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障がい者採用のミスマッチを防ぐ、1番の方法

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2023.3.10

先日、採用担当の方向けのウェビナーに登壇させていただきました。

その時、多く頂いた質問が「障がい者採用でミスマッチを防ぐために、何をすれば良いでしょうか?」というものでした。
障がいがある従業員の離職が続き、悩まれている担当の方も多いですよね。

そこで今回は、身体障害の場合はまず職場を当事者に見せてくださることがミスマッチを防ぐ特効薬になることや、その時に当事者の本音を聞き出しやすくする方法など、自分の経験を踏まえて書かせてください。

執筆:榎戸 篤 Atsushi Enokido

私のミスマッチ体験 ADになってみたものの…

「じゃあ、よろしくね!」
契約書にサインした僕は、その女性とぎゅっと手を握り合いましたーーー

2017年、僕は4年半技術職として勤めていたテレビ番組の制作会社を辞め、ADとして別の制作会社に転職しました。
理由は、「とにかく現場に行きたい」その一心。

たくさんの会社に断られる中、女性ディレクターが経営する制作会社が僕を拾ってくれました。

しかし、この判断が間違っていたことに転職まもなく気づかされました。

「新橋までカメラの機材を取りに行って」

私に与えられた最初の指令でした。

僕は一目散に会社を出て、新橋に向かいました。
そのリース会社は、かなり駅から離れており、迷いに迷いました。
しかし、なんとか見つけ、帰社。

戻った自分が真っ先に言われたことが

「一体どこ行ってたの?」

でした。
普通の人が2時間位で行けるところを3時間かかったのです。

その後も、

・買い出しには時間がかかる。
・掃除を任されれば汚れの見落としがある。
・暗いスタジオでは何も見えず、セットを組めない。

…仕事をこなしていくことが無理なのは、誰の目にも明らかでした。

もちろん、視覚障害のことは伝えてありました。
しかし会社側からすると、

・同じ業界の技術職ができて、掃除はできないの?
・文字起こしは普通にできるのに、買い出しには時間がかかるの?

そんな事前に予想していなかったことの連発だったと思います。

逆に僕の立場からすると、

・事前に現場の作業を具体的に知らなかったため、どの業務ができないかを採用前に伝えることができなかった。

という事情があります。

結局、僕は数カ月で退職させてもらいました。

挑戦させてくれたこの会社には感謝と申し訳なさがあります。だからこそ、事前に互いのずれを埋め、ミスマッチを回避できなかったか?と考えることがあります。

ミスマッチを防げた体験 上司に連れられ…

今度は逆に「ミスマッチ」を防げた体験を。

退職後、僕は前にいた会社に技術職として再入社させてもらうことになりました。

再入社してから少し時間が経ったある日、上司が「今の技術職以外でやりたいことない?」と言ってくださいました。

そこで、現場に少しでも近づける編集にも前々から興味があったことをお伝えしました。

時が流れ、そのことを忘れていた僕に、上司が「編集部の部屋見に行くぞ」と声をかけてくださいました。僕は「ついに現場に近づける!」とルンルンで上司に連れて行っていただきました。

しかしそんな明るい気持ちは編集部に着いたとたん、一気に消え失せました。

編集部の扉を開けると、ピリッとした空気が。番組オンエアのための追い込み作業が行われていました。

僕はてっきり、映像を預かり、時間までに仕上げるという流れかと思っていました。

しかしその目算は甘かった。

番組が行われている裏で懸命に編集作業が行われ、ディレクターが「これをこうして!」と編集マンの隣で指示。編集マンはその指示に瞬時に対応する。そんな息が詰まるような光景でした。

「一つ一つの動作を瞬時に行えなければ、ここでは邪魔になる。自分にはそれができない」そう僕は感じ取りました。

編集部を出て、「どう?」と聞いてくださった上司に僕はありのままお伝えしました。

そして僕はこの上司にただただ感謝し、技術職で頑張ろうという決意を新たにしたのでした。

上司が自分を信じて現場を見せてくれ、意見を聞いてくださった結果、ミスマッチが防がれたのでした。

当事者が職場を見るのが大切な理由~実は、障がいのことは当事者が1番知っている~

採用担当の方の中には、ミスマッチが起こる原因として「障がいへの知識不足」をあげる方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに知識も重要だと思います。

ただ障がいは人それぞれ、職場もそれぞれです。周りが事前に予想できないことがたくさんあります。

そのため、調整が大変だと思いますが、自身の障がいを1番わかっていて何ができるか(何ができないか)を一番知っている本人に職場を見せ、意見を聞いてくださるのが実は1番効果的だと思います。

採用前、当事者の本音を聞き出す方法とは?

ただここで問題になってくるのが、採用試験になると受験者はなかなか本音を言わないということではないでしょうか?

そこで当事者の本音を聞き出しやすくする方法を3つあげたいと思います。

まず1つが、同じ職場に当事者がいる場合、当事者に立ち会ってもらうという方法です。

何かを聞かれる時、同じような立場の人には言いやすいということがあります。

たとえば、妊婦に向かって「大変なことは?」と同じ女性が聞くのと、男性が聞くのとでは印象が変わるでしょう。髪の薄い方に向かって「困っていることは?」と中高年が聞くのと、若い方が聞くのとではイメージがだいぶ変わります。「良いダイエット知ってますか?」とスレンダーな人が言うのと、ぽっちゃりしている人が言うのとでも印象が変わるでしょう。

人間、自分に近い立場の人にはより本音が言いやすくなる。その原則は障がいも一緒。

採用試験でも活用するのが効果的だと思います。

2つ目の解決策が完全に主観になりますが、お子さんのいる女性に話を聞いてもらうことです。

やはり、女性(特にお子さんのいる女性)は共感力が高い人が多い。

カウンセリング講座などで、相手の話を聞く方法としてまず大事だと語られるのが「共感力」です。共感力なくして本音を引き出せることはありません。

そのため、お子さんのいる女性に聞いてもらうことが良いのではないかと思います。

そして3つ目が、「本音を言わないで入社した場合の受験者の損失」をしっかりと伝えることではないかと思います。

受験者はどうしても「受かりたい」という気持ちで視野が狭くなりますよね。そこで、「もしミスマッチで入ってもらったら…」とイメージしてもらうことで、一度立ち止まり、冷静になるのではないかと思います。

そのように、社員と協力しつつ、本人に本音を話してもらう場づくりをしてくださると、ミスマッチがだいぶ少なくなるのではないかと思っています。

少しでもお互いの望まぬ結果にならないよう、この記事が何かのお役に立てたらうれしいなと思っています。

1989年生まれ、東京都青梅市出身。
3歳の時のケガにより弱視に。視力は左0.04、右0。
現在は、テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターとして活動中。
▼執筆媒体
当事者向け旅行サイト「COTRAVEL」
障がい者ライフスタイルメディア「Media116」

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