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「心の大切さ。人には無限の可能性が内在している」視覚障害の私がダイアログ・イン・ザ・ダークで働くこと

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2021.4.8

ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)でアテンドスタッフをつとめる佐久間麻理子です。DIDは暗闇の中での体験を通して、人と人とのかかわりや対話の大切さ、五感の豊かさを感じる「ソーシャルエンターテイメント」を運営しています。ここでは視覚障害のある私がDIDで働くことについて書きたいと思います。

執筆:ダイアログ・イン・ザ・ダーク

自分が「視覚障害者」であることを知らずに育った

「黄斑ジストロフィー」という病気を、みなさんはご存じですか?

これが私の病名です。目の奥にある網膜の黄斑部が変形している病気で、年齢を重ねてから発症する方もいらっしゃいますが、私は生まれつきでした。

物心がついたときからこの状態だったため、「視覚障害」であるとは知らず「ちょっと人より目が悪いだけだ」と思って育ってきました。

しかし、結局目が見えにくいことに変わり無く、サポートや支援のない学校や社会で生きていく上で困ること、できないことはたくさんありました。

そんな環境で育ったからか心はどんどんと萎縮し、何をやっても自分はダメな人間、「できない自分が悪いのだ」と思うようになっていきました。

文字通り、心が死んだ状態で日々を過ごしていたのです。

そんな時、ある医学博士と運命的な出会いをします。

その先生は私に「人にはみな同格に無限の可能性が内在しています。それを発揮するカギは心です。自分がそうしたいと思うことが大切です。あなたはどうしたいですか?」と聞いてくださいました。

そして、その先生との出会いが私の人生観をすべて変え180度違う生き方へと導いてくれたのです。その学びが今も私を支えてくれています。

社会で「働きたい」と思う気持ち

3年前のことです。子育ても一段落し仕事をしたいなと思い10年ほど前に取得した障害者手帳を握りしめ、市の支援センターを訪れました(子どもへ遺伝していることがわかったとき、初めて自分が障害者だと知りました)。

支援員さんに付き添ってもらいハローワークで仕事を探しましたが、視覚障害者を対象とした求人は募集数も少なく、なかなか見つかりません。

そんな時、偶然立ち寄ったスーパーでスタッフ募集をしていることを知り、ダメ元で応募してみました。

面接当日、面接官に視覚障害があることをお伝えしましたが、とても気さくに「とりあえずやってみましょう」とあっさり採用してくださったのです。

仕事内容はスーパーのパンコーナーで売られているパンの製造です。

久しぶりの社会復帰でドキドキでしたがコーチやスタッフの方々は私の目のことを受け入れてくださり、丁寧に指導してくださいました。

仕事を始めてから2ヶ月が経ち、もうすぐ独り立ちというときです。パンの生地をはさみで切り分ける作業中、自分のビニール手袋も一緒に切ってしまったのです。

私はそれに気が付かず、そのままビニール手袋をパン生地に練り込みそうになりましたが、たまたまコーチが横にいて指摘してくれたため、大事には至りませんでした。

自宅に帰り一連のことを思い返すととても恐ろしくなりました。
一歩間違えたら食品異物混入になるところです。

私が「働きたい」と思うだけで会社や社会にこんなにも迷惑をかけてしまう・・・すぐに辞めなくては!と次の日、店長に伝えました。

すると店長は「もう少しがんばってみない?製造ではなくほかの仕事も見つけてあげられるかもしれないよ」と言ってくださったのですが、私の思いだけで解決することではないと感じ、これ以上ご迷惑はおかけできません、とその日で退職をしました。

「あ~~、私はやっぱり役立たずなんだ・・・」と落ち込みかけたとき、お腹の奥底の方から「ピンチはチャンス!」という想いが湧き上がってきたのです。

不思議な感覚なのですが、落ち込んでなんかいられない!と気持ちを切り替えることができたのです。

このような、自我を超えた湧き上がる気づきはとても大切だと今も感じています。

そこですぐに「視覚障害 仕事」とネットで検索し、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下DID)」と出会うことができました。

DIDのWEBサイトには、見えないことが強みになること、見えないからこそできる仕事であると書かれていたのです。

DIDは視覚に頼ることのない、真っ暗闇の世界をアテンドと呼ばれる視覚障害者が案内し、対話や発見を楽しむソーシャルエンターテイメントです。自分にとってはマイナスでしかなかったこの目が能力に変わるなんて驚きです。

すごい衝撃を受けたのを覚えています。

社会の中で人に活かされ人と共に生きていく

DIDに関わってから2年半ほどが経ち、今アテンドとして思うのは「感謝」です。

恩師が教えてくれたように「心」って本当に大切だと感じています。

障害があっても無くても、年齢や立場、人種や国が違っても、心はみんな一緒です。そして心を大切にし、本音に気づくことができたならそれはとても素晴らしいことです。

本音って「本当の音色」—本来とても美しいものだと思うのです。

それが喜びだけではなく苦しみや痛みから出たものであっても吐き出すことができたなら、それはとても美しいことだと思います。

DIDの真っ暗闇にはそれを引き出す力があります。

そんな貴重で大切な一瞬を、ゲストと共に過ごすことができる・・・なんとすごいことでしょう。

余計なものを取り払い本来の姿で対話ができる、人のあたたかさを感じることができる、人っていいなと想うことができる、知らない自分に出会うことができる、それがDIDです。そこに身を置くことができていることを本当に幸せだと感じています。

家族、仕事、学校、生きていく上で必ず人と人は関わっています。切っても切れないのが人間関係です。

社会の中で人に活かされ人と共に生きていく、それを、今実感しています。

昔は目のことがあり対人恐怖症にまでなりましたが、今は人と出会うのが大好きです。

昔の私に伝えてあげたい、「今私はとても幸せだよ、あなたは何も悪くないよ」と。

そして、仕事を通し人と出会い、まだ知らない自分と出会い、可能性の扉を開いて、人として成長していきたいです。

さいごに

現在、ダイアログ・イン・ザ・ダークはコロナ禍で全国のイベントが縮小・中止となり、今後の存続が危ぶまれています。

視覚障害者の雇用の場であり、人と人とのかかわりや対話の大切さを広げる「ダイアログ・ミュージアム」存続のためにクラウドファンディングを実施しておりますので、ご支援いただけますと幸いです。

純度100%の真っ暗闇の中で、視覚以外の感覚を使い、驚きに満ちた発見をしていくエンターテイメント。視覚障害者のアテンドの元、感覚を広げ新しい感性を使い、チームとなった方々と様々なシーンを体験します。1988年ドイツで生まれ、 これまで世界50か国以上、800万人以上が体験。日本では1999年に初開催し、23万人以上が体験。現在は東京のダイアログ・ミュージアム「対話の森」と大阪「対話のある家」で開催。

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