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皆さんの会社は法定雇用率の遵守以外に、障害者雇用を進める理由がありますか?

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2021.5.18

企業が障害者雇用に取り組む理由は、法定雇用率の遵守や企業の社会的責任といった項目が挙げられます。しかし、実際に雇用した障害者を受け入れるのは、経営者でも人事担当者でもない場合の方がほとんどです。現場の従業員に障害者雇用を前向きに考えてもらうためには、どうすればいいのでしょうか。

執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki

はじめに

職場からの帰り道、居眠り運転の車にはねられて、これからの人生が車いすでの生活となってしまったら。

身体に異変を感じ、病院を受診したら、完治する見込みのない難病だと診断されたとしたら。

心的外傷(PTSD)やトラウマが残ってしまうようなトラブルに巻き込まれ、苦しい、つらい、死にたいと感じるような毎日になってしまったら。

この社会は暮らしやすい、働きやすい社会だと言えるでしょうか。

障害者雇用を進める理由とは?

企業はどうして障害者雇用を進めなくてはならないのでしょうか。

この問いを経営者や人事・労務担当者に尋ねてみると、法定雇用率を遵守するため、企業の社会的責任を果たすためといった意見が返ってくることが多いです。もちろん、その通りです。

しかし、法定遵守や責任といった言葉だけを聞くと、障害者雇用を担当する方々にとっては当たり前のことで、コミットメントが増すものであっても、現場で働く人にとっては自分事になりづらく、モチベーションが上がりづらいこともあります。

障害者社員の離職理由の上位には、人間関係や配慮不足といった、現場のコミュニケーションに由来するものが挙げられる場合がありますが、「障害者雇用をする理由」に、障害者社員を受け入れる現場が納得感を得ることは重要なのではないでしょうか。



障害者雇用の課題は、現場の納得感

『パラちゃんねるカフェ』でもいくつもの企業取材を重ねていますが、障害者雇用がうまくいく背景にはやはり「現場の納得感」を感じ取ることができます。

障害者雇用を推進するのは人事部門ですが、実際に障害者を受け入れるのは企業内の様々な部署です。この違いは障害者雇用に大きな影響をもたらします。

障害者雇用に前向きな部署もあれば、後ろ向きな部署もありますし、障害者に対して偏見を持っている社員もいれば、どんな背景の人であってもウェルカムな社員などもいます。それぞれの部署やそこで働く社員によって、障害者社員の受け入れやすさが変わります。

また、一般論として、どのような部署であっても、求めているのは優秀な社員です。

しかし、障害者雇用(障害者社員)は、その「障害」という言葉のせいなのか、イメージのせいなのか、優秀さに対して疑問符が灯ったり、そもそも受け入れることに障壁を感じやすかったり、ハードルが高く感じられているのは事実です。

こういったひとつひとつの背景に対して、丁寧に説明し、それぞれの部署が障害者雇用にたとえ100パーセント前向きな気持ちにならずとも、一定の理解を示してくれる状況を作り上げなければ、障害者雇用は進められません。

障害者雇用がなかなか社内の理解を得られないと嘆く人事担当者は、ここに大きな課題を感じているのではないでしょうか。


障害者雇用を前向きに考えるきっかけを作る、ひとつの問いかけ

そんな悩みを抱えている人事担当者の皆さまに、試していただきたい問いかけがあります。

「もし、あなたが障害者になったとしたら、今の会社や今の部署は働きやすそうですか?」

という問いかけです。

障害者雇用にネガティブな反応を示している社員に対して、また、不安や戸惑いを感じている社員に対して、ぜひ尋ねてみてください。

障害者雇用にあまり納得感がない方のほとんどは、障害者ではありません。当たり前の話ですが、意外と気づいていないことです。

もし、自分が障害者になったとしたら。

この「もしも」は、障害者が働くことを自分ごとで一度考えてみる機会を作るものです。

事故や病気で身体が不自由になるかもしれませんし、メンタル不調が重なって精神面の障害を抱えるかもしれません。どのような想定でも構いません。そしてまた、自分が障害者にならないとは否定できないことにも気づく機会になります。

障害者になった自分を想像するきっかけによって、自社の障害者雇用についてフラットな目線で考えることができます。

物理的な障壁や働きづらさはないか。通院などで休めるか。今までと同じようにコミュニケーションを交わすことができるか。自分の悩みや困りごとを相談できそうか。そもそも、障害者となった自分を受け入れてもらえるか。

これらの疑問に対し、どのような答えや意見、問題点や改善策が浮かび上がってくるかによって、それぞれの部署の障害者雇用の受け入れやすさが見えてきますし、回答の内容によっては自分自身の価値観や偏見が明らかになってきます。


障害者雇用は職場のバリアフリーを導くもの

また、これは障害に限らず、妊娠や出産、育児や、家族の介護、LGBTや国籍の違いといった、多様な背景を持つ従業員の働きやすさを考える意味でも、効果的な問いかけです。

ダイバーシティやインクルージョンという言葉が企業の経営戦略の中に活用されることが増えてきましたが、相手の背景や状況を一度フラットな目線で考えることがその第一歩です。

障害者雇用は職場のバリアフリーを進める施策です。

これは、物理的な障壁を取り除くような意味だけではなく、誰もが働きやすい職場づくりや制度改善、偏見のないコミュニケーションの推進といった、さまざまな働きづらさを取り除くことを指します。

バリアフリーは少し前の時代の概念にも聞こえてしまいますが、「障壁を取り除く」という言葉が、障害者雇用には一番理に適っていると考えています。

法定雇用率の遵守、企業の社会的責任を果たすといった言葉だけではなく、それぞれの企業にとって障害者雇用を進める理由が見つけられたとき、その企業のすべての従業員にとって働きやすい職場づくりが始まるのではないでしょうか。

1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。

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