心疾患の私が生まれたことで険悪になった両親と祖父母
原因の追及よりも“今”を大切に
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2023.6.5
どうして、我が子に心疾患が現れてしまったのか…。そう自分を責める親御さんは、きっと多い。だが、原因の追究よりももっと大切なことがある。それは、生まれた障害児が自分を責めることなく生きられる環境を整えていくことだ。
執筆：古川 諭香 Yuka Furukawa
私が生まれたせいで両親と祖父母の仲が悪くなった
「お前らのせいで、諭香の心臓は悪いんやぞ」。
今は亡き祖父母のことを思い出すと、父のそんな罵声が蘇ってくる。
我が家は、父方の祖父母がいとこ同士で結婚した。日本では法律上、いとこ同士の結婚は禁じられていない。だが、祖母は結婚時、リスクが生じないか心配していたそうだ。祖母が結婚した当時は結婚相手を自分で選べない時代だった。親が選んだ相手と結婚をして、家庭を持つ。それがその時代の当たり前だったと聞いたことがある。
父は3人兄妹だが、誰ひとり障害を持っていない。私の母も姉も健康体だ。私だけが先天性心疾患という状態で生まれてきた。先天性心疾患の発症原因は現代の医学を持ってしても、不明だとされている。だが、私に障害があることが分かった時、両親は祖父母を責めた。血が濃いいとこ同士で結婚なんかしたから、障害がある子が産まれてきたのだ、と。
両親と祖父母は、もともとあまり仲が良くなかったが、私の出生を機に関係はより険悪なものになった。母は「おばあちゃんたちがいとこ同士で結婚しているって知っていたら、お父さんとは結婚しなかったと思う」と時折、口にした。
父はお酒の酔いが回り、いつもより饒舌になると、「俺は自分の親を恨んでる」とよく言った。その言葉を聞くたび、私の中に罪悪感という重りが募っていった。自分さえ生まれなければ、残酷な言葉を両親に言わせることがなかったのに、と。
祖父母は、恨まれていることを知っていた。特に父の恨みが強いことを分かっていたため、父がいる時はあまり私と関わってくれなかった。一緒に遊びたくて、祖父母の部屋に行っても父がいる日は「この部屋は寒いから風邪引いてまうで、リビングに戻りい」とよく言われた。父も接触を避けさせたかったようで、祖父母の部屋で私が遊ぼうとすると連れ戻しにきた。
私がいることで、家庭がピリついている。家族が家族じゃないみたい。幼いながら、そう感じ、私は自分の命を恨んだ。生まれてこなければよかった。私さえいなかったら、我が家は普通の家族のままでいられたんじゃないか。いつも、そう思っていた。
障害が現れた原因を追究するよりも“生まれてきたこと”を喜んでほしい
両親が祖父母に向けた恨みは、私を想うがゆえのものだと大人になってから気づいた。だが、そう気づいても、一度芽生えた家族への罪悪感や自分の出生への嫌悪感は消えない。今でも、私は家族間に亀裂が入ったのは自分のせいだと思っている。今は天国で暮らす祖父母にとって、私はどんな孫だったんだろう。後悔の産物でなければいいのだが。
親としては我が子に障害があると、何が原因だったのだろうと、どうしても考えてしまう。だが、そうした原因の追及が当事者にとっては自分の命を否定されているようで辛く思えることもある。
誰かを責めたり、原因を見つけようと躍起になったりするより、私は生まれてきたことをただ受け入れ、存在を認めてほしかった。入退院を繰り返し、手がかかる子どもでも「生まれてきてくれてありがとう」と抱きしめてほしかった。遊びたいと思った時に、家族に甘えたかった。ただ、それだけの願いがすごく贅沢で、求めてはいけないもののように思えた。
障害児が自分の生に自信を持てるかどうかは、家族という一番身近な大人が障害をどう受け止めるかに大きく影響される。障害は、受け入れることが難しいものだ。かわいい我が子であれば、なおさらのことだろう。だが、家族が障害に対してネガティブな思いを持っていると、当事者はその気持ちを感じ取り、生きづらさを抱えてしまう。
障害を受け入れることは簡単ではないが、障害はあくまでもその子を形成する一部の要素でしかないと思うことができたら、我が子の見え方が少し変わり、親側の肩の力も抜けるはずだ。
せっかく家族になれた命を間接的に否定せず、とことん愛してほしいと思う。
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