PARA CHANNEL Cage

一般校に通う全盲の少女が教えてくれた、一緒に学ぶからこそできること

1 1

2022.10.25

盲学校で学んでいた私にとって、一般の学校に通う全盲の少女の姿は、まぶしいほど輝いて見えた。ともに学ぶ。そのことにどれほどの意味があるのか。私の思いを語ってみる。

執筆:山田 菜深子

同級生の女友達が1人もいない。盲学校に通っていたとき、それが悩みの種だった。

そんな私にとって、一般の学校に通う全盲の少女の姿は、まぶしいほど輝いて見えた。すべての子どもたちが一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」がもたらすものはとても大きい。

ともに学ぶ。そのことにどれほどの意味があるのか。私の思いを語ってみる。


忙しいキラキラ中学生

それは数年前。一般の中学校に通う全盲の少女と関わりを持ったことがある。

活発な彼女は、売れっ子女優を連想させるほど忙しそうだった。1日24時間で本当に足りるのだろうかと陰ながら心配したことをよく覚えている。

学校の勉強だけでも大変な上に、ハードな吹奏楽部の活動にも取り組む。それに視覚障害者として必要な専門教育も受けなければならず、その一部は学校外の場で補っていた。そしてもちろん友達と遊びに出かけることだって欠かせない。

それだけのスケジュールをこなすとなると、相当なエネルギーを消耗することだろう。

それでも彼女はまぶしいほどキラキラしていた。険しい道でも力強く足を踏み出していた。ひそかに羨ましさをかみしめたものである。

みんなが参加することを優先

彼女に関するエピソードで特に心を揺さぶられたのは、吹奏楽部でマーチングをやったときのことだ。

演奏しながら歩くというマーチングは、視覚障害者にとっては結構な難題である。普段私たちは周りの状況を体全体で確かめながら丁寧に歩みを進めていくものであるが、演奏中にそんなことはできないからだ。

自分の楽器に集中しながら移動すれば、仲間にぶつかるなど事故を招く恐れがある。そういう状況で落ち着いて演奏などできるのか。そのプレッシャーはどれほどのものだろうか。

彼女も心配になったようで、辞退しようとした。だが顧問の先生は、それを受け入れようとはしなかった。不安そうな彼女に、「仲間と助け合えばできる」とゴーサインを出したのである。

私が彼女なら、この時点で逃げ出していたかもしれない。そんなの無謀だ、と。だが彼女はそうしなかった。仲間に合図してもらいながら移動し、無事マーチングをやり切ったのだという。

「なんて素敵な話だろう!」と私は感嘆した。

逆のパターンはよくある。障害のある子どもがやりたいことがあると言っても、「何かあったら困るから」と学校側に止められるというのが一般的な流れだ。学校に限らずそういう場面は本当に多い。

ところがこの先生は違ったのだ。もちろん安全には配慮しなければならないし、よりよい演奏をすることも重要であるが、それ以上に仲間同士助け合うこと、みんながその場に参加することを大事にした。彼女も勇気を出してそれに応えた。

彼女にとってもその仲間たちにとっても、かけがえのない貴重な経験になったことだろう。その後の彼女に会うと、一段と輝きを増したようだった。


希望する道に進めるように

子どもの頃の私には、彼女が経験したようなインクルーシブ教育など全く縁のない話だった。私の住む地域では、それを実現できる環境が整っていなかったのだ。

盲学校もよいところだった。素敵な仲間や先生と出会い、手厚い教育を受けることができた。このことには感謝している。

ただ、交友関係を広げるという部分については不足していた。全校生徒の数が少なく、クラスメイトに同性の友達がいなかった私は、「修学旅行の夜は恋バナで盛り上がる」などというあるある話を耳にすると心に小さな痛みを感じたものだ。今でも時々、その痛みはふとしたときに顔を出す。

また同じ境遇の仲間とは出会えたけれど、「さまざまな背景を持つ仲間と出会い、一緒に何かを成し遂げる」という機会はほとんどなかった。幼い頃からそういう経験を積み上げておけたらどんなによかっただろう。

盲学校など特別支援学校を否定するつもりはない。ただ、一般校に通いたいのに障害を理由にその道を選べないというケースは今もあり、残念に思う。簡単なことではないかもしれないけれど、学びの場を分けることを前提とせず、どんな障害があっても希望する学校に安心して通えるよう環境が整うことを切に願っている。


助け合うのは当たり前

「障害者だからといって、助けてもらうことを当たり前だと思ってはいけない」という意見を耳にすることがある。

確かにそうかもしれない。目の見えない私は日常の中で助けを借りる機会が非常に多いけれど、それを当たり前だとはもちろん思っていない。

ただ、それでは障害さえなければ「助けてもらわずに生きていけるのが当たり前」なのかと言えば、そういうわけでも決してないはずだ。

私は、「助けてもらうのは当たり前じゃないけれど、助け合うのは当たり前」だと思いたい。インクルーシブ教育などをきっかけにそういう社会を作りたい。

困ったときは誰でも遠慮なく声を上げられる、そんな環境が必要なのだ。みんな、たった1人で生きているわけではないのだから。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

このライターが描いた記事

関連記事

障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」新規登録受付中!!

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ADHD編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! 車いす編

マンガで分かる!採用担当者必見、採用前・面接・採用後など場面別のポイント全部解説! ASD編

LINE 公式アカウント友達募集中! ID:parachannel