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意外と語られていない女性障害者の困りごと。生活、仕事、ファッション、恋愛。

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2021.5.20

「障害者」「女性」と切り分けて考えられることはあるものの、「女性障害者」という切り口で生きづらさや困りごと、支援などを議論されることは多くありません。生活、仕事、ファッション、恋愛など、女性障害者ならではの難しさがあることも確かです。「障害者」と一括りにされることで見えなくなってしまう真実もあります。

執筆:豆塚 エリ Eri Mametsuka

日本には「女性障害者」という概念がないのだという。言われてみればそうかもしれない。

「障害者として」「女性として」と切り分けて考えることはあるものの、「女性障害者として」とはあまり考えてこなかった。

障害者は性別に関係なく「障害者」で一括りにされる。それは「性」を語るのがタブー視されているのも原因としてあるかもしれない。

当事者である自分すらそこに違和感を感じてこなかったのは、病院や施設に居たときに性別を無視した扱いを受けたことがあるからだろう。

身体介助は力仕事になりがちで、特にトイレやお風呂は男性介助者によって介助されることは当たり前だった。嫌だと伝えても、女性の介助者から「仕方がない」「我慢して」と言われることも。

もちろん理屈はわかる。介護の仕事は腰を悪くしがちだ。腰をやってしまえば仕事が続かない。彼女たちがいなくなれば自分も困るから、我慢する。お洒落やメイクも諦める。長い髪は手入れが大変なので短くする。

そうやって感情を殺しているうちに感覚が麻痺していってあまり抵抗を感じなくなってくる。適応した結果だ。

私は経験がないのだが、知り合いの脳性麻痺の女の子は男性介助者から入浴の時に執拗に触られるなど性的虐待を受けていたと言っていた。彼女の身体はほとんど自由がきかず、発話にも障害があって聞き取りにくいため、抵抗もできなかっただろうし、きっと誰かに訴えるのも難しかっただろう。

女性の視覚障害者に対する嫌がらせも多いと聞いたことがある。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


「女は養ってもらえるから良いよね」ということを、男性の障害者から何度か言われたことがある。

彼らの生きづらさを思えば、そんな言葉が出てきてしまうことだってあるだろう。実際、どうしようもなくて男の人に頼ることもあったし、今だって一人で行動するより、誰か一緒に居てもらえたほうが安全で、いろんなことがスムーズだ。

とはいえ、女性障害者が自立したいと思ってもできないから、親や配偶者に養ってもらう他ない、というのが実際のところではないだろうか。

というのも、統計で見ると女性障害者の有業率はたったの3割。その3割だって男性障害者の平均年収184万円と比べると収入は約半分なのだそう。これは年金や手当も含めての額だ(2008年度)。

理由としてはそもそも求人が少なかったり、体力的に厳しかったりということが挙げられると思う。自立したいのに親が手放してくれないという相談もよく受ける。共依存の関係に陥りやすいこともあるだろう。貧困家庭で子供の年金を頼りにして家族が生活をしている例も。就業だけでなく修学すらままなっていないこともある。

社会との接点が少なく、どうしたらいいのかもわからないまま、家に閉じこもっている人は少なくないはずだ。

私は今のところ運良くなんとか経済的に自立できているが、いつそうじゃなくなっても不思議ではない。不安はつきまとう。

仮に就業できても、そこにもやはり生きづらさがある。私の場合、社風もあったかもしれないが、勤め始めたときはセクハラが多かった。

身体的には排泄や生理がネックで、毎日の出社が必要な会社勤めをためらうのはこれが一番の理由かもしれない。

自律神経にも障害があり、体温調節ができない。女性であるからか身体が冷えやすい。冬はもちろんのこと、夏はクーラーが効きすぎて寒くて震えが出る。配慮を求める側とはいえ、さすがに自分だけのために空調を調整してもらうのもしのびない。

女性はマナーとして求められるメイクも、障害によっては難しいだろう。メイクは筆やペンシルを使った細かい作業が多い。私は指先に麻痺があるのでやはり少し時間がかかる。

服装はスーツとして着るようなタイトなスカートは履きにくい。ヘルパーさんの助けを借りて何とか着るが、車いすに長時間乗る間に裾がたくし上がったり真ん中がずれたりしてしまうこともあり、あまり見栄えがよくない。ジャケットは背中と車いすの背布の間でもたついてしまう。

私の場合、ワンピースを選ぶことが多い。頭からスポッとかぶれて時短になるうえ、背中やお尻が出ないからだ。

靴選びも地味だが大変だ。きちんとした靴はヒールがあるものが多いが、ヒールのついたものは車いすでは履きにくい。ヒールのほとんどないぺたんこのローファーやパンプスを選んでいるのだが、選択肢がぐっと少なくなる。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


恋愛や結婚においてもハードルがある。

「女性はパートナーや子供や親を世話するもの」という世の中に浸透している価値観によって、誰よりも自分自身が、できない自分を責めたり不甲斐なく感じたりしてしまう。

実際、結婚生活では自分の「至らなさ」がいつも罪悪感としてあった(共働きだったので別に養ってもらっていたわけでもないのだが…)。

性的な部分においても自信が持てない。特に女性障害者の性へのタブー視は根強い。同性の健常者に恋愛には縁がないものと見られがちだったのが辛かったことがある。めげずにメイクやファッションを自分なりに研究して、ダイエットを心がけ、そういう印象を払拭してコンプレックスをなくしてきたつもりだが、やはり自信のない自分がいる。

「普通に考えて健常者がいいに決まってるだろ」と付き合っていた男の人から言われたことがある。そうじゃない僕は本当に君のことを愛しているんだ、というつもりで言ったのだとは思うが、結構傷ついた自分がいた。

自らの障害を生かして周りにうまく甘えることができる甘え上手な女の子を知っているが、その子もやはり自信があるとは言いづらかったし、愛されるためにかなり自制し、努力をしているように見えた。

女性障害者は、女性としての配慮をしてもらえず、なおかつ女性だからと差別されるという二重の苦しみがある。そしてその声は残念ながら聞こえてきにくい。

願わくば「障害者『でも』『だって』お洒落・恋愛・仕事がしたい」といった類の言葉がなくなって欲しいと心から思う。美談の中に出てくる儚くて美しくて健気な女性障害者像を私はさっさとぶち壊してしまいたい。彼女たちが普通に活躍し、普通に不平不満が言えるようになることを願ってやまない。

1993年生まれ。詩人。16歳の時に飛び降り自殺を図り頸髄を損傷。以後車椅子に。障害を負ったことで生きづらさから解放され、今は小さな温泉街で町の人に支えてもらいながら猫と楽しく暮らす。
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