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かんじんなことは、目には見えない〜ゲイの僕のハレ(非日常)とケ(日常)〜4

第4回:価値観が変わった出来事

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2021.10.2

前回、生まれて初めてのカミングアウトについてお話ししましたが、好意的な反応があったにも関わらず、他の人にカミングアウトしようと思わなかった僕が、今となってはオープンリーゲイ(ゲイと公表しているゲイ)になったきっかけをお伝えしていきたいと思います。

執筆:瀬名 峻 Shun Sena

2つの世界を行き来していた

カミングアウト経験を経ても、僕の交友関係において、職場や学生時代の友人は僕のことをゲイとは知らないままでいました。それとは別に、ゲイの友人とのネットワークは広がっていき、ゲイの友人たちとはゲイの友人たち同士で楽しく過ごしていました。

いわば、僕は2つの世界を行き来しているような気分でした。片方ではゲイではないフリをしながら生きている自分。もう片方の世界では、ゲイであることを謳歌している自分。

そんな2面性を持つことに関して、いつからか、特に後ろめたさのようなものもなくなっていき、このまま、2つの世界を生きる人生を過ごしていくものだと思っていました。

そんなある日、前職の先輩でゲイの当事者がいたのですが、その先輩から、最近NPO法人を始めて、毎週日曜に新宿ゴールデン街でバーを営業しているから、遊びにおいで、というお誘いをいただきました。

特にどんな団体がやっているかどうかも知らず、先輩のお誘いということで、訪れたそのバーは、NPO法人バブリングが運営しているバブリングバー(現在、バーについては営業停止中)というところでした。

当時は、「大切な人へのカミングアウトを応援する」というMissionを掲げており、

・さまざまなカミングアウト体験談がWebサイトに掲載されていること
・バーで働くスタッフはNPOのメンバーであり、何かの事象のカミングアウト経験者もいれば、未経験者もいる

ということを教えてもらいました。

特徴的なのは、”LGBTsのカミングアウト”に限ってのことではなく、”目に見えない生きづらさ全般のカミングアウト”をテーマにしているということでした。たとえばそれは、疾患だったり、バックグラウンドだったり、境遇・体験だったり、さまざまなものがあります。

そうしたことを、そのバーではお話しできる雰囲気づくりを大切にしていて、スタッフはただただ受け止めるということを心掛けている、ということでした。そんなバブリングメンバーの方が書かれているコラムを読んで、衝撃を受けました。

その一部を抜粋して掲載します。

活動開始当初、代表網谷のフルカミングアウトをして生きている姿に好感を持ちながらも、僕はそれほどカミングアウトに意味を感じていませんでした。ゲイであることはほとんど誰にも話していませんでしたが、家族との関係は良好で、ゲイの友達には恵まれ、仕事も良い距離感を持ちながら、やりたい仕事がやれていたからかもしれません。

ところがバブリングやバブリングバーを始めて、メンバーやお客様の多様な生き方にふれあい、話し合い、向きあう中で、僕の中にも変化がありました。

そこで感じたのは、ありのままに、まっすぐに、生きたいと思う、まぶしいほどの意思と心の強さでした。そしてその光に照らされて気づいた影がありました。

例えば僕は会社では仕事をリードする立場であり、誰とでも仲良くするタイプなのですが、特定の人とあるラインを超えてまで親しくなることはまずありませんでした。(中略)

バブリングではカミングアウトを「言えなかったことを打ち明けて新たな関係を築くことで自分らしく生きていくための手段」と定義しています。それは僕にとっても必要な手段だと感じています。

もちろんそれは必ずしも「しなければいけない事」でもなくて、また急がなくてはいけない事でもないと思っています。少しずつ、自分、そして大切な人に向き合いながら、ゆっくりとできればいいと思っています。

井の中の蛙な自分

コラムを読んだ時に、僕が真っ先に思ったのは、「僕と一緒だ」ということです。現状でも十分楽しい。何もこの今の状況を変えなければならない状況ではない。

でも、それと同時に、テレビやネットで見かけるありのままに生きている人たちへの羨望と、自分もそうありたい、という心の奥底から聞こえる声がありました。

バブリングの活動やメンバーの方々に強い魅力を感じた僕は、バブリングが年に一度行うイベントに参加することにしました。『イチゼロイチイチ』という名称で行われるイベントは、毎年10月11日が「国際カミングアウトデー」という記念日のため、そこからインスパイアされたイベントとのことでした。

当日、会場に行ってみると、トークセッションが行われていました。登壇者は、社会的養護を受けていた当事者でした。児童養護施設で育ったり、里親の元で育ったという青年が、自身のこれまで生きてきた経緯をお話していました。

(テレビドラマで、施設出身者の役柄の人は見るけど、生で見るのは初めてだなー)

そんなことを思いながら、トークセッションを聞いていました。しかし、会が進むにつれて、僕はあることに気付きました。

(生で会ったことない、なんて思ってたけど、実は今まで会ってきた人の中で、社会的養護を受けていた当事者がいたかもしれない。僕がただ気づかなかっただけなのかもしれない)

それは、自分が「井の中の蛙」であることを思い知らされた出来事でした。

NPO法人バブリングとの出会いが価値観を変えた

僕自身、ぱっと見ではゲイであることはわかりづらいと思います。

それと同様に、LGBTsだけでなく、この世の中には、さまざまな「目に見えない生きづらさ」を抱えている人がいます。

NPO法人バブリングが、そうした人たちの力になっていきたい、というVISIONを掲げているように、僕自身も、目に見えない生きづらさを抱える人たちの力になっていきたい。

事情や境遇は違えども、少しでもそうした人たちの痛みや苦しさに寄り添い、理解できるように努力をしていきたい。

その手段の1つとして、カミングアウト=自己開示をすることが望ましいのではないか。自分から名を名乗ると同じように、「僕はこんな生きづらさを抱えています」とオープンにすることによって、心を開いてくれる人もいるかもしれない。

それまでカミングアウトについて、前向きではなかった僕が、もっと前向きにカミングアウトをしていってもいいかもしれないと、価値観がガラリと変わっていきました。

バブリングの代表やメンバーと接し、オープンリーゲイとして活動している人たちに出会い、カミングアウトの具体的なイメージが湧いたというのもあるかもしれません。

職場、学生時代の繋がり。これまでの交友関係がある人たち、全ての人たちに伝えていく覚悟をした僕が、どのように伝えていったか。次回はそのあたりをお伝えできれば、と思っています。

誰にも言っていなかったゲイ当事者ということを、32歳の時に周りにカミングアウト。現在は、オープンリーゲイとして、研修講師や取材を受けている。本業のかたわら、ラジオパーソナリティとしても活動中。ネットラジオは毎日配信を380日以上継続中。麺類全般が好きで、毎日食べていても飽きない。流行りものが好きで、現在はサウナにハマり中。

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