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リモートワークがありがたい、義足ユーザーの夏。

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2021.7.28

生まれつき足が不自由で、右足に義足・左足に装具を履いた生活を送っていますが、春夏秋冬という季節の中で、夏の生活が一番大変です。暑いだけでなく、蒸れる・痒い・臭いという三重苦に悩まされていましたが、コロナ禍による働き方の多様化によって、夏の仕事が快適になるかもしれません。

執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki

義足ユーザーの夏

生まれつき足が不自由で、右足に義足・左足に装具を履いた生活を送っていますが、春夏秋冬という季節の中で、夏の生活が一番大変です。

私の場合、右足全体をほぼ覆うような義足で、地肌の上にインナーソケットを身に着け、義足を履いていますが、完全に密閉され、風通しのない環境は地獄です。

気温35度を超える快晴の真夏日に、両足ブーツを履いている状態を考えてみてください。これが私の夏の足の状況です。

義足を履いている時間は常に熱源を持っているようなもので、個人的な体感ではありますが、足の熱が全体を巡って、具合が悪くなる印象があります。30歳を過ぎてからは特に。自分の義足を「熱中症発生装置」と呼ぶこともあります。

また、軽量化が進みつつあるとはいえ、義足も装具もそれなりの重さがあります。私の場合、両足合計で2kgほどですが、一歩進むごとにこの重さが足にまとわりつくのは、酷暑の中では地味に堪えます。涼しい季節と比べると、疲労感は格段に違います。

障害の有無関係なく、夏の暑さがしんどい人は多いと思いますが、義足ユーザーなりの困り感はあると知っていただけると嬉しいです。もちろん、個人差があるものですが。


▲車いすユーザーはもっと大変。

▲生足がないのは足首のところだけ(右足・義足)

蒸れる・痒い・臭いの三重苦

想像に難くないと思いますが、夏の義足と装具の中はとにかく蒸れます。

代謝の良かった若い頃は、義足を脱ぐと汗がぼたぼたと零れ落ちました。ぽたぽたではなく、ぼたぼたです。装具は厚手の靴下を履いた上から装着しますが、この靴下も絞ると汗がぼたぼた落ちました。

また、蒸れる環境は痒みを生みます。痒いから搔きたいし、それは蒸れているせいなので、インナーソケットや靴下を動かして空気を入れたいのですが、そんな想いが生まれても基本的には我慢です。

義足を脱ぐにはズボンを脱がなくてはいけない。それはどこでできるのか。

もちろん、トイレなどに駆け込めばできますが、蒸れた・痒いと思ったときにすぐにはできませんし、そのたびに何度も何度もできません。もう一度伝えますが、基本的には我慢です。

肌荒れや汗疹なども一般的なことで、夏は厄介な季節です。

この環境の中で一日を過ごし、義足を外したときの臭いは、言わなくても分かることでしょう。若いときより今のほうがエグい。義足を外すたびに息子には「オエーッ」と言われ、今年の夏は臭い対策を例年以上に考えています。


▲左足に履いている装具

仕事に大きな影響がなければ、配慮を求めることはない

ここまで書いた「義足ユーザーの夏の困りごと」は、正直に言えば仕事に深刻な影響を与えるわけではありません。暑さに弱い人は社会にはたくさんいらっしゃいますし、義足ユーザーだけの特権的な困りごとではありません。

したがって、企業に対して合理的配慮のひとつとして、私のような障害を持つ方が「暑さ対策」を求めることはほとんどないでしょう。

しかし、ここに配慮が生まれれば、仕事の生産性は上がるかもしれません。

コロナ禍によって働き方の多様化が進み、リモートワークの一環として自宅で働く機会が増えましたが、「外に出なくて済む」という環境は、夏の盛りの義足ユーザーの働き方として(あくまでも個人的な話ですが)、非常にありがたいものです。

障害者本人も、障害が原因で生まれる困りごとに対し「これは仕事に関係のないものだから」と、仕事の現場で共有していない事柄は少なからずありますが、ここに生産性を引き上げる鍵が眠っているかもしれません。

現在、企業で実施されている合理的配慮は、障害が原因で生まれるマイナスの要素をゼロに持っていくものがほとんどで、以前と比較すれば、多くの企業で障害者にとってよりよい仕事環境が広がりつつあります。

社会全体でこれでOKと判断するのではなく、一見、仕事には関係ないかもしれない困りごとへのフォローまで考えてみることで、職場全体の生産性が引き上げられる未来が拓けるのではないでしょうか。

1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。

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