重度障害者の一人暮らし活動 行動編3
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2021.9.1
高校卒業後、一年間の期限付きの仕事が決まりましたが「朝の通勤はご遠慮ください」と鉄道会社から言われてしまい、会社の近くに一人暮らしをすることになりました。今回は、車いすユーザーが一人暮らしのために家を探すときに経験したこと、大事だと思ったことをまとめてみました。
執筆:佐々木 美紅 Miku Sasaki
私は脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの病気のため、電動車いすで生活しています。
脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚など全身の筋肉を動かす脊髄の細胞に異常があり、筋力が低下していく進行性の難病です。
就職先が決まったものの公共交通機関での通勤ができず、通勤費で給与が消えてしまいました。そこで会社の近くに一人暮らしをする決意をし、家探しを始めました。
一人暮らしを夢見たきっかけ、先輩車いすユーザーの家を見学
私は幼い頃から「自立生活をしたい」という気持ちが強かったかもしれません。小学校の頃 ”OL さんとして働いて、一人暮らしをしたい”と思っていました。
しかし、 成長していくうちに「こんなに重度の身体障害があるのに、一人で生活をするなんて無理なのではないか?」と諦める気持ちも出てきました。
高校生になり、地域で一人暮らしをしている車いすユーザーの方の存在を知りました。「どうやって、一人暮らしをしているのだろう」と知りたくなった私は、自立生活センター※1 という地域で暮らす障害者の自立生活を支援している団体のところへ相談に行きました。そこで、自立生活センターで働いている職員の方の家を見学させてもらえることになったのです。
その方は私よりも障害が重度で「このような重たい障害があるのに一人暮らしをしている人がいるとは知らなかった。」と驚きました。
実際に家に行くと、その方が一人で生活を送るために工夫している点がたくさんありました。
- 玄関から入れないので、ベランダにスロープをつけて入室をしていた。
- 車いすでお手洗いに入れないので、ポータブルトイレを利用していた。
- 車いすで通れない部屋は扉が取っていた。
「障害があるからできない」と思っていましたが、工夫をすればこうして地域社会で暮らせるのだと、諦めかけていた希望を再び持つことができました。
マンション探しは普通の不動産へ
いよいよ、マンションを探す段階になりました。
障害を持った人専用の不動産があるわけでもなく(知識を持っている不動産もあるという話を聞いたことはありますが)私は近所の不動産屋さんに行きました。
まだ新入社員のような若い方が担当してくれた影響があるかもしれませんが、車いすユーザーの対応には慣れていないようでした。
家を探す条件には、間取りや家賃、住みたい場所の他に、車いすユーザーとしての希望も伝えました。
- マンションの入口にスロープがある。段差がない。
- 現状回復することを条件にバリアフリー工事の許可をもらう。
間取りや家賃、住みたい場所の条件が一致しても、車いすユーザーということで見学の直前に断られてしまうこともありました。
理由を聞くと「車いすだと壁を傷つけそうだから」と言われ、嫌な気持ちになりました。さらには「敷金を普通の方の二倍払ってくれたらいい」なども言われました。
見学のための車は乗れず、現地集合
条件に合う物件を見つけ、見学に行くことになりました。
普通であれば不動産会社の方の用意してくださる車で、見学する家まで一緒に連れていってくれます。しかし、私の場合、車いすから自力で降りることができず、介助者の手を借りても車の座席移動するというのはかなり大変なことです(普段はスロープ付きの車に、車いすのまま乗っています)。
不動産屋さんにそのような福祉車両はなく、後日、現地集合することになりました。
本来であれば、家を何軒も見て検討する方が多いでしょうが、移動するのが大変だった私は、会社に一番近いマンションだけを見させてもらい、そのまま契約をしました。
その後、段差のある部分などに簡易的なスロープをつけたり、ポータブルトイレを購入したりして、無事に一人暮らしを開始することができました。
まとめ
「車いすだと、家を傷つけるから」との理由で断られたり、敷金を多く払ってほしいなど言われたことに胸が痛みました。
「重たい障害がある私には一人暮らしは難しいかもしれない」と、諦めかけていましたが、さまざまな工夫をした結果、夢を叶えることができました。はじめてマンションの鍵をもらった時の喜びは今でも忘れられません。
私はこの一人暮らしをするという体験を通して『できないと諦めないで、まずは工夫しよう』と考え方を変えることができました。