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解離性同一性障害による健忘と「働く」のバランス

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2021.9.24

私はフリーランスのライター、エッセイストとして文章を書くことを生業としている。望んで就いた職業なので、仕事はとても楽しい。だが、抱えている障害の影響で、思うようにならない現実もある。

私は、解離性同一性障害と双極性障害を患っている。これらはどちらも、幼少期における両親からの虐待が原因である。本記事では、主に解離性障害とそれに付随する仕事の悩みについて触れていこうと思う。

執筆:碧月はる Haru Aotsuki

虐待の後遺症による解離性障害と、日々悩まされる記憶の欠如

解離性同一性障害。いわゆる多重人格である。この障害を持ちながら働くうえで、困難なことは幾つもある。そのなかでも特に悩ましいのは、記憶の混乱と欠如である。

解離に限らず、病名は同じでも症状は人さまざまだ。私の場合、他の交代人格とほとんどコミュニケーションが取れない。よって、気が付いたら時間が進んでいたり、思いもかけない場所にいたりする。

家の中にいたはずなのに海にいたり、吸った覚えのない煙草の吸殻があったり、朝起きてパソコンに向かっていたつもりが目覚めたら夜だったり、といった具合だ。

しかし、仕事を引き受ける以上、そこには当然責任が伴う。よって、クライアント様に対し、「記憶にありません」と公言することはできない。

私は何の後ろ盾もない、フリーランスのライターだ。そうでなくとも、依頼内容や期日を度々失念する者に、おそらく仕事は回ってこない。

それでも「書く仕事」がしたかった私は、記憶の欠如による仕事への支障を極力防ぐため、日々さまざまな工夫をしている。何も難しいことではなく、単純な工夫ばかりだ。

だが、その積み重ねのおかげで、私はどうにか日常を乗りこなしている。以下に、その詳細をご紹介したい。

工夫①「詳細にメモを取る」

クライアント様との打ち合わせ内容は、必ず手帳にメモを取る。特に期日や依頼内容の詳細、記事の方向性など、失念しては困る事柄は聞き洩らしのないよう、必要に応じて聞き返しながら紙にペンを走らせている。

打ち合わせ後は、無印良品の大判サイズの手帳に時系列を整理しながら再度仕事内容を書き込み、情報の棚卸をする。メールやスラック、チャットワークなど、あちこちに散らばっている仕事のスケジュールも都度こちらに書き込み、手帳を見るだけですべての予定を把握できる状態にしている。

交代人格の中には、パソコンや複雑なアプリを使えない者もいる。よって、手書きの手帳で情報を一括管理するのが、私なりのやり方だ。

工夫②「交代人格に共有したいことがある場合、LINEメモを活用する」

冒頭で記した通り、私は基本的に自分以外の交代人格とコミュニケーションが取れない。不定期で声や泣き声は聞こえるものの、それはほぼ一方通行であり、意志を持って対話ができるわけではない。

直接仕事に関連するエピソードではないが、過去にこんなことがあった。私以外の人格がショッピングモールに買い物に行き、建物のトイレ内で私に交代してしまったのだ。私はすぐに状況を把握し、思わず青ざめた。

ショッピングモールの駐車場は広い。私は車を停めたときには意識の外側にいたため、どこに自分の車があるのか知り得ようがなかった。車の鍵を握りしめ、開錠ボタンを押しながら広い駐車場内を彷徨う。ようやく愛車を見つけたときには思わず安堵の涙がこぼれ、頬を濡らしながら家路についた。

これ以降、互いに伝言の必要があると判断した事柄は、LINEメモに文章や写真で記録を残す決まりとした。よって、交代から目覚めた私が真っ先に取る行動は、「LINEメモを開く」の一択となった。

工夫③「極力疲れを溜めない」

疲れやストレスが溜まると、より解離が起きやすくなる傾向にある。精神科の医師からは、「解離は必要だから起こるものであり、解離そのものを『悪い』と捉える必要はない。ただの休息時間だと思えばいい」と言われている。

ただ、やはり仕事に支障が出るほど(例えば1日のうち10時間ほど解離しているなど)自身の人格が眠ったままになるのは避けたい。複数人いる人格の中で、「文章を書く」役割を担えるのは主人格である私だけなのだ。

生育環境で培われた思考癖や元々の性格により、疲れやストレスを溜め込まないというのは、私にとって容易なことではない。

だからこそ、できるだけ意識的に休憩時間や休日を作り、「まだ働ける」「まだ書ける」と思っても、どこかで強制的に休みを取る。

そうして極度の疲労状態が続くのを防ぎ、心身ともにリラックスできる時間を定期的に設けることで、心身のバランスを崩しにくい生活を心がけている。

「できないこと」にどう対処し、折り合いをつけていくのか

解離症状により「できないこと」もある。でも、「できること」もちゃんとある。できないことを整理して、どう対処しながら折り合いをつけていくのか。大切なのはそのことであり、できないことを数えていても何もはじまらない。

困難はなくならないし、記憶の混乱とともに訪れる痛みも消えない。それでも、仕事を通して社会と繋がり、生き抜くためにこうして文章を綴ることはできる。

「解離性同一性障害の人」ではなく、「碧月はる」というひとりの人間として生き、文章を書く。それが私の一番やりたいことであり、己の人生と向きあう唯一の術なのである。

エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。各メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。虐待サバイバーである原体験をもとに、虐待抑止の発信に力を入れている。書くことは呼吸をすること。

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