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職場での合理的配慮が障害者だけではなく、すべての従業員に活用される社会へ。

2021.5.3

一人ひとりの障害の種類や程度、ニーズに合わせて、可能な範囲で配慮を行う合理的配慮。これは障害者雇用を取り組む企業の多くで実行されていることです。しかし、合理的配慮が必要なのは、障害者だけなのでしょうか。職場を見渡せば、障害者以外にも、配慮が必要な働きづらさを感じている方がいるのではないでしょうか。

執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki


障害者雇用の現場では「障害のある社員に対する配慮」は「やらなければならないこと」として考えられています。

働く障害者側にとってみれば、自分の障害を開示し、障害者雇用枠として採用・入社しているのだから真っ当な話ですし、例えば、障害に対する配慮がないから会社を辞めるというのは筋が通っていることでしょう。



障害者雇用の制度だけでなく、さまざまな法律によって、障害者の働きやすさは担保されるようになってきました。

合理的配慮は多くの企業・職場の中で実行されており、働く障害者それぞれに思う節はあったとしても、全体論として職場環境は改善されてきています。

私自身は合理的配慮を「一人ひとりの障害の種類や程度、ニーズに合わせて、可能な範囲で配慮を行うこと」と定義していますが、合理的配慮を全体対応と個別対応とをうまく組み合わせて実施している企業は増えています。



しかし、以前、障害者雇用のサポートをしていた会社で起こった、とある事案によって、障害者への配慮に関する考え方が少し狭いことを気づかされました。

その会社では、うつと診断され、障害者雇用で採用された方に対する配慮やサポートは手厚かったのですが、同じ会社で働いている方の中に、うつだと診断された方がいたとき、その方への配慮やサポートは障害者雇用の方と比較すると手厚いとは言えず、むしろ、邪険に扱われたり、陰口を叩かれたりする状況があるとほのめかされました。

実際、その方は障害者手帳を取得するほどの症状ではなかったのですが、うつという同じ症例に対し、障害者雇用であれば手厚く配慮するけれど、障害者雇用でなければ配慮はされないというのは、いささかナンセンスに感じました。

また、合理的配慮という言葉は、多くの場合、障害者を対象としたときに使われますが、同じ症例であっても、障害者でなければ使われないとすれば、それは、他の生きづらさや苦しさ、マイノリティ的な背景を抱えている方々に対する「特権的なもの」なのではないかとさえ感じました。

これって、平等なのか。

あたかも、障害にある方だけが配慮される存在かのように聞こえるのは、かえって社会の分断を作り出しているのではないか。

疑念がふつふつと湧き起こりました。



障害者雇用を進めている企業のほとんどは、障害者を複数名雇っているはずです。

同じ部署・同じ職場であれば、障害者社員同士で配慮する・されるという立場が目まぐるしく変わっているのが一般的ではないでしょうか。

職場の中には、障害者に限らず、妊娠中でまもなく出産・育児が始まる方もいれば、病気や疾患からの社会復帰途中で時短勤務の方もいるかもしれませんし、家族の介護と仕事で板挟みになっている方もいるでしょう。LGBTの方もいるはずです。

果たして、企業で働く人の中で、障害者にだけ合理的配慮が集まるのは有益なのでしょうか。

もちろん、これまでの歴史的な背景を無視するわけにはいきません。障害者だから、という理由だけで不当な扱いを受けてきた時間の方が長いのです。

しかし、障害者が働きやすくなってきた今に至るまでの取り組みに感謝しつつも、これからは社会の一員として障害者が他の方々の働きづらさを考えてもいい時期が来たのではないでしょうか。

障害者だけに合理的配慮の考え方が集まることにはそろそろ終止符を打ち、他のさまざまな属性の方々に対して合理的配慮の考え方を拡張していくことが求められます。

誰にとっても働きやすい職場を作るという意識があって、職場のメンバーが協力的でさえあれば、障害者雇用に関する課題は減るはずです。

もっとも、それぞれの多様性を認めている職場には「障害者だから」なんて発想はそもそもないのかもしれません。「ない」うえで働きやすいのであれば、きっとそれが、障害者にとっても理想な職場のはずです。

1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。

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