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自分の悲鳴を無視しない

―双極性障害による鬱の波と、仕事との折り合いについて

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2021.11.20

先日、さまざまなトラブルが重なり、大幅に心身の調子を崩した。メンタルだけではなく、ストレスから胃腸が炎症を起こし、上からも下からも出血をする有様だった。
散々悩んだ挙句、思いきって長期の休暇を取った。本日は、その経験を踏まえて、双極性障害の症状を抱えながら働くフリーランスのライターとして、思うところを綴っていきたい。

執筆:碧月はる Haru Aotsuki

病名が同じであっても、抱える困難や病状は人さまざまである

私は、虐待の後遺症による解離性障害の他、双極性障害も持ちあわせている。双極性障害は鬱と躁が交互に来る病気だが、私個人は鬱の症状が特に重く出るタイプだ。無論、症状の出方は人によりさまざまであり、病名が同じであっても、抱える困難や病状は十人十色である。

精神疾患は、得てして病名によるイメージが先行しがちで、覚えのあるパターンや症状から外れた訴えに対し、臆測だけで「詐病」だと軽々しく判断されるケースも少なくない。よって、このコラムの内容は、あくまでも「碧月はる」という人間の個人の話として読んでいただければ嬉しい。決して、双極性障害=「ここに書かれた内容がすべてではない」ことを、重ねて明記しておきたい。

「休むこと」が、怖かった

冒頭にも書いた通り、先日、大幅に体調を崩し、フリーランスのライターになって以来、初めての長い休暇を取った。およそ1週間ほどの休みを取り、心身の回復に努めたが、休みを取る前は「休むこと」がひたすらに怖かった。開業以来、幸いにも継続案件を幾つかもらえている現状において、心身の調子を崩していることをクライアントに伝えることが、怖かったのだ。

「知られたくない」

その思いが、あまりにも強かった。虐待の後遺症やメンタルの疾患を表で発信している私は、「仕事に穴を空けないこと」でしか信用を保てないと思っていた。一度穴を空けたら、「やっぱりね」と言われる。精神疾患を持つ人間が社会的にどんな目で見られるか、生命保険の加入さえ呆気なく拒まれるなどの経験を幾度となく繰り返してきた私は、表向きのきれいな言葉を、今ひとつ信用しきれずにいた。

しかし、とてもじゃないが、無理を続けられる状態ではなかった。取り返しのつかないことになる前に、なけなしの勇気を振り絞ってクライアントに相談した。すると、思いもよらぬ言葉が返ってきた。


「弊社は碧月さまに継続で発注をさせていただきたいので、お待ちさせていただきます。本当にご無理なさらず、ご自身のペースで療養していただければと思います」


温かなお返事を目にした途端、全身の力が抜けた。数か月にわたる仕事のやり取りを通して、自分が思っていた以上に、先方との信頼関係を築けていたことを知った。無理を重ねた結果、もし糸が完全に切れてしまったら、突然、音信普通になってしまっていた可能性もあった。そんな事態を避けられてよかった――思いきって相談してよかったと、心の底から安堵した出来事だった。

双極性障害の鬱期による症状一例

私の場合、重い鬱期に入ると、生活そのものを回すことさえ困難な状態に陥る。具体的に述べると、以下のような症状に悩まされることが多い。

  • お風呂に入れない(酷い時は1週間入れない場合も)
  • 食事が思うようにとれない
  • 外に出られない
  • 友人からのLINEなど、連絡ツールに届いたメッセージを開くことができない
  • 洗濯、掃除など、最低限の家事さえままならない
  • 強い希死念慮に駆られ、自殺企画をする

4つ目に該当する「メッセージを開くことができない」理由が、おそらく最も周囲に理解されづらいものであると思う。これに関しては、「開いたら即座に適切な返信をしなければならない」という思い込みが働くためと考えられる。

返信ひとつにそれほどの労力が必要なのかと不思議に思われるかもしれないが、相手のメッセージを読み、そこから内容、状況を把握して適切な返信を書き終えるまでに、私の場合は最低でも10分~15分を要する。複雑な事情が絡んだやり取りにおいては、30分以上かかることもザラである。

過去、最も鬱の症状が重かったとき、閉鎖病棟でオムツを装着されていた時期があった。要するに、排泄のためにトイレに行くことさえできなくなるのである。その状態を想像してもらえれば、「たかが返信ひとつ」が、重い鬱症状を抱える者にとって、いかに困難なものであるかがお分かりいただけると思う。

判断に迷ったら、ひとりきりで抱え込まず、すぐに周囲に相談を

今回、私は「休む」選択をした。結果、心身をしっかりと立てなおすことができ、仕事そのものを失う事態も免れた。しかし、「がんばる」と「休む」のバランスを保つのは、おそらく双極性障害を抱える多くの人の課題なのではないかと思う。

経験から言えるのは、判断に迷ったとき、ひとりきりで抱え込まずに周囲に相談することが何よりも大切だということだ。できれば、主治医やかかりつけのカウンセラーなど、病気に関する専門知識を持つ人に一番に相談することをお勧めしたい。ひとりで考え込むほどに、思考は堂々巡りになり、ずぶずぶと泥沼にハマる。そうなる前に、専門家からの客観的意見をもらい、判断の糧にすることで狭い視野から一歩外側へ抜け出すことができる。

私自身、双極性障害の波を、40歳になる今もうまく乗りこなせずにいる。躁状態のときは、原稿を1日に3本でも4本でも書けるのに、鬱に突入すれば3時間かかって1,000文字足らずなんてことも決して珍しくない。ベッドにパソコンを持ち込んで横たわったままキーボードを叩いていることもあるし、締め切り数時間前に解離から目覚めて、泣きそうになりながら文章と向き合っている夜もある。

正直、複数の精神疾患を抱えながら仕事を続けるのは、並大抵のことではない。それでも、「働く」道を閉ざされたくはないし、自ら閉ざしたくもない。この年にしてようやく出会えた、夢中になれる仕事だ。明日も明後日もその次の日も、ずっとずっと書いていたい。だから私は、できるだけ自分の心身の声に耳を澄ませている。

自分の悲鳴を無視しない。そんな当たり前のことを、これからも大切にしながら、働いて、生きていく。

エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。『DRESS』『BadCats Weekly』等連載多数。各メディア、noteにてコラム、インタビュー記事、小説を執筆。虐待サバイバーである原体験をもとに、虐待抑止の発信に力を入れている。書くことは呼吸をすること。

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