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最終学歴中卒の重度障害者が考える社会人基礎力とは?その2:自分で自分を癒す力

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2021.10.14

16歳の時に飛び降り自殺を図り頸髄を損傷。以後車いすに。最終学歴は中卒、企業で勤めた経験がほとんどない私が知った「社会人基礎力」という概念。知れば知るほど社会で生き抜くためのスキルであり、他人軸の指針だ。「自分が」この社会で生きていくための自分軸の指針として、私の考える「真・社会人基礎力」を提言する。第2弾は自分で自分を癒す力。

執筆:豆塚 エリ Eri Mametsuka

生きている限り、辛い目には遭う。

どんなに運のいい人だって、大なり小なり困難にはぶつかるだろう。不運や困難にいちいち傷ついていては心も体も持たない。

生きる上でまず必要なのは行動力なのに、傷つくことを恐れてしまえば、生きる活力や挑戦する意欲が失われてしまう。

結果、受動的になってしまい、何事も「やらされている」ような気がしてくる。日々が味気なくなる。しまいにはなんのために生きているのか、わからなくなりはしないだろうか。

そうならないためには、精神的な強さである「メンタルタフネス」が必要だ。けれども、傷つきやすさは長所にもなりうる。感受性の豊かさや気遣いの細やかさ、共感力はむしろ美徳だろう。

メンタルタフネスは「ストレス耐性」という意味で用いられることがしばしばだが、私の思うメンタルタフネスは「耐える力」ではない。

我慢すること、耐えることには限界がある。抑圧をただ耐え忍んでいると、感覚が鈍麻し、無力感に支配され、いずれ心が壊れるか自分を見失ってしまう。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


「ウィークネス・フォビア」という言葉を知っているだろうか。弱者嫌悪という意味で、男性学研究者の内田雅克による造語だ。「"弱"に対する嫌悪と、"弱"と判定されてはならないという強迫観念」と定義されている。

子供の頃の私は、親に精神論を叩き込まれ、何事も「根性」で乗り切ろうとした。長らく「強くあれ」と言い聞かせられ、強い人間になろうとしてきた私はまさにこの観念に縛られてきたように思う。

弱さは恥であり、弱さを見せてしまえば負けてしまうと思い込んでいた。ある程度の逆境には耐えられたものの、だからといってなんでも精神論だけで乗り切れるわけがない。

その結果が自殺未遂だった。自殺に失敗し、障害者になったことで、どうしても自分の弱さと向き合わざるを得なくなった。

「プロは兵站を語り、素人は戦略を語る」という言葉がある。

兵站とは戦闘地帯より後方にある支援や補給、修理、整備などを行う活動機能のことだが、この言葉は、兵站は戦争において補助的なものではなくむしろ重要な地位を占めるものであるという意味だ。

そう、大切なのは耐久力ではなく「回復力」なのだ。子供の頃の私に足りなかったものは自分に対するケアだった。

真・社会人基礎力その2は、レジリエンス、つまり負荷がかかったとき、傷ついたときに「自分で自分を癒やす力」だ。今回はそういった柔軟なメンタルタフネスについて考えてみる。



弱いまま、かつ自分を保ったまま生きていくのに必要なのが回復力だ。では、回復力を身につけるために必要なものは何か。

まずは味方を持つこと。前回の記事にも書いたが、弱さを開示することで相手も心を開きやすくなる。

職場でお互いに弱さをフォローしあえる関係を構築できれば何よりも支えになるだろう。それが難しければ、友人、家族、恋人でも構わない。行きつけのバーのマスターでも、カウンセラーでもいい。自分が何を望み、何に悩んでいるのかを開示できる心の安全地帯を獲得すれば、回復力はぐんと高まる。

気分転換や気晴らしになるようなことをすることもいいだろう。「好き」や「心地よい」、「楽しい」感情を普段から大切にし、何かに没頭する時間を持つこと。感情や気分は移ろいやすい。嫌な気持ちになったときに一時的にでも逃げ込めるものがあるだけで、メンタルが削れるのを防ぐことができる。

しかし、逃避ばかりしていても仕方がない。また、逃避先がギャンブルやお酒、ソーシャルゲーム、恋愛など、トラブルを抱え込みやすく依存性の高いものに偏るのもよくない。他者や自分をさらに傷つけかねないものには出来るだけ近づかないことだ。

十分に休息できたなら、自分と向き合うことも必要だ。

自分が一体何にストレスを感じているのか、何が嫌なのか、原因を探る。案外、自分自身が自覚なしに自分を傷つけていることも多いものだ。

「自分はこういう人間だから」「自分にはできない」とはなから自分で決めつけていることもある。これらは一見現実を受け止めているようで、そうではなく、むしろ現実を遠ざけている。

人は不安よりも不快や不満を選ぶものだ。不快も不満も、惰性で慣れてしまう。それによって自分自身を無力化し、さらに自信を失うという悪循環に陥っていく。だめかもしれなくても、やってみて望んでいることと違うことが起きたとしても、自分を奮い立たせてまず行動し経験して初めて、気がつくこと、得ることがある。


photo by August(https://twitter.com/a__ugust__us)


いつかの記事にも書いたが、今の自分にないものは今から身につければいい。第四次産業革命の時代といわれ、あらゆる仕事が自動化されていく過程にある今、過去の経験やスキルは役に立たなくなってきている。

今抱いている自分の感情に気が付き、自分の本質や生きる目的、自分の役割を自覚していくことで、生きる指針が明確になっていく。腹の底に溜まった怒りや攻撃性を仕事にぶつけて昇華するのも有りだ。他者の手を借りながら、自分で自分を励まし、行動を起こし、失敗したり傷ついたりすることによってのみしか、道は拓いていかない。

過去に大きなトラウマがあり、苦しんできた人こそ、報われる時代になってきていると私は信じている。不運を、苦しみを受け入れ、自分の弱さを知り、それでもなお生きようとする人こそ、本当のメンタルタフネスを得られるのだろう。回復力の高い人は、挫折や困難から学び、活かせる人のことだと私は思う。

今こそ、これまでの自分を取り払い、自分に向き合い、自分を認め、他者ともそうすることによってしなやかなメンタルを身につけるときではないだろうか。

1993年生まれ。詩人。16歳の時に飛び降り自殺を図り頸髄を損傷。以後車椅子に。障害を負ったことで生きづらさから解放され、今は小さな温泉街で町の人に支えてもらいながら猫と楽しく暮らす。
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