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権利の主張と謙虚さのバランスはとれていますか?

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2021.11.2

障害があると他人にサポートや配慮をお願いする機会があります。そのときに言葉遣いひとつで相手の反感を買ってしまう可能性があるため、お願いの仕方は非常に重要です。ではどのようなお願いの仕方が望ましいのでしょうか?今回は実体験をもとに私の考えをお話します。

執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura

謙虚さの欠けた主張

以前、バスに乗車したときにこのような場面に遭遇しました。


中年男性Aさんがヘルプマークをかざしながら「こっちは障害者なんだから席を譲ってくれ」と優先席に座っていた青年Bさんに声をかけていました。
優先席に座っていた青年Bさんは、「は?」という表情をしています。2人のやりとりは徐々にエスカレートし、お互いに声を荒げるようになっていました。
その5分後、青年Bさんが目的地のバス停で下車したことでその場は落ち着きました。



みなさんは、この話を聞いてどのような感想を持ちましたか?

「ヘルプマークの人には席をゆずるべきだろう」
「中年男性Aさんは、人にお願いをするときの言い方ではない」
「Bさんもそこまで声を荒げなくていいんじゃない?」

様々な感想があると思います。

私はこの出来事から「権利の主張」と「謙虚さ」はバランスが大切だなと感じました。謙虚さの欠けた「権利の主張」は、ときに単なるワガママとして捉えられます。そして、今回の中年男性Aさんの発言は、謙虚さの欠けた「上から目線の発言」のように感じました。

「ヘルプマークを持った人に席を譲る」という行動は、社会的には望ましい行為でしょう。

もともとヘルプマークは、内部障害や難病の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、援助を得やすくするために作成されました(出典:東京都福祉保健局HP)。



最近はヘルプマークの認知度が少しずつ向上し、目に見えない障害を抱えている方も配慮を受けやすくなったように感じます。

一方で、いくら社会的に望ましい行為であっても、上から目線で強制されると「イラッ」という気持ちとともに「席を譲りたくない」と思うようになっても仕方がありません。特に礼儀の欠けた言い方をされると、なおさらです。

今回の中年男性Aさんは、席を譲ってもらう相手を気遣うという気持ちは薄かったように思います。個人的には「自分さえ良ければそれでいい」と考えているように感じました。それが青年Bさんの反感を買ってしまったのかもしれません。

ただ、私自身、青年Bさんはなぜあそこまで頑なに席を譲らなかったのだろうとも感じます。

もし、彼にも優先席に座っている理由があったとしたら。ヘルプマークをつけていないだけで、何か困りごとを抱えていたとしたら。なぜ、中年男性Aさんは自分をターゲットにしたのだろうと思うかもしれません。

「謙虚さ」だけでなく「相手の事情や状況を察すること」も大切ではないでしょうか。



謙虚さは「何も言わない」ではない

私は、障害者は何も主張せずに黙っているべきとは考えていません。謙虚になるとは、何も言わないという意味ではありません。社会という大きな枠組みの中で、個人の権利を主張することは大事なことです。

私自身に重度身体障害があっても、大きな不自由なく日常生活を送れているのは、過去に声を上げて権利を獲得してくれた人がいたからです。

たとえば、日本の都市部では、ほとんどの駅にエレベーターが設置され、車いすユーザーが単独でも鉄道を利用できるような環境が整っています。これは移動に困難を抱えている人たちが、エレベーターの必要性を主張してくれたからこそ実現しました。

ただ、社会を変えるために声を上げることが重要とはいえ、個人対個人の関係で、障害を盾に個人の権利を主張しすぎると相手との溝が深まるように感じます。

サポートされることに慣れてしまい、「障害があるから配慮してもらって当たり前」となってしまうと、「障害者はワガママで面倒くさい」と言われても仕方がありません。

他人の配慮や援助を必要とする機会が多いからこそ、人に何かをお願いするときは謙虚さを忘れないようにしたいものです。

謙虚さのあるお願い

では、謙虚さのあるお願いとはどのようなものでしょうか?私が普段意識していることを紹介させてください。
 
私も身体に障害があるため、日常生活を送る上で、家族や訪問ヘルパーに様々なサポートをお願いしています。また一人で外出するときは、街中で面識のない方にサポートをお願いすることもあります。

誰かにお願いをする機会が多いからこそ、他人との関わり方には非常に気をつけています。

では具体的にどのような関わり方を意識しているのか。それはとても単純なことです。

  • お願いをするときは敬語を使う
  • 笑顔でお礼を言う

お願いをするときは敬語を使い、サポートをしてくれたら相手の顔を見て笑顔でお礼を言う、ただこれだけです。文字にすると小学生のときに学校で教えられたような内容です。

しかし、この小学生でもできるようなことができていない大人が意外と多いのです。そのため、過去にこの2点を意識した関わり方をしただけで、訪問ヘルパーに驚かれたこともありました。

私はお願いすることを通じて「サポートして良かった」と思ってもらえるような関わり方を意識しています。私への支援を通じて「サポートして良かった」と思ってもらえたら、その人は別の誰かに支援の手を伸べてくれる可能性が高くなるからです。

優しさの連鎖が広がることで、本当に支援を必要としている人に優しい声掛けが届くといいなと思っています。



まとめ

障害のある人の暮らしをより良くしていく上で、当事者が権利を主張することはとても大切です。しかし、物事はバランスが重要です。権利の主張と謙虚さのバランスを保ちつつ、日々の生活を送ることができれば、誰にとっても暮らしやすい社会が訪れるのではないでしょうか。

1988年生まれ。大学1年生のときにアメリカンフットボールの試合中の事故で首を骨折し車椅子生活となる。その後、アメフトのコーチを6年間経験し、現在は、大学教員としてスポーツ心理学の研究とアスリートのメンタルトレーニングを実践しつつ、YouTubeチャンネル「suisui-Project」で車椅子ユーザーのライフスタイルを発信している。

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