車いすユーザーの働く上での困りごと①通勤準備編
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2021.2.16
この連載は、車いすユーザーが働く上でどのような困りごとがあるのか、どのようにすればその問題が解消できるのかについて、私の例を踏まえながら解説していきます。
第1回目は、出勤の準備での困りごとについてご紹介します。私は、立てない・歩けないという移動面の困難だけでなく、起立性調節障害や排泄障害という周囲からは見えない症状も抱えています。車いすユーザーは「立てない・歩けないだけではない」のです。
そこで今回は、出勤するまでにどのようなことに困っていて、企業からどのような配慮があると働きやすくなるか、嬉しいのかについて解説します。
執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura
出勤するまでに困ること
1:身支度に時間がかかる
みなさんはズボンをどのように履きますか?
立つこと、歩くことが可能な人であれば、立った状態で両手でズボンをつかみ、片足ずつズボンを通し、腰までズボンを上げたらボタンやフックをかけて、チャックを締めるという流れでしょうか。
しかし、下半身がまったく動かない私は「立ったままズボンを履く」ということができません。
ベッドの上でズボンを履くのですが、ズボンを履くまでに10分程度は要します。下半身のしびれが強く、筋肉が硬直している日は15分程度かかる場合もあります。また靴下と靴もたった状態では履けないため、ベッドの上、あるいは車いすの上で準備を進めます。
このように障害のない方が2,3分程度で終えることができることが、私の場合だと15~20分かかります。
シャツとジャケットを着る時にも困りごとがあります。
脊髄損傷も、損傷箇所によっては上半身にも麻痺が生じます。私は指も完全に麻痺しているため、握力はゼロ。そのため、シャツのボタンを留めるときは手首の力で自助具を操作しています。ネクタイは締めることができません。
私は、出勤するまでの準備に、多くの時間がかかります。障害を抱え、身支度に時間がかかるようになってから、化粧をする皆さんの大変さを、身を持って実感しました。
2:血圧が低い
脊髄損傷の人の中には、自律神経が正常に機能せず、起立性調節障害を抱えている人がいます。体を起こす度に立ちくらみが生じ、視界がチカチカといった症状があり、重度になると気を失うこともあります。
私の場合、起立性調節障害の症状は、生活に支障をきたすほどではありませんが、それでも、朝起きてズボンを履き替え、ベッドから車いすに移乗した後に立ちくらみが生じることはあります。
この症状は、ある程度時間が経過すると落ち着きますが、それまで10~30分要することがあります。ただでさえ着替えに時間がかかるのに、立ちくらみまで重なる。朝の身支度の大変さを少しはイメージしていただけるのではないでしょうか。
以上、出勤するまでの準備の困りごとをご紹介しました。
これでは仕事をするのは無理だろうと思う方もいるかもしれませんが、いくつか配慮をしてもらうことで、働くことは可能です。そこでどのような配慮をしてもらえると助かるか、ここから解説していきます。
配慮してもらえると助かること
1:服装制限の緩和
まずは、仕事の服装です。服装に自由度があると、着替えの負担が軽くなります。
たとえば、スーツはストレッチ性がほとんどないため、普段着よりも着替えに時間がかかります。もちろん営業など職種によってはドレスコードが必須なケースもあるでしょう。本人がその事情を理解した上で、その職種を希望しているのであれば、無理に歩み寄る必要はないと思います。
一方で、デスクワークが中心で、対外的な業務がない場合は、ある程度服装が緩和されると働きやすくなります。私は大学で授業をしていますが、私にとって着やすいジーンズにジャケットで仕事をしています。
夏の装いです
2:時差出勤や在宅ワークの導入
次は、時差出勤や在宅ワークの導入です。
週5日の勤務のうち、1日あるいは2日ほど在宅ワークだと、身支度に伴う負担が軽減されます。起立性調節障害についても同様です。
私の場合は、今回のコロナ禍によって、2020年4月に緊急事態宣言が発令されてから、自宅から授業や会議に参加することになりました。
自宅で働くようになり、服装の制限が以前よりも緩和されたため、身支度に費やしていた時間を、業務などの時間に充てやすくなりました。また、スキルアップの機会にもつながり、結果的に大学に貢献できたと感じています。
まとめ
このように、障害を理由に様々な困りごとがありますが、ちょっとした配慮でその問題は解決することができます。その配慮が、本来持っている力を発揮することにつながり、障害を持っている人が企業や社会に貢献できるようになります。
「服装を完全に自由にするかまったく認めないか」のように白か黒かで考えるのではなく、お互いに歩み寄れるポイントを探すことで解決できる問題もあるのではないでしょうか?
Text by
Takaharu Nakamura
中村 珍晴(ちん)
1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。