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「感謝」に振り回される人、「感謝」を使いこなせる人。

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2021.10.18

「ちゃんとお礼しなさい!」
「ありがとうってちゃんと言ったの?」

という言葉を、わたしは何度も何度も親から聞いてきました。


当時の親からすると、『礼儀がなってない子』という認識だったかもしれません。何かを受け取ったり何かをしてもらってお礼を言えないのは、確かにしつけがなってない、というイメージになってもおかしくないのかもしれません。

あ、もちろん当時のわたしは受け取った相手に恨みがあったわけでもなく、発達障害らしく相手の様子とか考えてることとか、受け取ったものの正体が何かということばかりに気をとられていただけでした。そこはご心配なさらず。

執筆:いりえ(北橋 玲実)

さて、今この記事を読んでくださっているあなたは、おそらく自立に向けた努力だったり、誰かの自立の支援をしている方かもしれません。あるいは、自立はしているけれどももっと何か自分を伸ばしていきたい、といった思いを持っている方かもしれません。いずれにしても、すごく前向きで意識の高い方なのではないかと思います。

ですので、きっとあなたも礼儀を身につけているのだとおもいます。
ですが、“礼儀”と言われると、冒頭に述べた“感謝”をはじめとして、

・ 人と話すうえでの身だしなみ
・ 公的な場所に行くうえでのマナー
・ いわゆるテーブルマナー

といった、具体的なことからつかみどころ無いものまで様々ですが、大まかに共通していることは、「やり方」であるということです。具体的にいうと、「髪型は…」「列に並ぶときは…」といった、あくまでも行動のしかたや見え方をととのえる、ということです。

こういった「行動」や「見え方」をととのえていくコトは確かに大事です。見た目が整っていればなんとなく他人に受け入れてもらえる確率は上がりそうですし、逆にそれができていないと信用を失うこともあるかもしれません。

ですが、こういった「やり方」だけを積み重ねることで、私たちのメンタルには負担がかかるコトもあります。それが一番顕著なのが、冒頭の「感謝」です。

「感謝しましょう」「ありがとうと言いましょう」こういったことは家庭でも学校でも地域社会(今どきは少ないかもしれませんが…)でも、よく言われることで、『感謝できない人はマナーが悪い』なんて言われ方もします。

でも、あなたはこんな人を見たことがありませんか?
会社の役員や役職者に対してやたらと媚びたようにお礼の言葉を述べる人。もしくは急に家に訪ねてきて軽々しい「ありがとうございます」という言葉を口にする営業の人。

もちろんそういった人は本人が幸せになりたくて、怒られたくなくて、認められたくてそういった言葉を口にしていることは理解できます。だとしても、そういった人たちに対して、あなたは『この人は信用できる』と思えますか?

人はすごく不思議な生き物で、どれだけ言葉や見た目や行動を取り繕っていても、それが本音から出たものかどうかは、わかる人にはわかるものです。

私たちが小さいころから身につけてきた「感謝」という習慣。これもただの「やり方」でしかありません。「感謝」することが、人に信用されたり生きていくためのただの手段になり、「感謝」という言葉にメンタルを振り回されてしまっていることも少なくありません。

『感謝の言葉を述べてさえいればいい、それで認められる』という思い込みをして、イヤイヤな人間関係に飛び込んだり、ただ自分を大きく見せるためだけに、心にもない感謝の言葉を軽々しく使っている人が多いことに、日本の会社の中で働いている頃に本当に強く感じていました。

感謝に限らず言えることですが、心にもないコトを言うことも本音を隠すことも、私たちのメンタルに大きな負荷をかけてきます。

障害を持ち、人と比べて出来ないコトを否定され傷心し、それでも何とか生きるためにやりたくないことをやり続けて必死になって生きていた以前のわたしは、本音から離れて生きるコトによるメンタルの負担、将来の可能性を失うリスクに敏感になった実感があります。

