過去と現在をつなぐ自己分析
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2021.6.23
就職活動をする上で自己分析はとても重要な作業です。しかし、どのように自己分析をすればいいのか分からないという人もいるのではないでしょうか。特に障害者雇用を希望する場合、自分の障害に対する理解を深める必要があります。そこで今回は、自己分析をおこなう意味や具体的な方法についてご紹介します。
執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura
自己分析の必要性
そもそも、就職活動をする上でなぜ自己分析をする必要があるのでしょうか?
もし、自己分析をしていない状態で就職活動に臨んだとしたら…
自己分析をしていない人が面接を受けると、自己アピールができない、企業や業界の選択基準を説明できない、必要な配慮を伝えることができないといった問題が生じます。
そして、このような応募者に対して企業側は、何が得意なのかがわからないから仕事を任せにくい、自分の障害を理解していない人は雇いにくいといった心理になります。
障害者を雇用する企業の中には、「求めているスキルがあるか」よりも、「自分の障害を同僚に説明し、理解を得ることができるか」を重視しているところも少なくありません。
厚生労働省の調査によると障害者の1年以内の離職率は4割をこえており、離職の理由は「調子の悪いときに休みを取りづらかった」といった障害者特有の悩みに関するコミュニケーションの問題があげられています。
つまり、企業としては定着率をあげるためにも、自分の障害の特性を理解し、それを第三者に伝えられる人材を求めていると考えられます。
そのため、就職活動の段階で自己分析を通じて自分の障害への理解を深めることは必須と言えるでしょう。
自己分析のポイント
自己分析のポイントは、自分の過去・現在・未来をつなげ、自己理解を深めることです。
障害者雇用に限らず就職活動をする際に、「今」と「未来」に比べて、「過去」を知ろうとしている人が少ないように感じます。
しかし、自己分析において、過去を知ることこそもっとも重要だと考えます。
過去を振り返ると、自分が大切にしている価値観を知ることができ、職場でどんな配慮が必要なのか?どんな仕事が向いているのか?が明確になるわけです。
また、中途障害の場合、「健常者の頃の自分」と「障害を負ってからの自分」をつなげていくと、障害に対する理解が深まることもあります。
実際に、私は自己分析を通じて、自分の障害を客観的に見られるようになり、以前よりも障害のある自分を認められるようになりました。その結果、自分の障害に対する考えを自分の言葉で説明できるようになったと感じています。
このように過去を知ることで、自分の価値観だけでなく障害についても理解を深めることができます。
過去を知るための自己分析
といっても、過去を知ることは容易ではありません。
そこで、今回はライフラインという自己分析の手法をご紹介します。ライフラインとは、自分のこれまでの人生を1本の曲線で表現したものです。
以下の図のように、横軸が時間の経過、縦軸が幸福度を表しています。幸福度とは、どれだけワクワクしたかとイメージすると分かりやすいでしょう。
1本の線で表現することで、人生の大きな出来事や転機で、自分の感情がどう動いたのかを分析することができます。
図1 ライフライン①
ポイントは、点数を決めるときに、自分がどれだけ幸福に感じたかを基準にすることです。
社会的な評価ではなく、自分のものさしで決めていきます。
私たちは気がつかないうちに、こうあるべきだという「べき思考」になっていたり、「他者の評価」を必要以上に気にしてしまったりすることがあります。
そのため、ライフラインを通じて、素の自分を見つめ直してみましょう。特に、きれいごとの記憶ではなく、嫌な部分も含めて振り返えることで自分の大切にしている価値観を知ることができます。
ライフラインのつくり方
ステップ1 点を打つ
過去を振り返り、それぞれの出来事ごとに満足度が高かったのか、低かったのかを考えて、グラフに点を打ちます。
図では高校生からスタートしていますが、幼少期から振り返ることをおすすめします。また、点を打った場所に、出来事のキーワードを書いていきます。
図2 ライフライン②
ステップ1のポイントは、出来事を振り返るときに、「なぜ自分はこの出来事を転機だと思ったのか」「なぜこの出来事に幸福を感じたのか(感じなかったのか)」という「なぜ」の部分に着目することです。
理由は、「なぜ」の答えにみなさんの価値観が隠れているからです。
だからこそ、自分のものさしで点数を決めることが重要なのです。
ステップ2 点を線でつなぐ
すべての点を打ち終わったら線でつないでみましょう。線でつなぐと山あり谷ありの旅路が描けたのはないでしょうか。
図3 ライフライン③
最後は、ライフラインを眺めながら自分の人生を振り返りましょう。
山になっているときにどんな出来事があったのか、あるいは谷底から山にのぼるときにどんなことがあったのかを振り返ると、自分の過去をより深く知ることができます。
たとえば、私にとってアメフトで障害を負ったことは人生で一番辛い出来事でした。
しかし、選手としてプレーできなくなったからこそ、アメフトの戦術分析を勉強しコーチとして活動することになります。この経験を通じて、失ったものに目を向け嘆くのではなく、今の自分にできることを考える重要性を学びました。
このように、人生を1本の線にすると、自分の価値観が見えてきます。
経験から何を学び、次に活かしているのか。障害を含めた自分の人生をどうとらえているのか。自分への理解を深めるきっかけになります。
また、完成したライフラインを家族や友人に見せて、当時のことを一緒に振り返ってみると新しい発見が見つかることもあるのでおすすめです。
まとめ
今回は、自己分析の手法としてライフラインの作成をご紹介しました。
最後に注意点です。人によっては、つらい過去を振り返ることでしんどくなることがあるかもしれません。そのときは無理せずに、一旦作業を止めてください。
自己分析は自分と向き合う作業なので、自分のペースで進めていきましょう。
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Text by
Takaharu Nakamura
中村 珍晴(ちん)
1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。