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最終学歴中卒の重度障害者が考える、社会人基礎力とはなにか。

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2021.9.30

16歳の時に飛び降り自殺を図り頸髄を損傷。以後車いすに。最終学歴は中卒、企業で勤めた経験がほとんどない私が知った「社会人基礎力」という概念。2006年から経済産業省が提唱しているものらしいが、社会に出るまでにも出てからもいちいち障壁がある私にとっては、そもそも必須事項だったものかもしれない。私が考える「真・社会人基礎力」を提唱する前に、社会人基礎力をおさらいします。

執筆:豆塚 エリ Eri Mametsuka

「社会人基礎力」という言葉をご存知だろうか。

なんだか意識の高そうな響きがするが、経済産業省が2006年から提唱している概念らしい。「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」なんだとか。私はつい最近まで知らなくて、編集者S氏の入れ知恵であるということは早めに白状しておく。

「豆塚さんが考えるこれからの時代に必要な『社会人基礎力』を提言してください。『真・社会人基礎力』みたいな」

いつものzoom会議で今回の原稿のテーマをニッコリ言い渡される。うん、毎度のこととはいえ難しくないすか。



正直なところ、名前からしてまったく興味のわかない概念だ。

身体に障害があって、最終学歴が中卒で、専門的な勉強や訓練を積んだことがなく、企業で勤めた経験がほとんどない私は、社会人をやっている気がしない。

18歳で社会に放り出されてなんとか10年親に頼らずやってこれたが、ここまでどうにかやってこれたのはたまたま人に恵まれたのであって、綱渡りの連続なようなもので奇跡としか言いようがない。当然稼げているわけもなく、履歴書に胸を張って書けるようなキャリアが積めているはずもない。

フリーランスといえば聞こえはいいが、仕事は不定期にしか入ってこず、いつも通帳残高とにらめっこしながら、今月もなんとか生き延びることができそうだとか、ちょっと厳しそうだから今日はあの人にご飯を恵んでもらおうとか、やっぱり流行りのマッチングアプリで結婚相手を探すべきだろうかとか、そんなことをしょっちゅう考えている。

画家をやっている女友達にそれを漏らせば男の見る目の無さや性格の問題、アーティストであること、そもそも結婚に向いていないことを指摘され、私たちにぴったりのご都合主義的男選びはファンタジーなので、どうにか自活する道を模索しよう、という結論に毎回至り、網の上で香ばしく焼けるお肉をつつきながらお互いを励まし合う。

とまあ、社会への適合感はだいぶ低い。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


くだらない与太話は置いといて、S氏にいくらかのヒントをもらいつつ、自分なりに考えてみると、今までの私の生き方にも案外これからを生き抜く上で必要なスキルがあるように思えてきた。

ということで私の考える「真・社会人基礎力」を提言してみたい。まずはそもそも社会人基礎力って何?というところから。



社会人基礎力と検索してみると経産省のウェブページが立ち上がる。経産省の言っていることだし、産業界の要請を忖度したハイソな内容なんじゃないか…などと穿った目で読んでみたが、なるほど、言っていることは確かに文字通り社会人の基礎力だな、と感じた。

働く上で必要になるであろう「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と12の能力要素から構成されていて、色々それらしいことは書いてはいるが、このスキルを身につけるのはそれほど難しいことではないと思った。

普通に働いていれば、いや、地に足をつけて生活していればどこででも勝手に身についていくようなことだし、あらゆる場面で必要となるスキルだ。

これをわざわざ提唱しないといけないあたり、よっぽど社会が若い人たちを育てる気がないということなのかもしれない、とも思った。とは言え、社会でつまづきがある時、自分に何が足りてないか、振り返る指針にはなり得そうだ。



まずは前に踏み出す力(アクション)。

主体性・働きかけ力・実行力が能力要素として挙げられている。「一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」とあるが、やりたいこと・やるべきことを人の助けを借りて実行していくという仕事の基本構造のことを言っているように思う。



次に考え抜く力(シンキング)。

要素としては課題発見力・計画力・創造力。「疑問を持ち、考え抜く力」とある。

現状を分析し、取り組むべき課題を見つけ、計画性を持って問題解決していくことは学校で散々やらされたテストの点の上げ方によく似ている。創造力は新しい価値を生み出していくこと、つまり稼ぎ方を考えることか。

(価値あるものを生み出すのではなく「新しい価値」を生み出す、要はイノベーションを起こすという言い方がなんとも、早いもの勝ち感があって好きじゃないけれども…)いつだってひらめきは大事だ。



最後にチームで働く力(チームワーク)。

発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロールと、能力要素が多い。なんだか耳の痛い項目だなあ。

経産省が作っているプレゼン資料には「グループ内の協調性だけに留まらず、多様な人々との繋がりや協働を生み出す力が求められている」とある。

グループ内で仲良くして人間関係を円滑にする、ということではなく、たとえ初めての現場・チームでも自分が求められている仕事を状況を把握しながら臨機応変にこなしていくということだと理解した。

意見や立場の違いをその場で理解し、言うべきことを言い、聞くべきことを聞くというのはなかなか難しい。「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」というアドラーの言葉がふと頭をよぎる。

と、以上が社会人基礎力の概要だ。



さらに経産省は2018年に、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」として新たに定義づけている。

先に書いた3つの能力に、どう活躍するか(目的)・何を学ぶか(学び)・どのように学ぶか(統合)という3つの視点を加え、社会人基礎力は「恒久的に磨き続けるスキル」だとしている。

つまり「習うは一生」、生涯学習みたいなことか。これも、わざわざ改めて言わなきゃいけないほど新しい概念という感じはしない。

確かに、グローバル社会だと言われ始めてもう30年くらい経っていて、AIを中心とした第四次産業革命の時代が到来し、単純労働の価値は下がるだの、知識やスキルの賞味期限が短くなっているだの、これからは資本でなく人材の時代だのと言われ、なのに少子高齢化で人材が不足し、人手が足りないからと女性や高齢者・外国人を活用したいとダイバーシティ(多様性)が政府主導で推進されている。

どうやらこれまでの常識は通用しなくなってきているらしいぞというのは経産省の資料からなんとなく伝わってくる。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


しかし、長年障害者をやってきた人間にしてみれば、社会に出るまでにも出てからもいちいち障壁があり、その都度、自分はどうあるべきか?どうしていきたいのか?を常に自身に問うてきたわけだから、ここで言われているスキルなんて生きる上での必須事項だったとしか思えない。むしろ経産省の人たちに、障害者に社会を委ねたらどうですか?と言いたくなるほどだ。

とはいえやはり、ここで言われている社会人基礎力はあくまで社会で生き抜くためのスキル、他人軸の指針という感じは否めない。

そもそも産業界が社会人に求めている力なのだからそれは仕方がないのだが、人生100年時代と言うならなおさら、「自分が」この社会で生きていくための、自分軸の指針を持ちたい。ということで次回から、私の考える「真・社会人基礎力」を提言していこうと思う。


※文中にあるスライド資料は経済産業省のサイト内にある「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料(フリー素材)です。


1993年生まれ。詩人。16歳の時に飛び降り自殺を図り頸髄を損傷。以後車椅子に。障害を負ったことで生きづらさから解放され、今は小さな温泉街で町の人に支えてもらいながら猫と楽しく暮らす。
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