真夏でも汗をかけない。体温調節機能障害の困りごとと工夫。
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2021.7.21
事故により首の神経(頸髄)を損傷した私の体は、夏場の暑さがとても苦手です。単に夏が嫌いという好みの問題ではなく、体温調節機能がうまく働かないため自己管理をおこたると命の危険につながります。そこで今回は、脊髄損傷者の夏場の困りごとについて紹介します。
執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura
なぜ暑さが苦手なの?
脊髄損傷の中でも頸髄(首の脊髄)や胸髄の高位部分を損傷すると、自律神経障害により体温調節が難しくなることがあります。具体的には、汗をまったくかかない体になります。
自律神経障害のない方は、夏場、屋外で過ごしていると汗をかくかと思いますが、人は汗をかくことで外気温により上昇した体温を下げ、体温を一定に保っています。
ちなみに、汗をかく動物はそんなに多くなく、暑いときや運動したときに大量に汗をかくのは、ヒトとウマくらいだそうです。
では、汗をかけない人が、夏場のように高温多湿の環境で過ごすとどうなるかイメージできますか?端的に説明すると、気温があがっても体の熱を放出できないため、体内に熱がこもります。
実際に、私は夏場の炎天下で何も対策せずに1時間ほど過ごすと、体温は38度近くまで上昇します。体温調節機能障害があると、健常者よりも自力で体温をコントロールしにくいため、空調などで管理する必要があります。
また、脊髄損傷者の多くは車いすユーザーです。車いすユーザーは立っているときよりも顔が地面に近くなるため、地面からの反射熱をより強く感じることから、体感温度も健常者に比べると高くなります。
体温調節の工夫
ここまでの説明を聞くと「職場で働くことは無理なのでは?」と感じるかもしれませんが、夏場でも自己管理と環境の整備によって、普段と同じように働くことは可能です。そこで次は、私が夏場でも働くために実践している自己管理と環境の整備についてご紹介します。
自己管理
私は汗をかくことができないので、何かしらの方法で体温を下げる必要があります。そこで使用するのが、霧吹きとアイスノンです。
まず、汗の代わりに霧吹きで腕や首元を軽く濡らします。液体は気体に変化する際に熱を吸収してくれます。これを気化熱といいます。たとえば、お風呂上がりに濡れたままでいると体が冷えますよね。これは体についた水滴が蒸発するときの気化熱によるものです。
霧吹きで濡らした液体が乾くときに、体の熱を一緒に奪ってくれることで体温を下げることができます。また、首や脇など比較的体の表面近くに動脈がある部位にアイスノンをあてると、血液が冷やされて、体温を下げることができます。
環境の整備
霧吹きとアイスノンで自己管理をした上で、空調設備の整った室内で過ごすことができれば、体温調節機能障害があっても職場で働くことは可能です。
ただ、ときには通勤中などに熱がこもり、しんどくなる方もいます。そのようなときは、空調の温度を20度ほどに設定した涼しい部屋で、体温を下げる必要があります。
私は大学で教員をしているため、普段は自分の研究室で仕事をしています。通勤中に熱がこもっても、空調を自分に合った温度に設定することができますが、複数人が同じ場所で働いている職場では、自分勝手に空調を設定することは難しい場合があります。
私と同じような障害を持つ方を受け入れる場合は、万が一のときに避難できる休憩室が職場にあるとより安心して働くことができます。休憩室がない場合は、そのときに使っていない会議室を一時的に休憩室にするという手段もあります。
まとめ
今回は夏場の困りごととして体温調節機能障害をご紹介しました。この障害は外見では分からないため、まずは当事者本人が自ら管理していくことが大前提です。
しかし、自己管理だけでは限界があるため、職場の理解と協力は不可欠です。そのためまずは「汗をかけずに暑さが怖い人たちがいる」ということを理解していただくことが重要だと思います。