主治医と歯科医の間で意見が対立!
心疾患の私が歯科治療時に飲むべき抗生剤の適正量は…
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2023.3.22
大人になった先天性疾患者へのサポートは、不足している。そう感じることが、年齢を重ねるにつれて多くなっていく。そのひとつが、歯科治療。主治医と歯科医の間にある意見の食い違いをどう受け止めるべきか、いつも迷う。
執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa
***編集部より***
薬の作用・副作用については個人差があります。
服用にあたっては、必ず主治医や医療機関での診察の指示に従ってください。
このコラムは、あくまでもライター個人の経験に基づくお話です。
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歯科治療の前後に飲む抗生剤の適正量が分からない
単心室・単心房症で無脾症候群を患っている私は感染性心内膜炎を防ぐため、抜歯の際は治療の1時間前に抗生剤を8錠、治療後に4錠、他の歯科治療の際は治療前に6錠、治療後に3錠、飲まなければならない。
成長に伴って、服用する抗生剤の量が増えるという変化はあったけれど、これは幼少期から主治医に「絶対守ってね」と言われている約束事だ。
だが、歯医者で持病があることや治療の前後に抗生剤を飲む必要があることをカウンセリング時に話すと、担当する歯科医から決まって「そんなにも飲んでるの?うちには他にも心疾患の人がいるけれど、みんな1~2錠くらいだよ。本当に、その量が必要なの?」と笑われる。
ある時は、同じく治療の前後に抗生剤を飲んでいる他の心患者の診療時、担当歯科医が「すごく多い量の抗生剤を飲んでいる人もいるみたいですけど、普通なら今は1~2錠ですよね」と笑いながら雑談する声が聞こえてきて、悲しかった。自分がしている対策法が馬鹿にされているように思えたからだ。
もしかしたら、最近、抗生剤の適正量が変わってきたのかもしれない。そう思い、定期健診の時に主治医に確認してみると、やはり治療の前後に飲む抗生剤は私が認識している量だった。
そこで、歯医者で言われたことを相談してみると、「そうやって言われても、こっちの約束を守って。その人、きっと知識がなくてそう言ってるだけだから」と言われた。その言葉も、なんとなく嫌だった。私は自分を介して誰にも争ってほしくはないし、どちらの医師とも穏便に付き合っていきたいと思っていたから。
結局、適正量は自分の中で不明なまま。その後も、歯医者で治療を受けると、たまに「抗生剤飲んできた?あの量は多いと思うけど(笑)」と嫌味のような言葉を言われ、モヤモヤした気持ちになることがある。
専門領域が違う医師同士が連携して患者への指示を統一してほしい
こんな風に専門領域が異なる医師同士の見解の違いは、これまでにもあった。妊娠・出産は避けてほしいと言う主治医と、持病を知っても「妊娠・出産できるから相談してね」と言った産婦人科医の間で、子どもを産めるのか、産みたいのか悩んだこともある。
そんな見解の違いにぶち当たるたび、私はひとつひとつの人生選択に、ものすごく迷い、自信が持てなくなる。どちらか一方を信じることは、もう片方の意見をないがしろにすることになる。「なかった意見」にされたほうは、嫌な気持ちになるよな…と、自分が悪いわけではないのに心の中に申し訳なさが募っていく。
私が選んだ選択は、正しかったのだろうかと不安になることもある。「それが正解」だなんて、誰も言ってはくれないから。
立ち止まった時は、いつも信頼関係が長い主治医の意見を優先してきた。だが、20代後半の頃に主治医が変わり、信頼関係がゼロになってからは、本当に誰のどの意見を信じて、色々な選択をしていけばいいのか分からなくなった。
一度、新しい主治医から「市販の風邪薬なら、どれでも飲んでいい」と言われ、初めて市販薬を服用したところ、立っていられないほどの眠気とふらつきに襲われ、後に、顔見知りの薬剤師からイブプロフェンが入っているものは避けたほうがいいと言われたことがあった。
この経験から、私は新しい主治医を信用することができなくなり、助言をされても素直に受け入れられない。あなたが示す人生選択は、私にとって本当に正しいのだろうかと疑ってしまうのだ。
子どもだった頃は悩むことがなかった問題や、これまで耳に入らなかった新たな意見に大人の先天性心疾患者は悩み、迷う。その中で、どの意見を信じ、誰に従って決断を下すかを個々にゆだねられると、命がかかわってくる分、重くて苦しい。
だから、大人になれた先天性疾患者が「大きな責任を自分が背負っている」と感じなくてもいいよう、様々な領域の専門医が連携し、意見が異なる時は医師同士で連絡を取って、患者が迷うことがないよう、指示を統一してほしい。
愛想笑いをしながら抗生剤の量に対しての不満をぼやく歯科医の話を聞いたり、他の医師との見解の違いに憤る主治医の苛立ちを受け止めたりする時間は、本来ならば必要がないものであり、精神衛生上、ないほうがいいものだ。
たったひとつの選択が、私たちにとっては命取りになることだってあるからこそ、その怖さを患者と共に理解し、一緒に人生の歩み方を考えてくれる医師が増えたら嬉しいと思う。