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きこえる人のようにしゃべること~4

障害者のことを「知る」だけで意識が変わるということ

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2022.12.21

「きこえる人のようにしゃべること」連載コラムの第4回目です。

前回のコラムでは「聴覚障害者の特有の悩み」、「障害受容っておかしくないか?」などについて話しました。
今回は、現状を改めて再認識しつつも前向きな話をしたいです。

きこえる人のようにしゃべること~その1~音声を出すのをやめたら生きやすくなった
きこえる人のようにしゃべること~その2~頭がいい人でも聴覚障害のことは理解しにくい
きこえる人のようにしゃべること~その3~なんかおかしいぞ。「障害受容」という言葉

執筆:中川 夜 Yoru Nakagawa

この「きこえる人のようにしゃべること」シリーズ、ほとんど暗くて重い話だなあと読み返しても思います。どのコラムも日本社会に対して、不平不満の声が大きいし多すぎますね。控えめに言っても、事実そうですとしか言えないです(すみません)。

理由をどう考えても「日本社会は、健常者前提に設計されている」ために、障害というさまざまな特性を持っている人は場合によっては「生まれてこない方がマシじゃね?」と思うほど生きづらい、になるからだと思います。

障害当事者にとっては「うんうん!」な話ですが、健常者にとっては、「???」かもしれません。

でもそれって、「知らない」、「実感として身にしみていない」だけだと思います。

そのわけは、健常者と障害者の間で、身体などをはじめとする「そもそもの前提となる感覚」が異なっているから。

日本社会では、障害者に対して「ただ、そういう人なだけ」ではなく、「(能力的に)劣っている人間」という見方をされることが多いなと感じます。

海外と日本国内での意識の差

今年の夏から、ありがたいことにネットニュースサイトでのインタビュー記事の執筆を依頼されるようになりました。

今は聴覚障害者に関連する記事がメインなのですが、余裕があれば、他の障害者のインタビュー記事も執筆したいと思っています。

そのインタビュー記事を通して、他の意見や考えを聞く機会が増えました。最近、聞いて驚いたのは、海外の人たちの障害者に対する価値観の話です。

手話を言語とするろう者の方が海外に旅行した時の話です。
目的地に行きたい、しかしGoogleマップを開いてもわからず、そこにいる人に道を聞いた時、驚いたそうです。

その人曰く、「日本人だったら、“自分はろう者!”というジェスチャーをしても声で説明されるけど、海外では、自分がろう者だとわかると、声じゃなくて、身振りで道案内される」とのこと。

「それどころか、“ついて来て!”というジェスチャーをしたあとで、わざわざ目的地まで連れてくれた。ちょっと言いにくいけど、日本じゃまだありえないよね」

「うんそうだね」と頷きました。
日本だとちょっとありえない話はまだ続きます。

「またあるところで、どのバスに乗れば目的地に着くかわからなくて…。現地の人に聞いた時、その人も同様に親身になってくれたんだよ。指さしで説明してくれただけじゃなくて、無事にバスに乗れるまで最後まで見守ってくれて。ああいう温かい交流は日本だと難しいところもあるなあと」

「ええ話や…(ほろり)」と思いました。

しかし、「でもそれが海外ではごく自然なんだよね。それがとてもびっくりだった」と言われ、「そうか、日本だとまだありえないが、海外だと普通にありえるのか」と心中複雑になってしまいました。

また、中川がとても驚いたことが以下の話です。

「ある国の有名な美術館でろう者が働いているんだよ。それもいろんな障害者も働けるような体制を作っている」

思わず目が点になりました。
「日本じゃまずありえないレベルでありえないよね」という暗黙のなかで、お互いに共感のあいづちを打ちました。

日本のありかたをこきおろして申し訳ないです。

とは言え、日本ではどう考えても美術館のような公共施設で障害者が働くという素地はまだ作られず、またその兆しは見いだせない状態です。当面はありえないだろうなと思うしかない、そんな日本社会って一体…。

けど、海外だったら、そんな理想郷といえるものが実現できているのです。

日本人はまだまだ「障害者のことを知らない・わからない」だけ

そういう海外の障害者観は、日本人にとっては耳が痛い話かもしれません。

現状として、ほとんどの日本人は障害者を見ると身構えます。良くて、関心を向けるか、悪いと、無関心に徹するか。

障害者に対して、無遠慮な視線の上に、嘲笑することの方が多かった時代があったことから見ればかなり改善されていると思います。

このことについてある人から、「そういう方は、単純にどうしたらいいかわからないだけなんですよね」というコメントを貰いました。

「障害者を知るきっかけがあれば、人はどうすればいいかわかるんですよ。今はユニバーサルマナー検定(※1)があります。それをきっかけにして、障害者とは?を知るという方法もありますね」

「ほとんどの人が、実は“知らない・わからない”から、どうしたらいいかわからない。何かしたらいいと思うのだけど、それもわからないから、無関心を通してしまう。でも知っちゃえば、意外と人は理解もできるようになるし、かつ、行動できるようにもなるんですよね」

大きく頷きながら同意しました。

※1ユニバーサルマナー検定…高齢者や障害者、ベビーカー利用者、外国人など、自分とは違う多様な方々へ向き合うためのマインドとアクション「ユニバーサルマナー」を体系的に学び、身につけるための検定です。

