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目に見える障害と見えない障害はどちらが苦しい?

内部疾患者が「顔面神経麻痺」を経験して気づいたこと

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2022.12.19

先天性心疾患という目に見えない病気を持って生まれた私は就職時などに理解が得られないことが多かったため、持病を目で見て理解してもらえる「見える障害」を正直、羨ましく思うことがあった。

だが、1年ほど前に顔面神経麻痺という病気を経験し、自分の考えの浅はかさを痛感した。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

顔面神経麻痺を通して変わった「目で見える障害」の捉え方

目で見て分かってもらえるから、羨ましい。内部疾患を抱える中で、そう思うことが多かった。

例えば、就職時に「あなたの障害は車椅子の人のように目で見て分からないから、言っていることを完全に信じられない」と言われた時。もし、持病が目で見て分かるものであれば、こんな言葉に傷つけられることはなかっただろうなと、苦しい気持ちになった。

どんな病気であれ、人それぞれ、違う苦しみがある。それは、頭では分かっていた。けれど、心がついていかなかった。どんな言葉で説明しても、自分の状態が上手く伝わらず、分かってもらえないもどかしさに打ちのめされていた。

そんな思いを抱え続けていた時、顔面神経麻痺になった。ある日突然、顔の右側が動かなくなったのだ。

顔面神経麻痺は、発症から1週間ほど経った頃がピークで一番、顔の状態が悪い。私の場合は口が上手く開閉できず、飲み物を含むと溢れていた。顔の筋肉が徐々に硬直していく感覚が怖く、ひたすらスチーマーで温め続けた。

けれど、麻痺は進行し続け、やがて右目を完全に瞑ることができなくなり、笑顔も作れなくなった。睡眠時は目が乾かないように、医療用の角膜保護用テープを使用して、強制的に目を閉じさせる日々。

コロナ禍であったため、通院時や外出時はマスクを着用していられたが、鏡で自分の顔を見るたびに絶望。「こんな顔なら死にたい」と何度も思った。

それと同時に、目で見える障害を持つ方々を軽視していた自分がいたことに気づかされた。

持病が目で見えると理解を得られやすい反面、人目が気になったり、鏡などを通して自分の障害を自覚する機会が増えたりする。

目で見える障害を持つ人々は、そうした絶望を乗り越え、心ない視線と闘いながら生きているのに、私は「理解されやすい」という面しか見ていなかったのだなと、深く反省した。

目に見える障害と目に見えない障害には各々違った苦しみがある

目で見える障害と、内部疾患のような目に見えない障害はどちらか苦しいか。そうした議論は、しばしば行われることがある。だが、どちらも経験してみて思った。各々に違った辛さがあるため、優劣などはつけられない。

目で見えない障害は理解がなされにくいが、好奇の視線を向けられにくい。対して、目で見える障害は周囲の視線に苦しむことがある一方、障害を伝えやすい。私自身、周囲に病気をカミングアウトした時、「見た目が普通だから気にしない」と言葉をかけられることがよくあったが、よく考えれば、その反応には双方の苦しみがよく表れていると思った。

どちらもそれぞれに大変で、当事者は様々な葛藤と闘い、歯がゆさを乗り越えながら生きているのだ。

だから、健常者だけでなく、私たち障害者も双方の心を考慮した対応や声かけをしていけたらいいなと思う。自分が持っている障害は苦しいものだ。けれど、他者が持っている、自分の知らない障害にも苦しみや大変さはあるのだと、思いを馳せられる人が増えたら、障害者同士の助け合いでの輪も広がりそうな気がする。

自分と誰かを比べ、現状を嘆くのではなく、似た想いを経験したことがあるからこそ、知らない苦しみにも寄り添いたい。そんな決意を胸に宿しながら、様々な障害に触れていくことが、両方のもどかしさを味わった私の目標だ。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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