弱視の新聞記者が写真が撮るのが得意な理由
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2022.10.17
こんにちは、視覚障がいのライター榎戸です。
先日、ある方から「視覚障がいの方の得意なことってなんですか?」と質問してもらいました。
それを聞き、以前弱視の新聞記者さんが「私、写真を撮るのが得意なの。」と話していたのを思い出しました。
記者さんの言葉が、「得意なこと」を考えるヒントになるかもしれないと感じたため、今回はその時の体験を書かせてください。
執筆:榎戸 篤 Atsushi Enokido
新聞記者は視覚障がい「でも」できるのか?
大学生だったボクは、とある駅で人を待っていました。
当時、「記者になりたい」と夢みていたボクは、弱視の新聞記者さんと会ってもらうことになっていたのでした。
「榎戸さんですか?」
顔を上げると、そこには白いハットをかぶった、すらりとした美人な女性が立っていました。
女性を見て、ボクは大興奮!!
・・・ではなく、丁寧にご挨拶をし、近くのカフェへ。
榎戸「新聞記者さんって、弱視だと困ることも多いんじゃないですか・・・?」
席に着くなり、単刀直入に聞いてみました。
記者さん「たしかに現場へ行くと、見えずらくて困ることも多いね。例えば火災現場で警察発表が遠くに掲示されたりして。でもそういう時は、『確認のため近くで見せてください』とかうまいこと言って対応してるわね 笑」
榎戸「臨機応変さが大切なんですね。他に困ったことってありますか?」
記者さん「そうだね、あとは車の運転かな」
榎戸「車の運転?」
記者さん「新聞記者は、若手の頃は地方支局で勤務して、それから東京や大阪の大都市に転勤になるんだよね。地方支局では、取材へ行くのに運転免許が必要なの」
榎戸「じゃあ、どうされたんですか?」
記者さん「会社に理解があって、特別に地方支局勤務を免除してもらえたの。そのことで、年齢が経った頃に苦労もしたけどね」
榎戸「苦労ですか?」
記者さん「支局時代の記者同士のネットワークとか取材のノウハウとか、自分にはないからね。
でも全体を通してみると、視覚に障がいがあっても十分にできる仕事じゃないかなと思うわ」
「会社に理解をしてもらえれば、新聞記者は障がいがあってもできる―――」
当時のボクは希望を持ったのでした。
「私、写真を撮るのが得意なの。」――障がいがある「から」できる仕事――
榎戸「社内に他の障がいの方もいるんですか?」
記者さん「そうねぇ。記事をチェックする校閲部門に聴覚障がいの方がいるね。聴覚障がいの方にとっては、ハンデが少ない分野なのかもね」
榎戸「そういえば、新聞記者さんは自分で写真を撮影するんですか?」
記者さん「そうね、大きな記事は専門のカメラマンさんがいるけど、小さな記事は記者が撮影することもあるかな」
榎戸「それって、視覚障がいだと難しくないですか?」
記者さん「うーん、どうだろう・・・」
記者さんは少し沈黙したのち、ボクが思ってもいなかった返事をしてくれました。
記者さん「でも私、写真を撮るのは得意なのよね」
榎戸「え??」
記者さんの言葉の意味がわからず、困惑するボク。
榎戸「え、どうしてですか?写真は視覚障がい者にとってハンデの大きい分野なので、難しいような気がするんですけど・・・」
記者さん「んーなんでだろうね。たぶん、私が目が悪いからこそ得意なんじゃないかな?やっぱり、私にとってわかりやすい写真って、みんなにとってもわかりやすい写真なのよね」
ボクは、そこでハッとなりました。
それまでボクは、ハンデをどう乗り越えるかばかりに注目していました。
しかし、記者さんの言葉で、
視覚障がい「だからこそ」できることもあるのかもしれない・・・
そう気づいたのでした。
障がいがある「からこそ」できる仕事が増えれば・・・
近年では、ウェブサイトのデザインを当事者がチェックし、「障がいがあっても(=万人にとって)見やすいか?使いやすいか?」を企業・行政に伝えるコンサルタント企業があります。
また、暗闇の中で視覚障がい者が健常者をアテンドして、暗闇の中での体験を楽しんでもらう「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というエンターテインメント施設もあります。
普段、どうしても障がいが「あっても」できる仕事を考えがちですが、このように障がいがある「からこそ」できる仕事もあります。
このような仕事が増えれば、障がいが価値に変わり、障がい当事者が自信を持って仕事ができる社会になるんだけどな・・・
と願いを込めつつ、この記事を書かせてもらいました。
Text by
Atsushi Enokido
榎戸 篤
1989年生まれ、東京都青梅市出身。
3歳の時のケガにより弱視に。視力は左0.04、右0。
現在は、テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターとして活動中。
▼執筆媒体
当事者向け旅行サイト「COTRAVEL」
障がい者ライフスタイルメディア「Media116」