仕事での失敗をついつい障害のせいにしてしまう自分を変えるための方法
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2021.11.7
高校卒業後、就職先が決定。夢だった社会人生活がスタート。ところが周りは健常者ばかりで私は不安になっていき、仕事で失敗するとつい障害のせいにしている自分がいました。それをどのように乗り越えたか、まとめてみます。
執筆:佐々木 美紅 Miku Sasaki
私は脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの病気のため、電動車いすで生活しています。
脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚など全身の筋肉を動かす脊髄の細胞に異常があり、筋力が低下していく進行性の難病です。
養護学校高等部を卒業後、夢だった仕事を開始。しかし、自分の身体が筋肉疾患のせいで動かないことに焦りと不安を覚え始めたのです。
仕事で何かミスをするといつも障害のせいにしていた
入社したばかりの私は、仕事の内容を理解していても、その作業ひとつひとつがとても大変でした。筋肉疾患があり、事務仕事は手を動かすことが中心だったので、身体の負担が大きかったのです。
たとえば…
- はんこがうまく押せない
- 穴あけパンチがうまくできない
- ファイルに書類を出し入れするのに時間がかかる
- キーボードや電卓を打つのに時間がかかる
- 書類を近くに置いて入力するのも時間がかかる
- 棚に入っているファイルを取ってもらうのに、いちいち人に声をかけなければいけない
- 印刷機に用紙が入っていない時は、自分で補充ができないので誰かに頼まなければいけない
このような苦労があったので、仕事でミスをしてしまった時は「私は人よりも身体が動かないから、失敗してしまうんだ」と自分のことを責めていました。
また、誰かに声をかけるというのがとても苦手だったので、お願いすることもストレスとなり、何か失敗した時には障害のせいにしている自分がいました。
自分の身体のことが嫌になってくると、自分自身そのものが嫌になってくる
ミスをした時、何が原因で失敗したのか。その原因を突き詰める前に、条件反射的に自分の身体のせいだと思うようになっていました。失敗するたびに自分の身体のことが嫌いになっていくのです。
もし健康な身体だったら、こんなミスをしなかったのに。
近くに障害を持った先輩社員がいたのですが、彼女と比較してしまうこともありました。
彼女は車いすですが、私のように電動車いすではなく、また、身体の可動域も広く、そして、業務歴が長かったので、冷静に考えれば、その先輩のほうが仕事ができるのは当たり前でした。しかし、私のほうが障害が重たいからと自らマイナス思考に陥り、自分で自分を責めていたのです。
人と比較してしまうのは、就職の面接の時の影響もあったかもしれません。重たい障害だからという理由で、あまり話を聞いてくれなかった企業もあったので、入社前から後ろ向きな心持ちになりやすい傾向にあったように思います。
自分の体のことが嫌になってくると「私」という人間が嫌になりました。「私は何をやってもダメな人間だ」と責めるようになってしまったのです。
朝起きるのも辛いですし、夜になれば憂鬱になって眠ることができません。出社しようとすれば吐き気や頭痛がして、会社に行くのもやっとでした。せっかく夢だった一人暮らしをし、会社勤めすることができたのに、仕事そのものが辛くなりました。
仕事での失敗をついつい障害のせいにしてしまう自分を変えるための方法
私はずっと仕事での失敗を障害のせいにしていました。マイナス思考に陥り、うまくいかないことで、仕事を早く辞めた方がいいのかなと考えていたこともあります。
しかし、「こんな私のことをこの会社は採用してくれたんだよな」とふと思う瞬間がありました。なぜ思い出したかはわかりません。
思い返せば、私は面接の時に、正直に自分の身体の状態を話しました。その上で会社は私を採用してくれたのです。会社にとって自分は必要のない人間なのではないか、と思うことは見当違いなのではないかと考え直しました。
そこで私は、仕事の失敗を身体のせいにするマイナス思考的なエネルギーを別のことに費やすことにしたのです。筋肉が人より少ないことはどうすることもできないので、どうすれば効率的に仕事ができるのかということを考えました。
たとえば、業務上の工夫であれば、
- 自分の手の届く範囲のところに普段使うものを設置する。効率よく使える順番を考える。
- 印刷物を見ながらパソコンに打ち込むのではなく、なるべく画面上で済むものは印刷しないでチェックをする。
- 穴あけパンチやハンコ押しは、できないと素直に伝えそのような仕事を回してもらわない。
ほんの小さなことでもちょっとした工夫によって仕事の失敗を減らすことができます。
失敗やミスをうじうじと悔やむのではなく、前向きな気持ちで、どうすれば改善できるのか考えることが大事だと実感しました。この積み重ねは、会社に役に立てているという気持ちにもつながっていきました。
私はできないことを伝えることが、 わがままな人間だと思われてしまうのではないかとずっと不安に思っていました。しかし、できるふりをしたところで、結局うまくいかずに仕事を滞らせてしまうほうが、周囲を困らせてしまうことに気がついたのです。
まとめ
私は養護学校出身なので、今まではバリアフリーの環境にいました。当たり前のように助けてくれる人も周囲にはたくさんいました。
しかし、働き始めると状況は一変しました。自分の障害を意識するようになり、うまく身体が動かないことを辛いと思うようになってしまったのです。
私にとっては、考え方を変えたことがターニングポイントで、随分と気持ちが楽になりました。
できないことを受け入れて、周囲に伝えていくことは勇気が必要でしたし、うまく伝わらずに嫌な思いをしたこともありますが、自分の身体のことや障害のことを素直に伝えていくことが、気持ちよく働いていける近道なのではないかと感じられるようになりました。