「知る」だけで意識が変わるということ

ここからは、中川の体験談になります。

今年11月に入ってから、耳鳴りのあまりのひどさで、あちこちのカフェを巡っていました。

意外だと思われるかもしれませんが、聴覚障害者でも耳鳴りという現象は起きます。

個人差はありますが、意外と、聴覚障害者の方が健常者に比べて耳鳴りがすることはけっこうあるんじゃないかなと思います。どんだけ生きづらいの…この身体。

家にこもっていると、耳鳴りがキンキン&ガンガンと響くし、嫌な記憶がよみがえってくるのです。耳鳴りも辛いのですが、嫌な記憶がフラッシュバックする現象にはとても参っていたのです。

とにかく辛かったので一時しのぎのつもりで、カフェに行きました。そこで、人心地を感じることで、多少はマシになりました。

あちこちカフェに行くのも体力的にきついものがあって、近所にあるスターバックスコーヒーに落ち着きました。かねてから、そのスターバックスコーヒーには細々と6年以上通っていました。

そこの店員さんのなかには、中川の顔を覚えてくれて簡単な手話をしてくれる人も2〜4人いました。

しかし、だんだん毎日通うようになると、遠慮がちだった男女の店員さんたちも身振り、簡単な手話、筆談のいずれかをしてくれるようになりました。積極的に中川とコミュニケーションをとろうとしている、という気持ちが徐々に見えてきました。

とくにとりたてて、こちらから何かしたわけではないのですが。

中川は、いつも声を発さずに、「指さし注文」と簡単な手話(ありがとう)だけしていました。

中川に慣れていない店員さんにとっては「???」と戸惑い、ぎこちない対応でした。視線を合わさず、声を出す様子もありました。

目を合わせてくれる人は、中川に慣れた人でないと難しかった記憶があります。

中川は声を出さないので、中川の動きを見てくれないと注文はできません。なので、こちらに視線を合わせてくれるように、かつ、わかりやすく伝わるように、リアクションは大きくしていました(OKサインをいくつか作ったり、表情はあえて大げさにしたり)。

幸か不幸か…というと、難しいですが(耳鳴りが極限きつい時は辛いものではあったので)、耳鳴りがきっかけで足しげく通うことになったことで、そのお店全体で、ろう者である中川の顔が周知されたらしいです。

「どうしたらいいかを知る」だけで

そのうちに、だんだん、そこの店員さんには教えてない手話で話してくれたり、他愛ない会話などを筆談してくれたりするようになりました。

本音を言うと、図々しくいつも長居をしてしまうことを申し訳ないと思ってました。にもかかわらず、ささやかな交流がだんだん増えるにつれて、とても助けられました。耳鳴りがなおるわけではないのですが、そこにいると気持ちが安らぐようになりました。

それどころか、店員さん何人かに「中川さんが来てくれてみんな喜んでいます」というコメントを何度かいただくようになりました。

社交儀礼だと言えばそれまでですが、行くたびに、店員さんが嬉しそうに微笑んでくれる様子に「本当に喜んでもらえていると思っていいんだ!」と思うようになりました。

このように、毎回通って、「あ、(中川とは)こんな方法でコミュニケーションをとればいいんだ」ということを知ると、相手も余裕が持てるようです。

そしてコミュニケーションに工夫する余地も生まれるようでした。店員さんとのやり取りのなかで、中川は自分自身の障害を忘れる時もありました。

こういう場がなかったら、家で行き場のない感情や言っても仕方ない愚痴をえんえん呟いていたと思います。そして、同居している両親をとても困らせていたと思います。

中川の精神状態が悪くなると、家の中が不穏になる傾向があるんですよね。どういうことなのよと思いつつ、何かすみません…としか。そういうこともあって、なるべく中川の精神状態は元気でいる必要がありました。

余裕がない時はさすがにしんどくて仕方ありませんでした。自分のことでいっぱいいっぱいになっている間、家にいると、家族ともども不安になるということを何度も経験していました。

あちこちのカフェに行ってたのは、自分に余裕を作るために、藁にもすがる思いでした。

そんな中、意外や意外、スターバックスコーヒーと思わぬつながりを構築することができました。本当に、どういうことなんでしょうと首を傾げますが、とってもありがたいばかりです。

そしてスターバックスコーヒーが多くの人に愛される理由を痛感しました。ありがとうございます。

って何の話でしたっけ

「知る」だけで、障害者に対する意識が変わるということでした。

「知らない」と、やはり人は無意識に身構えてしまうということなのでしょうね。

このコラムがきっかけで、障害者を「知ろう」、「話したい」、「わかりたい」になれば嬉しく思います。

生まれつき、耳が聴こえない。
が、大人達から「聴者」のように接され、中学生から不登校に。
人間関係が原因で、20代前半に幻聴がきこえ、病院で統合失調症と判断される。リハビリ後、一般就労先で「これまで原因は貴方にあったのではなく背景に外的要因があったから」という会話らとの出会いをきっかけに、深い心理的安全を得る。その経験を元にコラムを書くことに至った。

このライターが描いた記事

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