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障害児の視点から思う「障害児のきょうだい」であることへの葛藤

~姉に対する申し訳なさが消えなかった

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2022.11.14

障害児のきょうだいは、親が障害児を贔屓したり、かかりきりになったりしてしまうため、もどかしい思いをすることも多い。そして、親に特別扱いされる障害児も、きょうだいに対して複雑な感情を抱くことがある。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

母親を独り占めしている罪悪感と喜び

無脾症候群の私は免疫力がないため、風邪を引いて体調を崩すことが多く、幼い頃は入退院を繰り返していた。

そのたびに、母は病院に寝泊まり。7歳上の姉は、母がいない日を何度も乗り越えなければならず、寂しさを感じていただろう。

一方、私のほうはというと、母を独り占めしていることに罪悪感を持ちながら、驕ってもいた。私と過ごす時間のほうが長いから、お母さんはお姉ちゃんよりも私のほうが好きなんだ、と。

だから、ある日、自信満々に尋ねた。「もし、お姉ちゃんと私、どっちかの味方しかできなかったら、どっちを助ける?」と。当然、私だと言ってくれるだろう。そう思っていたが、予想に反し、母は「諭香はお父さんが甘いから、助けてくれると思う。だから、お母さんはお姉ちゃんの味方でいるよ」と言った。

なんだ、私は愛されているのではなくて、病気だから気にかけてもらっているだけなんだ。そう感じ、姉を妬むようになった。

もし、生まれる順番が違っていたら、私は健康体だったのではないか。自分だけ、健康な体に生まれてずるい。

当然、そんな汚い感情は面と向かって言えなかったから、私は自分の大変さをアピールすることで、遠回しにじわじわと姉を攻撃した。

今でもはっきり覚えているのが、フォンタン手術をするために入院した小学4年生の頃、院内から姉に送ったメッセージ。当時はまだ、ポケベルが主流の時代。私は院内に設置されていた公衆電話から姉のポケベルに「自分は大変な思いをしているから、お姉ちゃんは健康な体でよかった」というような内容を送った。

それは、おもいやりのように見える悪意。私の本心など知らない姉は返事をくれ、お見舞いにも来てくれた。そうした優しさを受け、自分はなんて嫌な妹なんだろうと、子どもながらに思った。

私にだけ甘い父親の贔屓に苦しめられた

良好だった姉との関係は年を重ねるにつれて、険悪なものになっていった。その原因は、父の贔屓だ。父は私に障害があることを上手く受け止められず、私を甘やかし、特別扱いした。

例えば、姉が携帯電話を欲しがっても許可しなかったのに、私が欲しがった時には「仲間外れにされないように」と即許可。おそらく、これは、ただでさえ障害があり、孤立する可能性が高い私への父なりの配慮だっただろうが、「時代が変わったんだ」と言い訳をし、私が望むタイミングで携帯電話を買い与えた父の姿を見て、姉は「なんで諭香にだけ、いつも甘いの?」と泣いた。

また、父は日常生活のあらゆる場面で私にだけ甘く、他の家族が言うと頑なに受け入れないことでも私が伝えると、すんなり了承してくれることが多々あった。

だから、姉や母はアルコールを飲み、機嫌が悪くなった父に何か言いたいことがある時、「あんたが言えば、怒らないから…」と伝言を頼むように。それが、私はすごく嫌だった。

怒りのスイッチが何で入るか分からない父に話しかけるのは、私だって怖かった。それに、父が私に甘いのは、障害があることが理由だ。その特別扱いが、暗に「お前は家族の一員ではない」という意味であるように感じられて、優しくされるたび、苦しかった。

私は「諭香だけに甘くて、ずるい」と泣く姉の横で、何度も罪悪感を抱えながら、贔屓されない姉のほうが本当の娘のようで羨ましいと思っていた。

親の管理下から離れたことで姉妹関係が良好に

姉妹の関係が再び良好になったのは、お互いに家を出た後。姉は私より早く結婚し、県外へ嫁いだ。実家に残された私は、正直、あまり帰省してほしくないと思っていた。姉は家族の中で唯一、私に甘くなく、両親から甘やかされる日々を送っていた自分にとっては怖い存在だった。

だが、自身も結婚し、親元を離れて生活するようになると、姉に会いたいと思うようになった。親には言えない相談事も姉になら言え、互いに年を重ねて丸くなったからか、姉妹で遠方に出かけたり、家族ぐるみで遊んだりするようにもなった。

親を独り占めした・されたという歯がゆさや親からの贔屓によって亀裂が入った私たち姉妹は、親の管理下から逃れて、ようやく姉妹らしくなれたのだ。

当時を振り返ると、今でも私は姉に罪悪感を持つことがある。自分だけ贔屓され、優遇されて育ってきて申し訳なかったと。けれど、前に一度、姉にその気持ちを伝えた時、「そんな風に思われても嬉しくない」と言われたから、この罪悪感には自分なりの折り合いをつけなければいけないと思っている。

障害児を持つきょうだいも、健常者をきょうだいに持つ障害者も、どちらも複雑な思いを抱えることがある。もちろん、時が経っても分かり得ないケースもあることは事実だが、少しだけ相手の立場に立って心境や見えている景色を考えてみると、きょうだいに対する気持ちは変わるかもしれない。

また、きょうだいの溝が生まれないようにするには親が障害の有無に関わらず、できる限り平等に接するよう、心がけることも大切だと思う。

家族の中で唯一、私を特別扱いせず、対等に向き合ってくれる姉。そんな姉と姉妹であるように生まれてよかった。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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