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就労準備としての障害受容2

~当事者と周囲の「障害受容」について考える

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2021.10.6

成人後に発達障害の確定診断を受けた人の中には、特性により、失職を含む職業上の大きな困難に直面している方が多くいます。かくいう私もその一人で、発達障害の確定診断を受けた2019年当時はほぼ働けていませんでした。

二次障害を引き起こしていたのが大きいのですが、何より私自身が自らの障害を正面から認めることができず、心理的に大きく揺れていたためでした。

今回は「就労準備としての障害受容」というテーマで、診断が下されたばかりの成人した発達障害当事者、ならびにそのご家族向けに、私が自分の発達障害を認めた過程やそこから得た個人的な教訓などをお伝えできればと思います。

「就労準備としての障害受容1~障害受容と死の受容は似ている」はこちら>>

執筆:大河内 光明 Komei Okouchi

受容過程に沿った頑張りを

未だに自らの障害に対して、歯がゆい思いをすることは多々あります。学生時代の友人と会った時など、仕事やプライベートの状況でライフステージの違いを痛感することも少なくありません。

そういった「揺らぎ」もありつつ、一番酷かった状況から抜け出し障害者雇用で就労できているのには、いくつか要因があった気がします。

一つは、自分にできるアルバイトを地道に続けたことです。

公的機関の支援を受け終わった後、私には民間の就労移行支援事業所に通う選択肢と、アルバイトを続けながら自ら就労準備を進める選択肢の二つが与えられていました。就労移行支援事業所に通うには、収入があると不都合だということで、いくつかの事業所を見学した後、私は後者を選びました。

理由としては、「わずかな額でも自分で稼ぐこと」が私にとって、大きな意味を持っていたことが一つ。そして、「早朝に起きて体を動かしながら働く」ということが、私のメンタルヘルスに非常によい効果をもたらしていたことが二つ目に挙げられるかと思います。

前職、私は一年半ほどに及ぶ猛烈な受験勉強を経て、一般枠で公務員の仕事をしていたのですが、その職場での人間関係と仕事で、大きなつまずきを経験しました。

これだけ長い時間をかけて準備して、なおだめなら……そう考え死を意識したこともありました。引きこもりがちになり、運動不足も重なって精神的にも追い詰められるという負の連鎖が続いていました。

オフィスに閉じ込められて一日中作業するということに対しても、大きな精神的苦痛を感じ、自分自身の能力に対する最低限の自信、他者と協働するために必要な(他者への)信頼感というものが全く持てなくなっていたのでした。

それを改善する契機になってくれたのが、早朝のマンション清掃のアルバイトでした。会社には自分の障害のことを最初から伝えていました。

そのおかげなのか、マンションのオーナーの方が非常に親切に話しかけてくださり、個人的に別件で仕事を任せていただいたりするなど、「人に信頼される」「人を信頼する」という働くうえで最低限のベースを回復することができました。

会社からの信頼も積みあがったようで、最終的に三つの物件で清掃を担当するようになりました。些細なことかもしれませんが、「積み上げ感」「人に信頼する、される関係性」という二つで、もう一度頑張ってみようと思えるようになったような気がします。

おそらく、ここで不満を抱きつつ就労移行支援事業所に通う選択肢をとっていたならば、私の立ち直りはもっと遅いものになっていたか、本格的に引きこもることになっていたような気がしてなりません。

ここで何よりも重要なのは――これは私の持論ですが――障害者にとって就労とはゴールではなく、よりよく生きるための手段、そして過程に過ぎないのではないか、ということです。

もちろん、仕事に生きがいを感じるのは大事なことですが、それを周囲が押し付けたり、それぞれの受容の過程を無視して当事者の主体性なしに支援がなされたりすることには疑問を持ってしまいます。

それぞれの受容過程でそれぞれの頑張りをすることが、何より当事者の迅速な復職に資するだけでなく、長期的な目で見たときに真の意味での「社会復帰」に繋がるのではないでしょうか。

支援者や家族には、一般的な復職の過程がこうだから、という発想ばかりにこだわるのではなく、当事者の精神状態や成育歴にフォーカスし、当事者目線での声掛けや支援をしてほしいと切に願います。

障害受容とトキシックポジティビティ~周囲の人の声掛けについて

話が変わりますが、トキシックポジティビティという言葉をどこかで聞いたことはないでしょうか。日本語にすると「有毒なポジティブさ」とでも訳しましょうか。

苦しみぬいた「否認」と「悲しみと怒り」の時期、私を助けてくれたのは「障害は個性だよ!」とか「発達障害は天才型の人に多いんだよね」というような、ポジティブな言葉ではありませんでした。

