全盲の私にとっての生活上の3つの工夫
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2022.9.17
私は全盲の視覚障碍者です。「目が見えない人は普段どのようにして日常生活を送っているのだろう?」と想像しづらい方もいらっしゃるかと思います。今回は、私なりにしている生活上の工夫について書いてまいります。
執筆:小川 誠
「目が見えない人は普段どのようにして日常生活を送っているのだろう?」と想像しづらい方もいらっしゃるかと思います。
どのようなときに困るのか。他の人に頼まずに自分で行うならどのような工夫が必要なのか。
今回は、私なりに行っている生活上の工夫について書いてまいります。
料理や食事の際、どうやって調味料の中身を判別するのか
料理や食事の際、調味料の中身が何か分かるようにしておかないといざ使うときに困ってしまいます。
醤油やソースの場合は香りに特徴がありますので、鼻を近づけて確認すればどうにかなりますが、砂糖や塩には特徴的な香りがないので気を付けなければいけません。
私は点字シールに調味料の名前を書いて容器に貼りつけています。このシールのおかげで、容器を触っただけで中身が分かるのです。
シールだけでなく、容器そのものに視覚障碍者が使いやすいように工夫されている便利グッズもあります。一押しすると、一回分の調味料が出て量の調節をしやすくなっているなど、調味料の計量を手助けしてくれるのです。
料理をする際は、食材に火が通っているかどうかの判断が難しいです。匂いや音を頼りに判断するのですが、火を通しすぎたり生っぽかったりするときもあります。
最近では冷凍食品など短時間で失敗なくできる商品が出回ってきてますので、私が料理を始めた30年前に比べると格段に便利になっていると感じます。
料理レシピサイトも充実してきており、視覚障碍者でも簡単に作れそうなメニューも多く紹介されるようになってきました。
郵便で、普通文字の印刷物が届いたらどうするのか
普段から、私の所にも様々な郵便物が届けられます。
点字で印刷されている郵便物は問題ないのですが、中には普通文字で印刷された郵便物も多数あります。
以前は家族に見てもらっていたのですが、忙しいなどの理由ですぐには確認できないことが多く、家族の機嫌が悪いときなどは、なおさら頼みにくくなります。
最近では、スマートフォンのアプリを使えば文字を読み上げてくれるので、書類の内容が分かるようになりました。このアプリのおかげで、郵便物が届いたらすぐに確認出来るようになりました。書類にかざすカメラの位置によって、文書全体を読み上げてくれないこともありますが、どのような内容なのかが分かるだけでも助かるのです。
視覚障碍者向けのアプリは何種類かあるので、私は状況に応じて使い分けています。先ほどのように文字を読み上げてくれるアプリだけではなく、洋服の色を確かめたり、自分が持っているお札の種類を確認できたりと、さまざまなアプリがあります。
電車に乗るときにドアの位置をどうやって判断するのか
電車に乗るときはいつも慎重に判断するように気を付けています。
まず、電車が停車する際のドアの場所が分からないのです。点字ブロックはホームの終わる位置を教えてくれますが、ホームのどの位置で待っていると、電車が停車した際にドアの近くになるのかは教えてくれません。
私は何度も同じ駅を利用して、ドアの位置を覚えるようにしています。
電車が到着して、ドアが開く音がしたら、その音を頼りに電車に向かって歩いていきます。電車に触れたら、車体に沿って進んでドアを探します。これを繰り返しながら、次回以降のためにドアの位置を記憶するのです。
電車のドアの前であればどこでもいいわけではなく、私は下車するときに階段やエスカレーターの近くで降りられる位置を探しています。そのため、一回で上手くいくことはありません。根気の要る作業ですが、今のところ確認を繰り返して覚えることしか方法はないです。
となりのホームに到着した電車の音を聞いて、あたかも自分が待っているホームに電車が到着したと勘違いすることがあるので気を付けなければいけません。間違えると、ホームに転落する恐れがあります。
まとめ
ここまで、私が日常生活を送っていく上での工夫をご紹介しました。
現在、視覚障碍者における生活上の工夫はICTやIOTを利用した流れになってきています。人によるサポートも欠かせないこともありますが、便利な道具や機械の力を借りながらある程度のところまで、一人で出来ることが多くなってきたように感じています。
しかし、視覚障碍者がデジタル機器をうまく取り入れた生活の話が、どの程度世の中に知られているのかわかりません。生活上の不便さは、まだたくさん存在すると思いますし、新しいテクノロジーや社会的制度によって、新たな不便さが生まれてきます。
不便を解消して、生活の満足度を上げていくためには、当事者が情報をしっかり発信していくことが大切だと思っています。その声を社会全体がくみ取ってくれるからこそ、手助けしてくれる商品やサービスが生まれるのではないでしょうか。