PARA CHANNEL Cage

助けを求めている人ほど、「助けて」と言うのが難しい

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2021.9.27

ギャンブル依存症で気が荒い父親と精神疾患を抱えた母親との生活、そして弟妹のお世話。
そんな環境のなかで私は「助けて」とも言えないでいた。
なぜなら、あのときの私にとってこの環境は当たり前のものだったから。
育った環境の違和感に気付いたのは自分が母親になってからだった。

執筆:柊 Syu

近年、心が痛む虐待のニュースが後を絶たないでいる。そのほとんどが幼い命が奪われているものばかりで、そのニュースを見るたびに私は言葉では言い表せれないほどの気持ちに襲われる。

消えてしまった小さな命達に思いを馳せ、「どれだけ愛されたかっただろう」と思うたびにひどく胸が軋むのだ。

隣にいる我が子を抱きしめてその温かさに触れると、「虐待」という言葉すら無い世界になって欲しいと心の底から願ってしまう。

私は今、4人の子供達を育てながらライターとして働いている。なぜ、私がライターとして働こうと思ったのかと言うと理由はたくさんあるのだが、そのひとつとして「伝えたい」という気持ちが大きかったからだ。その「伝えたい」ことのひとつに「虐待についてもっと知ってもらいたい」というものがある。

虐待には「身体的虐待」と「心理的虐待」、そして「ネグレクト」、「性的虐待」があって、身体的虐待とは暴力などによるものだ。そして心理的虐待というのは、子供の存在を無視したり必要以上の叱咤をすることで、「ネグレクト」とは十分な食事を与えないなどの育児放棄、「性的虐待」は性的ないたずらや強要をすることである。

昨今の社会の様子を見ていると、「虐待」について知識や理解が乏しいのではないかと思うことがある。

私は心理的虐待を受けていたそのひとりだ。

ギャンブル依存症の父親と、精神疾患を抱える母親に育てられた私は幼い頃から気性が荒い父親に暴力を受けることもあったけど、それよりも苦しかったのは母親からの無視、お世話をしてもらえない、という精神的虐待だった。それに加え、精神疾患のため精神的に不安定だった母親と弟妹のお世話もしていた。

母親が不機嫌になって私の存在を無視したり、身の回りをお世話してくれなくなるのはいつも突然のことだった。母親の機嫌が悪くなるなにかが起きたか、または私が母親にとって気に入らない言動をしてしまったときに必ず母親は私を無視するようになった。

家での存在を消され、母親の機嫌が直るまで無視や育児放棄は続く。しかし、機嫌が直ったり家以外では普段通りの母親であるため、外から私達の家庭を見ていた人達からは何の違和感や異常さも見えなかっただろう。

それが必要な支援を受けづらかった要因であることに繋がっているようにも思う。その証拠に、周りの大人は誰も私達を取り巻く環境に気が付かなかった。

こうやって私に心理的虐待をしていた母親だったが、精神的に落ち込むと家事など何も出来ない日が続いた。そうすると私の出番だった。父親は不在、母方の祖父母もたまには来てくれていたが精神疾患についての理解が無かったため、あまり頼ることが出来なかった。

家に置いてあったうつ病の本をまだ小学生だった私が読んで、母親について理解を深めようと必死だった。小学生の私が家のことをして、弟妹のお世話をする日々が続いた。時には学校を休むこともあった。

それでも誰も助けてくれなかったし、私からも助けを求めることもなかった。なぜなら、「この環境が当たり前だ」とずっと思っていたからだ。

母親もきっと苦しかったのだろうと思う。精神疾患を抱えながら、三人の子供を育てることはとても大変であることは母親になった私にも分かる。

きっと、母親は「助けて」と言う余裕さえ無かったのだろう。そして、私も「助けて」と言えなかった。この環境が当たり前だと思っていたから。

だからこそ、私は虐待や機能不全家族についての知識がもっと社会に広がって欲しいと心から思う。

当事者の方達が「助けて」と声をあげられなくても、「大丈夫ですか?」「助けが必要ですか?」と周りから気付いて手を差し伸べられるような社会になって欲しい。

「助けて」と言いたい人ほど、声を上げることが難しいのだから。

そのためにも、私はこうやって書いている。

過去の苦しかった記憶を書くことには勇気がいる。でも、あのときの私と同じように「助けて」と言えない人達のために。聞こえない声で助けを求めている人達がいることを社会にもっと知ってもらうためにも、私はこれからも書き続けていきたい。

Text by
Syu twitter note

1991年生まれ。機能不全家族育ち。ライターをしながら四人の子供達の子育てに奮闘中。発達障害児の母でもある。少しでも「生きやすい」社会になるために自己体験を発信。好きな食べ物は米と肉。書くことで自己表現。「荒れた土地に根付いた私にもできる」がスローガン。

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