うようになった。

同じ病気の仲間が感じている辛さに寄り添える強さを

現在、私の体調は比較的安定している。だが、いくら主治医や周囲から「状態が安定している」と言われても、ある日突然、体調が悪化するのではないかという不安は消えない。病院のベッドの上で1日を終える自分の未来が頭に浮かび、生きていくのが怖くなる日もある。

そうした恐怖を抱えているのは、きっと私だけではない。傍から見れば、羨ましくなるほど健康状態が良好そうな人でも、疾患を持っていれば、こうした見えない時限爆弾に怯える日があるはず。

障害の症状の違いはあれど、当事者が感じている辛さに重い・軽いの差はないし、未来はどうなるか分からない不安と闘っているのは、みな同じ。当人の苦しみや恐怖は、その人にしか分からないのだ。

だから、経過が良好に見える誰かを妬んだり、自分を卑下したりするのではなく、同じ境遇であるからこそ情報共有をし、互いに健康でい続けられるように協力していくことが大切だと私は考える。

似た苦しみを味わっている者同士、手を取り合い、治療法や抱いている悩みを共有し合っていけば、今よりも生きやすい道が開けることもあるのではないかと思う。

「いつか、また一緒に遊ぼうね」と退院時にひかるちゃんと交わした約束は、いまだに叶ってはいない。その誓いが果たされる時、恥ずかしくない自分で彼女の前に立てるよう、あの時、ひかるちゃんがくれた優しさを私は他の仲間に配っていきたい。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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