PARA CHANNEL Cage

障害者が働く一歩を踏み出すために必要な「自己有用感」

2021.5.24

『パラちゃんねるカフェ』では障害者雇用を進める企業や障害のある社員の方々のインタビューを進めています。また筆者である私自身も、障害者雇用の現場を数多く見てきました。そんな中で、一歩踏み出してチャレンジする、長く安定して働き続けられる障害者に共通する「自己有用感」についてまとめました。

執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki

自己有用感とはなにか

皆さんは「自己有用感」という感情を知っていますか。

これは自分が有用であるという気持ち、つまり自分は誰かの役に立っている、周囲に貢献できていると実感しているときに湧き出てくる気持ちのことをいいます。

誰かの役に立っていることが嬉しい、だからまた誰かの役に立ちたい。

自己有用感を中心とした行動は、周囲への興味や意識を伴ったものとなり、気遣いや配慮などが生まれます。

職場に置き換えて考えてみると、自己有用感に溢れるメンバーが揃っていれば、協力体制やチームワークが発揮されやすく、助け合いや支え合いといった組織のしなやかな強さが生まれるはずです。

自己有用感の強い組織は、お互いの弱さを補完し合えると言えるかもしれません。

自己肯定感との違い

意味や使い方が似ている言葉に「自己肯定感」があります。これは自分自身(とその存在)を肯定する感情です。

いろいろな自分を前向きに捉え、ポジティブに認めること。どのような自分であっても、ありのままの自分でいい、それが素晴らしいと受け入れることです。自尊感情とも言われます。

昨今の自己啓発の流行語にも近い「自己肯定感」ですが、障害者の場合、自己肯定感を抱くことは簡単なことではありません。

自分自身の障害に対する捉え方、障害が原因となって発生する困りごと、障害者としての自分と他者との人間関係など、そのひとつひとつを前向きに考えられる人はわずかです。

障害者にとって「ありのままの自分」は受け入れづらいものであることが多いのです。そこで大事なのが、先述した自己有用感なのです。



自己有用感のループを作ってみる

「どうせ自分なんて…」
「障害があるから…」

「障害」をネガティブに捉えていると、自分に対する諦めであったり、他者と比較した上での劣等感だったりを感じやすくなり、行動を起こす一歩が踏み出せず、自分の殻にこもってしまいがちになります。

この一連の流れは、生きづらさを生み出すひとつの原因だと言えるかもしれません。

こもりがちなこの状況を(半ば強制的に)打ち破ることができるのが「仕事」なのですが、そもそも「仕事」ができる状態であれば、しんどい想いをしていないはず。そこで、鍵となるのが自己有用感です。

自己有用感は、誰かの役に立っているという満たされた気持ちです。この気持ちを一度感じられると、また感じたいと思える魔法のようなものです。

自分の行動に対して、ありがとうと言われる、助かったよと喜ばれる、言葉はなくても笑顔だったり会釈だったりを受け取る。

行動に対するリアクションを通じて自己有用感は得られるものなので、自分がなにかひとつでも行動を起こせば、得られる機会が増えます。

あいさつをする、ゴミを拾う、毎日笑顔で誰かに接する、誰かの元気につながるツイートをする、そんな些細なことで十分で、誰かが「ありがとう」と思える瞬間を作り出すことができたら、自然と自己有用感を感じられるのです。

行動を起こす、自己有用感を感じる、という繰り返しで、一歩踏み出す勇気を得ることができます。

就職活動をしてみることも同じですし、仕事でなかなかうまくいっていないという場合も同じ、そこに一歩踏み出す勇気を導くのは、自己有用感です。

職場は自己有用感に基づいた行動であふれている

そもそも、仕事とは「誰かの問題を解決すること」です。つまり、誰かの役に立つことを繰り返すことが仕事なのです。自己有用感は仕事に対するやりがいや達成感につながるものです。

仕事は一人で完結するものではありません。職場のメンバー同士の役割分担と協力があって初めて成り立つものです。

職場で働くメンバーは、どうすれば仕事がうまくいくかを考えながら、日々の仕事をしています。

キャリアが長くなればなるほど、自己有用感のような感情に細かく左右されなくても、仕事を進めることができます。やりがいや達成感をひとつひとつ感じずとも進められますし、性格や価値観によっては自己有用感がどれだけ必要か、はたまた全然必要ないか、それもまた違います。

実は細かく気づいていないだけで、職場は自己有用感に基づいた行動で溢れているのです。

仕事をする、職場の一員となるためには、自己有用感があること、そして自己有用感に基づいた行動をすることが基礎であり、それが意識せずとも当たり前になっていることが大切です。


自己有用感を得る難しさもあるけれど

障害者の場合、自分の障害によって自己有用感を感じづらいことがあるかもしれません。しかし、どのような障害の種類や程度であっても、誰かの役に立つことはできます。

自己有用感を得るために難しいことはただひとつで、自己有用感を得る経験をする前に「自分がどうすれば役に立てるのか」を考えなくてはいけないことです。ただ、それを難しく考える必要はありません。

「どうすればいいと思う?」と誰かに聞いてしまえばいいのです。家族、友人、同僚でもいいですし、SNSのアカウントのフォロワー相手でもいいでしょう。まずは聞いてみることです。

誰かに聞くことも勇気が要ることですが、聞いたほうがいいかなという気持ちを持ち続けていれば、ふとした瞬間に勇気が湧いてきます。そこまでの時間も人それぞれですが、気長に待ってみてください。早いほうがいいと思うなら、すぐに聞いてみましょう。

企業で長く働いている障害者の多くは、自身に障害があることを良い意味で忘れ、誰かの役に立とうと前向きに仕事をしています。

企業への貢献、職場への貢献、顧客への貢献、社会への貢献、さまざまな形の貢献が仕事の成果に表れているので、結果的に好評価を得ているからこそ、長く安定して働き続けられているともいえます。

この自己有用感という感情をぜひ忘れずにいてください。

1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。

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