前を向こうよとか、マイナスなことばかり考えてはいけないよ、というアドバイスは何ら心にひっかかることはなかったのです。それらによって、むしろ拒否されているなとさえ感じました。そんなことを考えてはいけない。そんな気持ちになってはいけない……。

しかし実際に「ある」感情を否定されることは、私の苦しみを増大させました。もうこの人には理解してもらえない。話したくない。そう気持ちにさせるには十分でした。

唯一、私のネガティブな感情を認めてくれたのはカウンセラーでした。

「あなたの怒りは正当ですよ。ここですべて話してくださいね」

その言葉にどれだけ救われたでしょう。今あるネガティブな気持ちを、ただ認めてもらうこと。それが安易な励ましよりも救いになることがあります。

時にポジティブな励ましは、精神的な問題を抱えた人の心に深い傷を負わせ、「自分は拒否されている」という孤独感を深めさせることにも繋がります。

例えば、誰か親しい身内を亡くした人に、どう声をかけるでしょう。「大変だったね! でもこれからがチャンス。明るくいこうよ!」と肩を叩いて飲みに誘うでしょうか。

私にとって、障害の発覚と受容の過程は「それまでの健康で健常だった人生との別離」でしたし、25年分の人生が一気にガラガラと崩れていくような、死にも近い苦しみでした。その点、ご家族や周囲の方には、どうか診断が下されたばかりの当事者の気持ちによりそってあげてほしいと思います。

最後に~「障害受容」をめぐる議論について

さて、ここまで障害受容について書いてきましたが、この言葉には様々な観点から近年批判が加えられるようになってきました。

「皆が一律にこの心理過程を経るわけではない」、「障害にはそれぞれの多様性があり一律に『受容』の状態を定義づけられない」、「障害そのものに対する受容よりも周囲や社会からの扱われ方が大事である」、などなど、どれも説得力のある批判が揃っています。

ある文脈からは、こうも批判されています。

一旦それ(割注:障害受容という概念を指す)が医療・福祉の現場で援用されるようになると,それが権力的に用いられ,患者・障害者にとって抑圧的に作用してしまう場合があることはすでに指摘されている。

例えば,野中は障害受容が障害を持つ者の義務になってはいないだろうかと問いかけ(野中,1999),田島は,医療関係者が患者やその家族に「障害受容ができていない」と言う時,それはセラピストの思うように支援が進行していないディレンマを解消しているに過ぎないのではないかと自問し(田島,2008.2),臨床現場のセラピストが「障害受容」という言葉の使用を避ける時,そこにある様々な思いを紹介した(田島,2008.3) 

引用元:『障害受容概念と社会的価値ー当事者の視点からー』岩井阿礼 p6より引用

しかし今回、私がこの批判を承知の上であえてコラムとして「障害受容」をご紹介したのは、こうした危険性を孕んだ概念であることを踏まえてなお、当事者とその家族に有用であると考えたためです。

長々と書いてきましたが、このコラムで私が言いたかったことは一つです。

確定診断がくだり、ショック状態にある当事者の方、ならびにそのご家族の方、その辛く苦しい状態は永遠には続きません。それぞれの過程を経て、必ず自分なりの着地点が見えてくるはずです。

私もいまだに受容の過程、おそらく「適応」の過程にあり、障害をすべてポジティブに捉えられてはいません。しかし、こうして当事者の方に向けて発信するということが、一つ新しい生きがいとして見つけられるようになってきました。

最近、所属する当事者会にて、特別支援学校の先生たちに当事者として講演する機会もあり、その幅は広がってきています。

必ず光は見えてきます。一緒に頑張って生きましょう。

「就労準備としての障害受容1~障害受容と死の受容は似ている」はこちら>>


【参考文献一覧】
『障害受容概念と社会的価値ー当事者の視点からー』岩井阿礼 
『発達障害の家族支援における「障害受容」ーその概念の変遷を巡ってー』中田洋二郎

1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、新卒でweb出版社に勤務。その後転職し裁判所事務官として勤務していた際に体調を崩して退職。直後に発達障害(ADD+ASD)の確定診断が下りました。
以降は民間の障害者雇用で働きつつ、副業でライターをしています。実績としては日刊SPA!、品川経済新聞さんなどで記事を担当。それ以外にも企業の商品紹介記事や、公的機関のウェブ記事などを複数執筆致しました。

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