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「LGBT法案」見送りから考えるマイノリティ差別とは?人はいつ、マイノリティになるかわからない

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2021.7.13

2021年6月に国会への提出が見送られた「LGBT理解増進法案」をきっかけに、トランスジェンダー当事者の僕から見たマイノリティ差別についてまとめました。これは企業や職場の中でも発生していることです。たとえ無意識で悪意がなかったとしても。

執筆:佐藤 悠祐 yusuke sato

2021年6月1日。自民党はLGBTなど性的少数者の理解増進を目的とした法案の国会への提出が見送られました。

基本理念に盛り込まれた「差別は許されない」との表現に対して「行き過ぎた差別禁止運動につながる」「訴訟が増える」などの批判が出たそうです。

あれから1ヶ月。トランスジェンダー当事者の僕が思ったことを、まとめて書いていきます。


LGBTQに対する差別発言は、多くのマイノリティとその生き方を傷つけています。

LGBTに限らず、多くのマイノリティ当事者や生きづらさを感じている人は、生きている中で何かしらの差別的な扱いを受けたことがあるかと思います。

明らかにこちらを傷つけようとしているものには、こちらも強く反論や抗議をすることができますが、僕が対処に迷うのは、本人が無自覚な差別を行っている場合です。

落ち着いて説明をするとわかってくれる人もいれば「そのくらいのことで何を怒っているの?」と反感を買ってしまうこともあります。

そして、無自覚な差別は個人間で起こるものだけではありません。僕から見て、企業や公人の発言や行いの中にも、「これは、差別ではないか」と感じるものはたくさんあります。

例えば、2020年9月に開かれた足立区議会の定例会で、少子化問題からLGBTについて、下記のような発言がありました。

「こんなことはありえませんが、日本人が全部L(レズビアン)、全部G(ゲイ)となってしまったら、次の世代を担う人が生まれない」

「B(バイセクシュアル)とT(トランスジェンダー)は生まれつきだが、レズとゲイについては、もし足立区に完全に広がったら足立区民がなくなってしまう」

「法律で守られている、ということだと足立区は滅んでしまう」

※その後、足立区はこの発言を問題視し、理解増進に取り組み、2021年には区としてパートナーシップ制度を導入しました。

また、先の法案についての会合の中ではLGBTなど性的少数者を巡り「生物学上、種の保存に背く。生物学の根幹に抗う」という発言もありました。

そもそも、これらの発言は、LGBTQ以外の人も傷ついているかもしれません。

生まれつき重度の障害を持っている人や、生殖機能に疾患があって子どもを授かるのが難しい人、できない人、子どもを授かるという選択をしない人に対しても差別視しているように感じます。

また、少子化問題はマイノリティのせいであるというように押し付けられている印象もあります。

問題が「子孫を残すこと」であれば、解決法はいくつかあるのではないでしょうか。

今は精子提供等で子どもを授かることができますし、出生後に親元を離れなければならなかった子どもたちを養子として家庭に迎え入れ、一緒に生きていく選択をすることもできます。



「行き過ぎた差別禁止運動に繋がる」という発言に、差別意識の根幹があるのではないでしょうか。

マイノリティであっても、私たちには人権があります。差別されることなく、生きていく権利があるはずです。

差別行為や発言を受けたならば抗う。それは自分のためだけではありません。

自分の大切な人やこれからの社会を生きていく子ども達のためにも、今ある多くの差別をなくしていきたいのです。それは、果たして「行き過ぎた差別禁止運動」なのでしょうか。

なぜ差別を受け、権利を踏み躙られている側が、我慢しなければならないのでしょうか。

社会や国民が理解していないから、制度が整っていないから、お金がないから、生きている間にパートナーと結婚することも、法的に家族と認められることも、治療の決定をすることも、全て我慢しなければいけないのでしょうか。

僕たちは何も特別なことを主張しているわけではありません。

異性愛者と同じように、結婚ができる権利。
生殖機能を取り除く手術を強制されずに、望む戸籍の性別で生きる権利。
自分が亡くなった後も、大切な人や家族に財産を相続させる権利。
大事な人が延命するか否かを、パートナーとして伝える権利。

LGBTQではない人たちには普通に与えられている権利。許されていること、与えられていることを僕たちにも認めてほしいのです。平等に制度を使いたい。ただ、それだけなのです。

普通の人には見えない差別で溢れた世の中だからこそ、声を上げ続けなければならないのです。

LGBTQ、海外にルーツを持つ人、女性、障害者、高齢者、生きづらさを抱えている人。さまざまな立場になってみて初めて、この世界の優しさと残酷さに気がつきます。

もちろん、優しい人も、優しい制度や配慮もたくさんあります。ただ、同じかそれ以上に残酷な世界だと思わされることもあるのも事実です。



ここまで、最近の政治の世界で起こった話を伝えてきましたが、同じようなことは企業内・職場内のコミュニケーションでも起こっています。

また、LGBTQの差別を引き合いに出しましたが、事故で怪我をした、病気の後遺症が残った、海外に住むことになった、歳を取った、子どもが産まれたなど、些細なことで人は立場が変わります。立場が変われば見えるものも変わってきます。

人はいつ、マイノリティになるかわかりません。

今、あなたに見えていない差別と戦っている人がいます。その差別、本当にあなたに全く関係ないと言えますか?

1991年生まれ。東京都八王子市にある【訪問介護事業所SAISON】の管理者。性同一性障害当事者。幼い頃から自分は男だと思いながらも誰にもいえずに過ごす。高校生で初めてカミングアウトをして以降「暮らす」「働く」について考え、現在は介護福祉士として障害を持つ人の暮らしをサポートしている。

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