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全盲の私に書くことの楽しさを教えてくれた、ビール大好きエッセイストさん

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2023.2.16

ありのままの日常を文章にして発信することにした、全盲の私。この活動を始めたのは、共感と驚きと笑いを味わわせてくれる素敵なエッセイスト・北大路公子さんにあこがれたからだった。

執筆:山田 菜深子

ありのままの日常を文章にして発信することにした、全盲の私。この活動を始めたのは、共感と驚きと笑いを味わわせてくれる素敵なエッセイスト・北大路公子さんにあこがれたからだった。

彼女のエッセイのすごさとはどのようなものか。彼女のようになりたくて文章を書き始めた私が感じることとは何か。一番好きなエッセイ集を紹介しつつ、公子さんへの感謝を込めて綴ってみる。


こんな私がなぜ書くの?

文章を書くのが好きだ。何かというとそう公言している私であるが、文章を書くのが得意なわけでは決してない。形にするのがどうしようもなく遅い、ということにいつも悩まされている。

早めに仕上げなければならない仕事の原稿に取り組もうとしても、キーボードの上に置いた指はなかなか動き出そうとしない。やっと動き出したかと思うとすぐに止まり、また思い出したように動き出したかと思うとすぐに止まり、そのうちネットサーフィンなんかして現実逃避し始めたりする。

さらには「今書くべきことを頭の中でじっくりコトコト煮込んでるところだから」などと誰にともなく言い訳して、疲れてきたらそのまま昼寝モードに突入。そんなことを繰り返すばかりなのである。

全く、こんな私なのにこうして書くことを続けているのはなぜだろう。そもそも、なぜ書くことを始めたのだろう。それはほかでもない、北大路公子さんにあこがれてしまったからだ。

この本、すごいんだから!

北大路公子さんといえば、北海道在住、ビール大好きなエッセイストさん。たまに飲みすぎてやらかしちゃったりするところなんかも魅力的に表現する、文章の職人さんである。

一番好きな本を挙げるとすれば、『私のことはほっといてください』というエッセイ集。公子さんのエッセイ集はどれも面白いが、私のお気に入りはやっぱりこれ。そっと背中を押してくれる、大切な本なのだ。

この本の何がすごいって、まずエッセイのネタの選び方。これがもう絶妙。「父の部屋のテレビの音量が大きすぎる」とか、「お風呂に入らなきゃいけないけどめんどくさい」とか、「耳鼻科に行こうと決めたけど鼻に突っ込まれるあの棒が嫌だ」とか、「ああ、そういうのあるよね!」と思わず叫んでしまいそうなものが盛りだくさんなのだ。

すごいのはそれだけじゃない。共感に気持ちよく浸っていたら大変なことになる。突然驚きの世界に連れていかれるからだ。「お風呂めんどくさい」というぼやきのエッセイかと思って読み進めると、「めんどくさくて動けないのには木星が関わっているに違いない」と話が予想もしない方向に広がったりするから慌てる。もう、笑わずにはいられない。

共感して、驚いて、笑って。忙しい読書体験となるのである。

ネガティブな部分も輝いて見える

公子さんは只者じゃない。私もそんなふうになれないものだろうか、と思った。そして、動き出した。「とりあえず自分もそれっぽいものを書いてみよう」とパソコンに向かったのだ。

まずは、自分のありのままの日常を文章にして発信するところから始めた。公子さんのような職人になれる日は遠いとわかっていたけれど、自分なりにやってみたのだった。

それを続けていくと、「それっぽいもの」すらなかなか生み出せない私ではあったが、大きな気付きを得ることができた。「視覚障害、これっていい武器じゃない?」と感じられたのだ。

目が見えないことで、いろんな失敗をしてきた。できないことに遭遇して、何度となく無力感を覚えた。「ああ、全盲ってめんどくさーい!」と叫んだこともあった。でも、「お風呂めんどくさい」と同じ感覚でそんな経験もネタにしてみると、ネガティブな部分がちょっと輝いて見えたのである(自己満足かもしれないけれど)。

というわけで私は今、ちょっと恥ずかしいところでも何でも文章にして、平気でさらけ出している。「どんどんネタにしてみんなで笑い合おう作戦」だ。不思議なことだが、そうすることで、昔は大嫌いだったダメな自分を少し愛せるようになった気がする。やっぱり書くことは楽しい。


私も誰かのチョコレートに

公子さんの本に限らず、私は日常を描いたエッセイが好きだ。ただ面白いというだけではなく、「癒しを与えてくれる」というところが大きな魅力。なるほど、こんな生き方があるのか。こんな考え方もできるのか。そう気づけるから、読んでいると心が軽くなるのだ。

何だかエネルギーが足りないなというときでも、日常エッセイを読めば元気がわいてくる。幸福な気持ちになれる。私にとって、疲れたときに食べる一かけらのチョコレートのような存在になっているのである。

私もいつか、誰かのチョコレートになりたい。そんな思いで、今日もパソコンに向かって奮闘している。相変わらず指の動きはのんびりしているけれど、そういう自分もまあ、ありか。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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