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車いすユーザーの働く上での困りごと⑤排泄障害のある人に必要な職場での配慮とは?

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2021.6.9

脊髄損傷になると運動機能が麻痺するだけでなく、排泄障害を伴うことが多いです。そして脊髄損傷者が社会復帰するときの障壁となるのは、「立てない」「歩けない」ことよりも排泄障害と感じる人が多いです。その理由は、排泄障害は時間と場所を選ばずに症状が出るからです。そこで今回は排泄障害の特徴を踏まえた上で、職場に求められる配慮について解説します。

執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura

排泄障害とは

排泄障害の正式名称は、膀胱直腸障害といいます。

具体的には、尿意や便意が分からないことや自力での排尿や排便ができなくなるという症状があります。

健常者の多くの方は「尿(便)が溜まってきたからトイレに行こう」という感覚があると思います。そしてトイレに行き、自分の意志で排尿や排便をしますが、排泄障害になるとこれらのことを自分でコントロールできなくなります。

排泄障害が厄介な理由は、時間と場所を選ばずに症状が出るからです。

たとえば1時間かけて通勤し、職場についた瞬間に便が漏れることもあります。ちなみに私は、祖父の葬式で出棺直前に便が漏れそうになりトイレに駆け込んだ経験があります。

「なんでこのタイミングで」という心の声は、排泄障害を抱えている多くの方が抱いたことがあるのではないでしょうか。

このように、漏れたらどうしようというという不安を抱えながら生活するため、車いすで移動することよりも排泄障害の方が外出の妨げになりやすいのです。

また排泄障害は、外見ではほぼ分かりません。そして、恥ずかしさから周囲にカミングアウトしにくい障害のひとつです。

外見では分かりにくい上に、カミングアウトしにくい障害のため、周囲の理解を得るためのハードルが高いと言えるでしょう。



排泄障害の管理方法

まず排尿の管理方法は、カテーテルという細い管を尿道から入れて膀胱内の尿を排出する間欠導尿が一般的です。私も普段、この方法で排尿をしています。

ただ健常者の頃のような明確な尿意はないため、時間を決めて導尿をしています。しかし、まれに漏れてしまうことがあるため、必ず尿とりパッドを装着しています。

指に麻痺があり自力での導尿が難しい場合は、膀胱瘻を増設することもあります。膀胱瘻とは、おへその下辺りに手術で穴を開け尿の出口をつくり、そこにカテーテルを留置して尿を袋に貯めるという方法です。

収尿袋はズボンの下に隠すことができるので、外見から膀胱瘻を増設していることは分かりません。女性の脊髄損傷者は性器の構造上、導尿が困難な場合があるため膀胱瘻を選択することがあります。

一方で排便は、時間をきめて浣腸液や座薬を使って管理をします。頻度は人によって様々です。毎日排便する人もいれば、週に1回という人もいます。

私は、週2回のペースで排便をしています。毎回の排便で十分な量が出ていれば、外出時に便が漏れることはほとんどありませんが、実際は、体調の変化や食事の内容(冷たいものや脂っこいもの)によって急に漏れてしまうことがあります。


職場での配慮

では、排泄障害の特徴と管理方法を理解していただいた上で、次は職場に求められる配慮についてご紹介します。

1:多機能トイレの設置

まず車いすユーザーが排泄をする場合、多機能トイレが必要となります。特にユニバーサルシートと呼ばれる折りたたみ可能なベッドを設置してある多機能トイレは、排泄障害のある車いすユーザーの大きな味方です。

ユニバーサルシートがあると万が一、職場で漏らした場合でもパンツとズボンを着替えることができます。さらにユニバーサルシートは、トイレ内にあるため着替えと同時に排泄物の処理をすることができます。

2:勤務場所

排泄障害のある車いすユーザーの多くは浣腸液や座薬を使い排便をします。そして1回の排便に1~2時間ほど要します。

また日によってはすべての便を出し切ることができず、排便終了後に漏れることがあります。ちなみに便が残っているという感覚もないため、すべての便を出し切ったかどうかは本人でも分かりません。

朝に排便をした後、職場で残便が漏れてしまうという可能性もあります。そのため、週に1,2回は在宅ワークを認められると排泄を管理しながら働くことができます。

3:同僚の理解

職場で排泄障害をカミングアウトするかどうかは非常に難しい問題です。

「場所と時間を選ばず便が漏れるかもしれません」と伝える場面を想像していただくとかなりの勇気がいることを理解していただけるのではないでしょうか。

しかし、個人的な意見としては、可能な限り自分と関わりのある同僚には排泄障害のことを伝えていたほうが良いと考えます。それは、伝えていたほうがお互いにとってメリットがあるからです。

排泄障害があると突然の排便により遅刻したり、急に帰ったりすることがあります。

障害が理由とはいえ、仕事に支障が出る可能性はあります。その際に、同僚が事情を理解していれば万が一の場合もフォローしやすくなりますし、本人の罪悪感も少し軽くなると思います。

まとめ

排泄障害があると、働くことへのハードルが非常に高くなります。

しかし、週の1日をリモートワークにするだけで、このハードルを下げることができます。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、多くの会社でリモートワークが導入されました。ぜひこの機会に多様な働き方を考えてみてはいかがでしょうか。

1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。

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