だからこそ、たとえマナーだとか礼儀だとか人から見てどうこうということがあったとしても、心にもない言葉を過剰に口にすることが正しいことだとは言いたくありません。


一方で、本心から感謝することは私たちの人生にとって本当に重要なことです。

こんなにも便利な世の中。これまで何千年にもわたって私たちの先祖が残してくれた、命の不安も、日常の大きな不便もないこの世の中。それでも私たちは不幸を感じてしまうことをやめられません。

なぜ私たちが自信をもって「わたしは幸福である」ということが難しいのかということは、感謝に大きくかかわっているのだと思っています。

特に日本において不幸を感じやすいのは会社の中だと思いますが、会社においては、
・ 上司の指示が細かすぎてイライラする
・ 同僚が感情を振りまいて、周りにいるだけで疲れる、メンタルやられる
・ 自分の能力が足りず自責、他人から叱責を受けて落ち込む
・ 自分の成果が認められず給与に不満をもつ
・ 不要な仕事が多すぎて時間がとられ、やりたいことができず悔しい気持ちになる

こういったことで「不幸」を感じ、幸福から離れていると感じる方は多いのではないでしょうか。

一方、あなたが心からの感謝を感じる瞬間はどのくらいあるでしょうか?

感謝の代表的な言葉は「ありがとう」ですが、この言葉は漢字で書くと「有難う」であることからわかるように、「在ることが難しい」ことが語源になっています。

そして、感謝を心から感じるということは、あなたの状況に対して「これはなかなか無いことだ、ありがたいなぁ。」と思えているということです。そして、この「ありがたい」という感覚こそ、あなたが恵まれていること、あなたが幸せであることをまさしく言い表している言葉だとは思いませんか?

そして、あなたが心からの感謝を感じられる状況こそ、あなたがまさしく幸せを感じている瞬間だと思えてきませんか?

もしあなたが、今この瞬間「幸せじゃない」と思っているとするなら、あなたが日常の中で「有難い」ことではなくて「当たり前」と思うことの方が多いのかもしれません。

・ このくらいできて当たり前
・ このくらいしてくれて当たり前
・ 生きてることなんて当たり前
・ 人とつながれることなんて当たり前
・ このくらい受け取れて当たり前

そういった言葉が、たとえ無意識的でもあなたの中にあるとしたら、チャンスかもしれません。なぜなら、今あなたがこうしてこの記事を読んでいることもあなたが生きているからこそだし、あなたが記事を読むために必要な条件をすべて備えているからです。

だからこそあなたが今すでに「有難いもの」にたくさん囲まれて生きているコトに気づくことさえできればあなたの幸福度は大きく変わっていくはずなんです。

世の中に「当たり前」なんてことはありません。今生きているということでさえ、あなたがこれまで経験してきたすべての苦難をひとつ残らず乗り越えてこなければ成し得ることはできません。

最初はそう思えないかもしれません。生きていることも誰かと話ができることもあなた自身に何かの能力があるコトも、あって当たり前、ありがたいなんて思えないかもしれません。そこで無理に「ありがとう」と言う必要もありません。

でも、もしあなたにその能力が無かったら?そのつながりが無かったら…?そう考えてあなたが今どれだけのものを持っているかに気づくことができれば、それらに心から感謝することができます。そして、それだけであなたは幸せを感じるコトができるはずです。

「生きてるだけで100点満点。」という言葉を聞いたことがありますが、それは決して気休めではなく、「どんなにささやかでも生きているコト」ただそれだけの尊さや有難さを気づかせてくれるものなのかもしれません。

いつでも、なんでも、誰でも肯定するアスペ。Estlaughtive代表。自己肯定感育成スクールを通して「『生きづらい』を乗り越えてありのままに生きる」ための考え方を拡散中。その他にもコーチング、コミュニティ、講演会の出演、経営コンサルを行う。著書2冊はそれぞれAmazon6、7部門ベストセラーとなった。

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